相続回復請求権

遺産の名義人が亡くなることによって相続が開始し、法定相続人が数人いる場合は、その遺産について、誰が相続するのか、どのように分けるのかという遺産分割協議をした後、相続手続きをするのが通常の手順です。

ところが、法定相続人のうちの一人が、他の法定相続人に相談し合意を得ないで、勝手に遺産を自分のものにした場合、他の法定相続人は、どのように対処したらよいでしょうか。

遺産が不動産の場合、数人の法定相続人のうちの一人の名義に相続登記をするには、他の法定相続人の実印や印鑑証明書が必要になるので、不動産については、法定相続人一人の名義に相続登記をすることは、印鑑証明書を偽造などしなければ登記ができないので、この場合、通常、勝手に一人の名義にすることは難しいといえます。

ところが、預貯金の場合はどうでしょうか。
預貯金の場合、遺産の名義人である被相続人が生前、キャッシュカードを持っていた場合、その暗証番号を法定相続人知っていれば、相続開始直後に預貯金を引き出すことは容易です。

相続開始後、金融機関は、預貯金の名義人が亡くなったという事実をどういう理由であれ認識すれば預貯金を凍結し、その時点から正式な相続手続きをしない限り、預貯金を引き出すことができなくなります。

この預貯金の凍結が行なわれるまで、窓口で引き出すことはできませんが、キョッシュカードがあり暗証番号が分かれば、引き出すことができます。

金融機関に対して正式な相続手続きをすることなく預貯金を引き出す行為は、法定相続人全員の合意があれば、問題ありません。
後々問題が起きないように銀行にとしては、正式な相続手続きをして引き出してほしいところですが、引き出すことに法定相続人全員が合意している場合は、問題がないといえます。

ただし、法定相続人全員が合意して預貯金を引き出した場合であっても、本来であれば、引き出した預貯金を分配したり、葬式費用に当てるなどの目的であったものを引き出した法定相続人が勝手に使い込むなどした場合は、別問題です。

また、引き出す行為そのものについての合意がないまま、法定相続人のうちの一人が、勝手に引き出した金銭を使い込みや自分のものにした場合も同様です。

これらの場合、他の法定相続人は、どのように対処したらよいでしょうか。

民法には、次の規定があります。

第884条(相続回復請求権)  
相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。

この条文の規定によって、他の法定相続人は、預貯金について相続権を侵害されたといえるので、勝手に引き出した金銭を使い込みや自分のものにした法定相続人に対して、侵害された法定相続分に相当する金額を自分に返還するよう請求することができます。
あるいは、預貯金を含めた遺産分割協議を請求することができます。

そもそも、遺産である預貯金の相続の場合、金融機関に対して残高証明書を請求することができます。
この請求は、法定相続人の権利として法定相続人のうちの一人から金融機関に対して請求することができます。
この場合、法定相続人であることを証明する必要があり、銀行指定の残高請求書に法定相続人が署名、実印を押印し、印鑑証明書、住民票、戸籍謄本、被相続人の除籍謄本を付けて請求します。

この残高証明書に記載される金額は、預貯金の名義人が亡くなった時点での金額となります。
この記載された金額を遺産分割協議の対象にします。

また、預貯金の名義人が亡くなった後に、引き出されている場合、引き出された金額やその内容を別途、金融機関に請求することもできます。
これによって、相続開始後いつ、いくら引き出されたかが判明します。