相続登記の「錯誤による所有権更正登記」の方法
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
相続登記をした後、登記をした名義人(共有持分)に誤りがあった場合、「錯誤による所有権更正登記」をすることが可能です。
ここでは、登記をした内容の「名義人(共有持分)に誤り」があった場合に、これを登記し直す方法について解説します。
ここで解説するのは、「名義人(共有持分)の誤り」が「申請人の申請行為」による場合です。
法務局(登記所)の誤記による場合は、法務局の職権更正で訂正してもらいます。
また、「相続登記をした」ことが遺産分割協議書による登記なのか、法定相続分による登記なのか、によって異なること(登記原因証明情報)がありますが、ここでは、「遺産分割協議書による相続登記」が誤りであった場合について解説します。
売買による所有権移転登記の「錯誤による所有権更正登記」は、相続登記の場合と異なる場合がありますので、次を参考にしてください。
不動産売買登記と名義変更登記のやり直し
錯誤による所有権更正登記
真正な登記名義の回復による持分移転登記
売買登記名義人(買主単独)の誤り:やり直す方法
相続登記をした後に新たに抵当権設定登記をした場合
相続登記をした後に新たに抵当権設定登記をした場合とは、例えば、相続人2名で各2分の1で相続登記をした後、新たに抵当権を設定登記した場合、名義人を相続人1名に錯誤で所有権更正登記をするには、抵当権者の金融機関の承諾書(印鑑証明書付き)が必要となります。
これは、所有権更正登記をする際に利害関係人がいる場合に該当しますので、利害関係人の承諾を要することになります。
利害関係人の承諾を要する場合の「錯誤による所有権更正登記」は、仮に、この承諾を得て、所有権更正登記ができる場合であっても、所有権更正登記のほかに、別の登記をすることになります。
別の登記については、こちら→真正な登記名義の回復による持分移転(名義人に変動がある場合)を参考にしてください。
相続登記をした後に新たに抵当権設定登記をしていない場合
これから解説します内容は、相続登記をした後に新たに抵当権設定登記をしていない場合です。
ただし、「新たに抵当権設定登記をした場合」であっても、相続登記をした名義人と所有権更正登記の名義人に変動がなく、単に共有持分を変えるだけの場合は、利害関係人の承諾を要しませんので、この場合は、問題なく錯誤による所有権更正登記をすることができます。
これについては、こちら→共有持分のみを間違って登記した場合(錯誤による所有権更正登記ができる)を参考にしてください。
相続登記の名義人(持分)に誤りがあったときの3つのパターン
相続登記で名義人(持分)に誤りがあった場合のパターンは、次の3つのほかにもありますが、ここでは典型的な3つのパターンについて解説します。
(1)単独名義としたことが誤りで、共有名義が正しかった場合
(2)共有名義としたことが誤りで、単独名義が正しかった場合
(3)共有名義としたことは間違いなかったが、共有持分を間違った場合
(私見)錯誤で所有権更正登記ができるのは、相続登記した名義人の一部を間違えて登記した場合に限られますので、例えば、相続登記した名義人が相続人Aである場合、これを相続人Bにするような場合には、登記した名義人の一部の間違いではなく、完全な間違いであるので、錯誤による更正登記はできないと考えます。これができるとする参考書籍がありません。この場合には、錯誤による所有権抹消と、改めて相続登記をすることになります。
(1)単独名義としたことが誤りで、共有名義が正しかった場合
例えば、遺産分割協議書による相続登記で、相続人(乙)1名単独所有としたことが誤りで、実は相続人2名(甲乙)(持分各2分の1)が正しかった場合です。
✖ 相続人(乙)単独名義 👇 🔴 相続人(甲)持分2分の1、相続人(乙)持分2分の1
遺産分割協議書を作成し直し
作成し直す遺産分割協議書の内容は、次のとおりです。(一部省略)
被相続人(氏名○○)(生年月日)の〇年〇月〇日死亡により開始した相続につき、相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。 相続人甲(氏名○○)、乙(氏名○○)は、次の不動産を各2分の1の割合で相続取得する。 【不動産】 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡
錯誤による所有権更正登記申請
所有権更正登記の必要書類
「単独名義人となる相続人」(甲)(権利者)
(1)住民票(新たな名義人となるので住所証明書が必要)
(2)認印
「持分2分の1の権利を失う相続人」(乙)(義務者)
(1)登記識別情報通知:相続登記により発行された登記識別情報通知
(2)印鑑証明書
(3)実印
(4)登記原因証明情報(遺産分割協議書とは別に作成して法務局に提出)
所有権更正登記の「登記原因証明情報」の作成
