相続登記(不動産名義変更)の必要性

相続登記(不動産名義変更)とは、不動産の登記名義人が亡くなった場合に、その不動産の登記名義を相続人(遺贈の場合には受遺者)に変更する手続です。
すなわち、土地、建物を相続によって取得した場合に、被相続人(亡くなった登記名義人)から相続した人(遺贈の場合には受遺者)に名義変更する手続きです。

執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)

相続登記に期限はありますか?:早めに登記した方が安心

相続登記を、いつまでにしなければならないという期限は現在ありませんが、自分が相続によって取得した権利を確定しておきませんと、不確定のままだですと、将来、手続を行うときに相続人が増えることになったり、相続人間で争いが生ずる可能性があります。
また、令和6年4月1日から相続登記の義務化が開始されます。
自分の権利を確定しておいた方が安心です。そのために早めに相続登記をします。

相続登記(不動産名義変更)の義務化

令和3年4月28日公布された民法改正により、公布後3年以内の政令で定める日(令和6年4月1日)から相続登記の義務化が開始されます。

相続開始により不動産の取得を知った日から3年以内に登記しなければならなくなります。
施行日 (令和6年4月1日) の前に不動産の相続取得を知った場合、施行日から3年以内に登記しなければなりません。
相続登記をしない場合、10万円以下の過料に処せられます。(正当な理由がある場合を除く。)
詳しい内容については、相続登記の義務化と相続人申告制度:令和6年4月1日からを参考にしてください。

ほかの手続をする前に相続登記が必要

相続により取得した不動産を売却する、贈与する、担保権(抵当権や根抵当権)を設定する、担保権を抹消する場合には、基本的に相続登記をしておく必要があります。
相続登記をしないで、これらの売却や贈与、担保権の設定登記、抹消登記をすることができません。

不動産の売却

不動産を売却する場合、登記されている登記名義人が売買契約の売主となります。この売主は、現に生存している人でなければなりません。すでに亡くなっている人を売主とすることはできません。

なぜなら、売買契約書に署名・捺印することができる人は、現に生存している人に限られるからです。すでに亡くなっている人が、署名・捺印することができません。
すでに亡くなっている人には、不動産を売るという意思も存在しないからです。

また、不動産の売却によって、買主名義に変更する場合、登記申請書には売主の印鑑証明書を添付して、登記所に提出します。
すでに亡くなっている人の印鑑証明書を取得することは不可能ですので、このことからも、相続登記により相続人への名義変更をしてからでないと、売却による登記申請ができないということになります。

相続不動産を売却する場合、相続登記をして、不動産の名義人を確定した後、売買契約を締結するのが基本です。

相続登記が必要な不動産の売買の場合、相続登記をしていない段階で、売買契約を締結する場合があります。このことは、売買契約締結時には名義人となる相続人が確定していない段階での売買契約締結を意味します。
この場合は、売買代金決済までに相続登記をすることになります。また、相続登記を売買代金決済終了後の「売買による所有権移転登記」と一緒に行う場合が稀にあります。
このような手法(売買契約締結時に相続登記が完了していない手法)は、相続登記ができるかどうか不明な状態、不安定な状態で売買契約を締結することになります。
「相続登記」とはいっても、相続人の人数や相続関係によっては簡単に書類などが集められない場合もあります。もし、相続登記に必要な書類を集めることができず、結果として、相続登記ができないという事態となれば、売買契約を履行することができないことになります。
そうしますと、売主にとっては不動産の引渡までに相続登記ができないということは、売買契約を履行できないことになりますので、契約違反となります。また、買主にとっては、不動産を取得できないことにより、当初予定していたことができないことになります。
結局、相続不動産の売却(売買)の場合は、相続登記をして売主である名義人を確定してから売買契約を締結した方が安心・確実であると言えます。

不動産の贈与

贈与の場合も同じことが言えます。贈与契約書には、贈与する人が署名・捺印をします。なぜなら、贈与契約書に署名・捺印することができる人は、現に生存している人に限られるからです。すでに亡くなっている人が、署名・捺印することができません。
すでに亡くなっている人には、不動産を贈与するという意思も存在しないからです。

また、不動産の贈与によって、贈与を受けた人(受贈者)名義に変更する場合、登記申請書には贈与する人(贈与者)の印鑑証明書を添付して、登記所に提出します。
すでに亡くなっている人の印鑑証明書を取得することは不可能ですので、このことからも、相続登記により相続人への名義変更をしてからでないと、贈与による登記申請ができないということになります。

不動産の担保権設定・登記

金融機関との担保権(抵当権や根抵当権)の設定契約と設定登記の場合も同じことが言えます。

抵当権の抹消登記

担保権(抵当権や根抵当権)の抹消登記の場合も同じです。
ただし、共有者(不動産の所有者が2名以上)の一人が亡くなっている場合には、他の生存している共有者の一人が抹消登記申請できます。これは、民法上の「保存行為」によりできるからです。
(当事務所では、過去、何回もこの方法で抹消登記をしています。)

ただし、次の場合は、相続登記をしなければ抹消登記を申請することができません。
例えば、土地の名義が被相続人AとB、建物の名義が被相続人Aの場合、建物が被相続人Aの単独名義であるので、土地も建物も相続登記をしてからでないと抹消登記を申請することができません。
これが、土地の名義が被相続人AとB、建物の名義も被相続人AとBの場合は、相続登記をすることなくBが保存行為として抹消登記を申請することができます。

次のページを参考にしてください。
共有者の一人から抵当権抹消登記申請
名義人が死亡したときの抵当権抹消登記(方法)

自分の権利確保のための相続登記

相続登記をしないで何年、何十年も経過した場合、法定相続分(法律で定められた相続の割合)は、相続登記をしなくても第三者に主張することができますが、遺産分割協議によって法定相続分とは異なった相続分や相続の仕方をした場合には、相続登記をしなければ、第三者に主張することができません。このことから自分の権利確保のため、必ず相続登記をする必要があります。

相続が開始した後、相続登記をしないうちに、さらに、次の相続が開始した場合(これを数次相続といいます。)

第1の相続が開始して相続登記をしないでそのままにしていたところ、第2の相続が開始した場合には、新たな相続関係が発生し、別の法定相続人が登場することになり、第3、第4と相続が続く場合には、ますます相続関係が複雑になります。

例えば、いざ、相続不動産を売却しようとする場合には、相続関係が複雑で法定相続人も多数登場することから、話し合いの内容、用意する書類など困難を極め、実際、売却するまで相当な時間を要することになります。
したがって、相続登記を早めにする必要があります。

まとめ

不動産を売却する場合、担保に供する場合、例えば、相続した不動産を売却したい場合、金融機関からの借り入れにともない、相続した不動産を金融機関に担保として提供する場合には、相続人名義に変更登記をしてからでないと、その後の手続ができないことになります。

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