- 相続登記と預貯金など相続手続で、遺言執行者選任が必要な場合と申立方法(横浜市・川崎市・神奈川県内・東京都内・日本全国対応)
- 相続登記、預貯金の相続手続や遺言書、遺言執行者については、当司法書士事務所にご相談ください。
相続登記と預貯金など相続手続で、遺言執行者選任が必要な場合と申立方法(横浜市・川崎市・神奈川県内・東京都内・日本全国対応)
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
遺言書で相続登記や預貯金など相続手続を行うとき、遺言書に遺言執行者が指定されて(書かれて)いないことで、遺言執行者選任が必要な場合と申立方法について解説します。
遺言執行者(いごんしっこうしゃ)とは、遺言の内容を実現(実行)する人のことをいいます。
もし、遺言書に遺言執行者が指定されていない(書かれていない)ときは、場合によって、遺言の内容を実行することが難しくなる場合や実行できない場合があります。
このようなときは、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申立て、選任された遺言執行者が手続を行うことになります。
公証役場で作成された遺言書(公正証書遺言書)であれば、通常、遺言執行者が指定されています。
自筆証書遺言書(遺言者・被相続人が生前、自分で書いた遺言書)の場合は、遺言者が遺言執行者を指定することを書き漏らすことがよくあります。
公正証書遺言書、自筆証書遺言書、どちらにしても、遺言執行者が指定されているかどうかをよく確認します。
まず、事例で、遺言執行者がいなくても相続(登記)手続ができるのか、いない場合は、手続ができないかどうかを検討してみます。
【事例(1)「相続させる」の場合】遺言執行者の選任が必要かどうか
遺産:不動産と預貯金
被相続人:夫
相続人 :妻(配偶者)、子AとB
遺言書の内容
- 「遺言執行者が指定されていない。」
- 「不動産は、妻に相続させる。」
- 「預貯金は、妻に3分の2、子Aに3分の1の割合で相続させる。子Bには相続させない。(ただし、子Bには遺留分がある。)」
- その他、「不動産は、妻と子Bに各2分の1の割合で相続させる。」の場合
不動産の相続登記の方法:「相続させる」の場合
「不動産は、妻に相続させる。」
この遺言書の内容で、妻は、遺言執行者が指定されていない場合であっても、妻が自分で名義変更(相続登記)ができます。遺言執行者選任の申立てをする必要がありません。
これは、民法改正後(令和元年7月1日以降)であっても、妻は単独で相続登記をすることができます。
この理由は、不動産を相続で取得した相続人であれば、遺言執行者に相続登記をさせることなく、不動産を相続人が取得したので、当然、単独で相続登記をすることができます。
これについては、次を参考にしてください。
令和元年7月1日以降に作成された遺言書 (相続人に「相続させる。」)
預貯金の相続手続の方法:相続手続に非協力(協力不可能)の相続人がいる「相続させる」の場合
遺言書の内容:「預貯金は、妻に3分の2、子Aに3分の1の割合で相続させる。子Bには相続させない。(ただし、子Bには遺留分がある。)」
金融機関で、預貯金の相続手続(解約払戻し請求)をする場合、遺言書・戸籍関係書類の他に、金融機関の解約払戻し請求書には、妻と子Aの実印と印鑑証明書が必要です。
もし、子Aが金融機関の手続に協力しない(できない)場合は、このままでは、相続手続ができないことになります。
そこで、協力しない(できない)相続人子Aがいるときは、遺言執行者の選任を家庭裁判所に申立て、遺言執行者を選任してもらう必要があります。
そうすれば、選任された遺言執行者が、金融機関で相続手続を行うことができます。
ただし、協力しない(できない)相続人子Aがいる場合であっても、遺言書で、妻は、預貯金の3分の2を相続することになるので、理論的には、妻は、預貯金の3分の2を単独で相続手続(解約払戻し請求)ができることになります。
これは、各金融機関の対応の仕方の問題がありますので、もし、金融機関で、妻が単独で相続手続(解約払戻し請求)ができないということであれば、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てをして、選任された遺言執行者が相続手続(解約払戻し請求)をすることになります。