登記原因証明情報(所有権更正)の内容(一部省略)
1 登記申請情報の要項 (1)登記の目的 〇番所有権更正 (2)原 因 錯誤 (3)更正後の事項 共有者 (住所)○○ 持分2分の1 (甲)氏名○○ (住所)○○ 持分2分の1 (乙)氏名○○ (4)当事者 権利者 住所○○ (甲) 氏名 義務者 住所○○ (乙)氏名 (5)不動産の表示 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡ 2 登記の原因となる事実又は法律行為 (1)(現在の登記) ○○が死亡し、同人の共同相続人甲乙は、遺産分割協議書に基づき、本件不動産につき乙単独所有とする〇年〇月〇日相続を原因として所有権移転登記を完了した。(〇年〇月〇日受付第○○号) (2)(遺産分割協議書の誤り) しかし、その後、(1)の登記における本件不動産が記載された遺産分割協議書の内容が誤りであることが判明した。 本件不動産を相続したとする遺産分割:乙単独所有は誤りであり、正しくは、甲持分2分の1、乙持分2分の1で相続したものである。 (3)(所有権の更正) よって、(1)の所有権移転登記を次のとおり甲持分2分の1、乙持分2分の1に更正登記する必要がある。 更正後の事項 共有者 (住所)○○ 持分2分の1 (甲)氏名○○ (住所)○○ 持分2分の1 (乙)氏名○○ 〇年〇月〇日 ○○法務局 ○○支局・出張所 御中 上記の登記原因のとおり相違ありません。 義務者(乙) 住所・氏名 実印 権利者(甲) 住所・氏名 認印
所有権更正登記申請の内容
所有権更正登記申請書(一部省略)
登記の目的 〇番所有権更正 原 因 錯誤 更正後の事項 共有者 (住所)○○ 持分2分の1 (甲)氏名○○ (住所)○○ 持分2分の1 (乙)氏名○○ 権 利 者 住所○○ (甲)氏名○○ 義 務 者 住所○○ (乙)氏名○○ 登録免許税 金1,000円 不動産の表示 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡
所有権更正登記完了後の権利証(登記識別情報)
所有権更正登記が完了しますと、共有名義人となった甲には、登記識別情報通知(権利証)が発行されます。
(2)共有名義としたことが誤りで、単独名義が正しかった場合
例えば、遺産分割協議書による相続登記で、相続人甲乙2名(持分各2分の1)としたことが誤りで、実は相続人甲1名単独所有が正しかった場合です。
✖ 相続人(甲)持分2分の1、相続人(乙)持分2分の1 👇 🔴 相続人(甲)単独名義
遺産分割協議書を作成し直し
作成し直す遺産分割協議書の内容は、次のとおりです。(一部省略)
被相続人(氏名○○)(生年月日)の〇年〇月〇日死亡により開始した相続につき、相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。 相続人甲(氏名○○)は、次の不動産を相続取得する。 【不動産】 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡
錯誤による所有権更正登記申請
所有権更正登記の必要書類
「単独名義人となる相続人」(甲)(権利者)
(1)認印(住民票は不要)
「持分2分の1の権利を失う相続人」(乙)(義務者)
(1)登記識別情報通知:持分2分の1で相続登記により発行された登記識別情報通知
(2)印鑑証明書
(3)実印
(4)登記原因証明情報(遺産分割協議書とは別に作成して法務局に提出)
所有権更正登記の「登記原因証明情報」の作成
登記原因証明情報(所有権更正)の内容(一部省略)
1 登記申請情報の要項 (1)登記の目的 〇番所有権更正 (2)原 因 錯誤 (3)更正後の事項 所有者 住所・氏名 (4)当事者 権利者 住所○○ (甲) 氏名 義務者 住所○○ (乙)氏名 (5)不動産の表示 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡ 2 登記の原因となる事実又は法律行為 (1)(現在の登記) ○○が死亡し、同人の共同相続人甲乙は、遺産分割協議書に基づき、本件不動産につき甲持分2分の1、乙持分2分の1とする〇年〇月〇日相続を原因として所有権移転登記を完了した。(〇年〇月〇日受付第○○号) (2)(遺産分割協議書の誤り) しかし、その後、(1)の登記における本件不動産が記載された遺産分割協議書の内容が誤りであることが判明した。 本件不動産を相続したとする遺産分割:甲(持分2分の1)、乙(持分2分の1)は誤りであり、正しくは、甲が単独で相続したものである。 (3)(所有権の更正) よって、(1)の所有権移転登記を次のとおり甲の単独名義に更正登記する必要がある。 更正後の事項 所有者 住所・氏名 〇年〇月〇日 ○○法務局 ○○支局・出張所 御中 上記の登記原因のとおり相違ありません。 義務者(乙) 住所・氏名 実印 権利者(甲) 住所・氏名 認印
所有権更正登記申請の内容
所有権更正登記申請書(一部省略)
