遺言書作成の注意点

遺言書作成で注意すること

改正相続法により、今後ますます、遺言書作成が増加すると思われます。
遺言書を作成することで、基本的に相続争いを回避することができ、相続手続をスムーズに行うことができるからです。

そこで、遺言書を作成する人、遺言者は、遺言書を作成するときには、次のことに注意した方がよいでしょう。遺言書作成の基本的なことは、遺言書作成講座を参考にしてください。
また、遺言書を作成する前に事前準備が必要な場合があります。この場合は、相続登記のための遺言書作成【事前準備・事例】を参考にしてください。

遺言書作成方法

遺言書の作成は、公証人役場で作成する公正証書遺言で行ったり。あるいは、自筆証書遺言で行う場合は、法務局での保管制度を利用して遺言書を作成します。(ただし、法務局での保管制度を利用しない方法もあります。)

これは、相続が開始したとき、迅速に遺言の内容を実現するためです。
自筆証書遺言書の作成を、法務局の保管制度を利用しない場合は、家庭裁判所の検認手続、すなわち、家庭裁判所で相続人全員での確認手続が必要となります。そうしますと、遺言内容を迅速に行うことができなくなります。

ということで、自筆証書遺言で行う場合は、法務局での保管制度を利用して遺言書を作成した方がよいでしょう。ただし、この場合、相続開始後、遺言書情報証明書を登記所で取得する必要があります。この遺言書情報証明書で相続手続を行います。結構、面倒な作業です。
遺言書があるときは、どうすればよいのかを参考にしてください。

遺言書を作成するときは、遺言執行者を決めます。
公証人役場で作成する公正証書遺言書では、公証人が必ず、遺言執行者を誰にしますか、と聞きます。そうしますと、遺言執行者を決めることになります。
自筆証書遺言書の場合、遺言執行者の記載がないことが、たぶんにあります。
この場合、遺言の内容を実行するのが難しくなってしまう場合があります。

特に遺贈の場合です。相続人以外の人に、遺産をあげる場合が遺贈です。
不動産の名義変更登記をする場合、遺贈を登記原因として登記するとき、登記権利者、登記義務者で登記することになります。これを共同申請といいます。
遺贈の場合は、登記権利者が遺贈を受ける人、受遺者となり、登記義務者は、遺言執行者がいるときは遺言執行者となります。
もし、遺言書に遺言執行者が記載されていなければ、相続人全員が登記義務者となってしまいます。

遺言執行者が指定されていないときは、相続人が、例えば3人いるときは、相続人3人の印鑑証明書と実印の押印が必要となってしまいます。この場合、相続人の一人でも協力しない相続人がいれば、遺言内容を実行できなくなります。
これが遺言執行者が記載されていれば、遺言執行者の印鑑証明書と実印の押印だけで足りてしまいます。

もっとも、遺言書に遺言執行者が記載されていない場合、家庭裁判所に遺言執行者選任の申立てができますが、この手続で1か月ほどかかることから、遺言内容をスムーズに実行できないことになります。
遺言執行者は、遺贈を受ける人(受遺者)自身でも、相続人自身でもなれますので、必ず遺言執行者を決めた方がよいでしょう。
遺贈の登記(遺言書がある場合の遺贈の登記)を参考にしてください。

遺言書の遺産の内容を明確に記載します。
相続法が改正され、自筆証書遺言書の作成方法が緩和されました。
これは、遺産の内容を財産目録として、遺言書本文とは別にして作成できることにしたことです。
これは、遺産の内容を明確にするという意味で、従来よりもよくなると思います。
ただし、従来の遺言書もそうであったように、遺言内容を確実に実行できるようにするには、財産目録に記載ミスがないようにします。このことは当然のことと言えば当然のことです。

ここでの問題は、記載ミスというよりも、遺産の書き漏れがないようにするということです。
遺産の書き漏れがあれば、書き漏れた遺産は実行できないことになってしまうからです。
このことは冗談ではなく、そんなことはないでしょうということではなく、実際に、よくありうることだからです。
特に不動産の名義変更の場合です。これは何も、遺言者が自分で作成する自筆証書遺言書に限ったことではありません。
一般の人が自分で遺言書を作成するときのほか、公証人役場で作成するときにも、ありうることです。

相続人に不動産を取得させたいときの遺言書の文言は「相続」

遺言で、相続人に「相続させる」と「贈与する」どちらがいいでしょうか。

公正証書遺言書、自筆証書遺言書など法律上の遺言形式で遺言書を作成するとき、特定の不動産を特定の相続人のものにさせるには、「〜に相続させる」にした方がよいのか、「〜に贈与する」あるいは「〜のものとする」どちらがよいでしょうか。