不動産の相続登記の方法:「相続させる」の場合で、不動産を取得した「非協力(協力不可能)の相続人」がいる場合
例えば、遺言書で、「不動産は、妻と子Bに各2分の1の割合で相続させる。」
この場合、子Bが相続登記に協力しない(できない)場合は、どうでしょう。
登記の原因を「相続」で登記する場合、不動産を相続で取得する相続人の必要書類が揃っているのであれば、取得した相続人の1名から相続登記をすることができます(民法の保存行為として(第252条但書)。遺言書で相続登記をする場合、遺言書の内容で取得する相続人が確定しています。
ここで、「子Bが相続登記に協力しない(できない)。」という意味は、遺言書のほか必要書類があるが、Bの登記申請書に押印する印鑑がない場合のことを言います。または、相続登記を司法書士に依頼する場合の「委任状」に子Bが署名捺印しない(できない)場合のことをいいます。
この場合であっても、妻は、単独で、妻と子B名義に相続登記を申請することができます。ただし、登記完了後、申請人となった妻には、登記識別情報通知が発行されますが、申請人とならなかった子Bには、登記識別情報通知が発行されません。
妻が、単独で相続登記を申請できるとはいっても、妻の名義(持分2分の1)だけを登記できません。子Bの名義(持分2分の1)も一緒に申請する必要があります。
遺言書で、「不動産は、妻と子Bに各2分の1の割合で相続させる。」と記載されている場合で、不動産を取得した「非協力(協力不可能)の相続人子B」がいる場合であっても、遺言執行者を選任することなく、相続登記ができることになります。
【事例(2)「遺贈する」の場合】遺言執行者の選任が必要かどうか
遺産:不動産と預貯金
受遺者(遺言書で遺産を譲り受ける相続人以外の第三者(稀に相続人の場合もある。)
被相続人:夫
相続人 :妻(配偶者)、子AとB(妻と子A・Bには遺留分がある。)
遺言書の内容
「遺言執行者が指定されていない。」
「不動産と預貯金すべてを○○(第三者)に遺贈する。」
不動産の「相続登記(実際は「遺贈登記」)」の方法
遺言書で相続人以外の第三者に遺贈する場合、次の方法で登記します。
遺贈の登記の方法は、遺贈の登記(遺言書がある場合の遺贈の登記)を参考にしてください。
遺贈の登記申請は、受遺者(権利者)と義務者の共同で申請します。
相続登記のように、受遺者が単独で申請することができません。
遺贈登記の場合の申請人(権利者・義務者)は、遺言執行者が指定されていない場合は、申請書に次のように記載します。
この場合、「義務者」となるのは、相続人全員です。事例の場合、妻と子A・Bの3名が「義務者」となります。
登記申請書(一部省略)
原 因 〇年〇月〇日遺贈
権利者 (住所)○○
(氏名)○○
義務者 (住所)○○
(氏名)妻 ○○
(住所)○○
(氏名)子A ○○
(住所)○○
(氏名)子B ○○
添付情報
登記原因証明情報 登記済(権利)証(あるいは登記識別情報) 印鑑証明情報
住所証明情報 (代理権限証明情報) 評価証明情報
法定相続人の妻と子A・Bが「義務者」として申請する場合は、この3名の「実印」と「印鑑証明書」が必要ですし、「登記済権利証あるいは登記識別情報」が必要です。この「登記済権利証あるいは登記識別情報」は、被相続人・遺言者が持っていた(被相続人・遺言者名義の)ものです。
この登記の申請方法の場合のように、法定相続人の妻と子A・B以外の第三者が権利者(受遺者)となる場合、法定相続人の妻と子A・Bは、「義務者」として登記の申請に協力することを渋ることがよくありうることです。
そこで、法定相続人の代わりに、遺言執行者が「義務者」となる場合の登記の方法は、次のとおりです。「遺贈による登記」は、「義務者」が法定相続人全員か、遺言執行者、どちらでも登記することができます。
登記申請書(一部省略) 原 因 〇年〇月〇日遺贈 権利者 (住所)○○ (氏名)○○ 義務者 (住所)○○ (氏名)(被相続人) ○○ (住所)○○ (氏名)遺言執行者 ○○ 添付情報 登記原因証明情報 登記済(権利)証(あるいは登記識別情報) 印