登記の目的 〇番所有権更正 原 因 錯誤 更正後の事項 所有者 住所・氏名 権 利 者 住所○○ (甲)氏名○○ 義 務 者 住所○○ (乙)氏名○○ 登録免許税 金1,000円 不動産の表示 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡
所有権更正登記完了後の権利証(登記識別情報)
所有権更正登記が完了しますと、単独名義人となった甲には、新たに登記識別情報通知(権利証)が発行されます。
この結果、「今後登記(売買など)する時に必要な」登記識別情報通知は、次のとおりです。
甲:2通
➠ 登記識別情報通知は、最初に相続登記をした時のものと、次に所有権更正登記をした時のもの両方が必要となります。
(3)共有名義としたことは間違いなかったが、共有持分を間違った場合
例えば、遺産分割協議書による相続登記で、相続人2名甲・乙の持分を各2分の1としたことが誤りで、実は相続人甲が4分の3、乙が4分の1が正しかった場合です。
名義人に誤りはなかったが、共有持分を間違った場合です。
✖ 相続人(甲)持分2分の1、相続人(乙)持分2分の1 👇 🔴 相続人(甲)持分4分の3、相続人(乙)持分4分の1
遺産分割協議書を作成し直し
作成し直す遺産分割協議書の内容は、次のとおりです。(一部省略)
被相続人(氏名○○)(生年月日)の〇年〇月〇日死亡により開始した相続につき、相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。 次の不動産を相続人甲(氏名○○)が4分の3の割合で、乙(氏名○○)が4分の1の割合で相続取得する。 【不動産】 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡
錯誤による所有権更正登記申請
所有権更正登記の必要書類
「共有持分が増える(2分の1から4分の3に)相続人」(甲)(権利者)
(1)認印(住民票は不要)
「共有持分が減る(2分の1から4分の1に)相続人」(乙)(義務者)
(1)登記識別情報通知:相続登記により発行された登記識別情報通知
(2)印鑑証明書
(3)実印
(4)登記原因証明情報(遺産分割協議書とは別に作成して法務局に提出)
所有権更正登記の「登記原因証明情報」の作成
登記原因証明情報(所有権更正)の内容(一部省略)
1 登記申請情報の要項 (1)登記の目的 〇番所有権更正 (2)原 因 錯誤 (3)更正後の事項 共有者 (住所)○○ 持分4分の3 (甲)氏名○○ (住所)○○ 持分4分の1 (乙)氏名○○ (4)当事者 権利者 住所○○ (甲) 氏名 義務者 住所○○ (乙)氏名 (5)不動産の表示 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡ 2 登記の原因となる事実又は法律行為 (1)(現在の登記) ○○が死亡し、同人の共同相続人甲乙は、遺産分割協議書に基づき、本件不動産につき甲持分2分の1、乙持分2分の1とする〇年〇月〇日相続を原因として所有権移転登記を完了した。(〇年〇月〇日受付第○○号) (2)(遺産分割協議書の誤り) しかし、その後、(1)の登記における本件不動産が記載された遺産分割協議書の内容が誤りであることが判明した。 本件不動産を相続したとする遺産分割:甲持分2分の1、乙持分2分の1は誤りであり、正しくは、甲持分4分の3、乙持分4分の1で相続したものである。 (3)(所有権の更正) よって、(1)の所有権移転登記を次のとおり甲持分4分の3、乙持分4分の1に更正登記する必要がある。 更正後の事項 共有者 (住所)○○ 持分4分の3 (甲)氏名○○ (住所)○○ 持分4分の1 (乙)氏名○○ 〇年〇月〇日 ○○法務局 ○○支局・出張所 御中 上記の登記原因のとおり相違ありません。 義務者(乙) 住所・氏名 実印 権利者(甲) 住所・氏名 認印
所有権更正登記申請の内容
所有権更正登記申請書(一部省略)
登記の目的 〇番所有権更正 原 因 錯誤 更正後の事項 共有者 (住所)○○ 持分4分の3 (甲)氏名○○ (住所)○○ 持分4分の1 (乙)氏名○○ 権 利 者 住所○○ (甲)氏名○○ 義 務 者 住所○○ (乙)氏名○○ 登録免許税 金1,000円 不動産の表示 ○○市○○町〇番○ 宅地 ○○㎡
所有権更正登記完了後の権利証(登記識別情報)
所有権更正登記の前後で、名義人に変動がない場合、登記識別情報通知(権利証)が発行されません。持分のみ更正登記する場合は、持分が増える甲であっても登記識別情報通知が発行されません。
その他の所有権更正登記の方法
次を参考にしてください。
相続登記した所有権更正の方法(共有の名義人を間違い、共有持分を間違った場合)
錯誤による所有権更正登記については、当司法書士事務所にご相談ください。
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