登記原因が「相続」の場合の登記申請人(登記申請権限):単独申請

  • 令和1年6月30日までに作成された遺言:相続人
  • 令和1年7月1日以降に作成された遺言遺言執行者または相続人

登記原因が「遺贈」の場合の登記申請人(登記申請権限):共同申請
法改正の前後を問わず、

  • 登記権利者:受遺者(遺贈を受ける人)
  • 登記義務者:遺言執行者または共同相続人(遺言執行者が指定されていない場合)

このように登記原因が「相続」か「遺贈」かの違いによって、登記申請人が違ってくることになります。
この二つのうち、登記原因が「相続」であれば申請人の単独申請であることから、登記原因が「相続」であれば申請がしやすい、申請に必要な書類も少なくて済むということがいえます。

「贈与する」あるいは「ものとする」の場合、これによる遺言は、「遺贈」と判断され、遺言執行者がいれば遺言執行者が、いなければ共同相続人が義務者となり、遺贈を受ける相続人(受遺者)が権利者となって登記申請します。

登記所の判断も、「相続させる」の場合の登記原因を「相続」とし、「遺贈する」は、もちろんのこと、「贈与する」、「ものとする」の場合は、登記原因を「遺贈」としています。

ですから、「相続させる」の場合は、相続人(遺言執行者)が単独で申請し、これ以外の文言は「遺贈」とし、単独申請はできず、共同申請となります。

遺言書を作成する場合、特定の相続人のものにさせたいときは、「〜に相続させる」という文言を使うのがよいでしょう。

相続登記の相続と遺贈の違い(相続相談)を参考にしてください。
「相続」または「遺贈」による登記の必要書類については、相続登記の必要書類を参考にしてください。

相続人(取得者)・受遺者が遺言者より先に死亡すると、遺言が無効となる

遺言書作成 →受益者(相続人・受遺者)死亡 →遺言者死亡
例えば、遺言書の内容として「遺言者は、○○(誰々)に○○を相続させる。」あるいは、「遺言者は、○○(誰々)に○○を遺贈する。」
この場合、どちらも、遺言書の内容が無効となります。
ただし、このようなことを想定して、例えば、「受益者が遺言者の先に死亡した場合は、受益者に代わって○○に相続させる。○○に遺贈する。」としておけば、遺言書どおりに遺言を執行できます。

民法
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
第九百九十四条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
第九百九十五条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

民法 | e-Gov法令検索

事例:不動産の記入漏れ

私が取り扱った案件では、次の事例があります。
遺言者が内縁の妻に対して、居住用の不動産を遺贈するという内容の公正証書遺言書です。
この場合、内縁の妻が住んでいる居住用の不動産、敷地と建物は、当然のことながら遺言書に記載されています。

ところが、敷地に隣接する私道については、遺言書に記載がありませんでした。
私道は、登記上の持分が10分の1と記載されています。
このことから、内縁の妻が住んでいる敷地と建物しか名義変更登記できません。
私道については、内縁の妻の名義とすることができません。
私道は、遺言者の相続人が取得することになります。

内縁の妻が私道の持分を持つことができないということは、実際はともかく、法律上基本的に私道を通ることもできないし、車で通行することもできません。ただし、囲繞地通行権で通れるということはあります。
また、内縁の妻が将来、この敷地と建物を売却したいと思っても、公道まで出るための私道を権利として持っていないと、実際には簡単に売ることができません。

ということで、折角、遺言者が遺言書を書いて、内縁の妻に遺言書を書いても、不動産の権利として不完全な状態となってしまいます。
内縁の妻は、私道の持分10分の1について、遺言者の相続人と交渉して、私道の権利を取得するという面倒なことになってしまいます。

私がこのこと、遺言者が私道の持分10分の1を持っているということに気が付いたのは、権利証で確認したからです。
遺贈の場合、遺言者が持っていた権利証を登記所に提出する必要があることから、この権利証に記載された不動産の表示を見たところ、私道の記載があったためです。

こういうことがなぜ起きるのかと申しますと、次のことが原因です。

公証人役場で作成するとき、司法書士など専門家が遺言書の原案を作成して、遺言者の代わりに公証人と打ち合わせをする場合は、こういうことが起きにくいです。
こういうことが起きてしまうのは、特に司法書士など専門家を通すことなく、遺言者が直接、公証人役場に行って、こういう内容の遺言書を作ってください、という場合に起きます。
公証人は、公証人の手数料を計算する必要もあり、当然、不動産を特定して、遺言書に記載する必要があることから、「固定資産税の納税通知書」または、固定資産税の評価証明書を持ってくるように言います。
それと、登記事項証明書を持ってくるようにも言います。

この場合、公証人が重視する書類は、この「固定資産税の納税通知書」または固定資産税の評価証明書です。
納税通知書の2ページ目以降には、不動産の明細が記載されています。
不動産の所在、地番や面積です。公証人の手数料を計算するための、評価価格も記載されています。

ここでの問題は、「