- 遺産分割協議書の書き方
- 遺産分割協議書の作成が必要な場合
- 遺産分割協議書の見本
- 遺産分割協議書の書き方(個別に説明)
- 遺産分割協議書の書き方(その1)1通の遺産分割協議書に相続人全員が連名で署名捺印しないといけないのか
- 遺産分割協議書の書き方(その2)遺産分割協議書に記載する遺産の内容は、すべての遺産を記載しないといけないのか
- 遺産分割協議書の書き方(その3)遺産分割協議書を作成する通数(枚数)
- 遺産分割協議書の書き方(その4)「被相続人」の書き方
- 遺産分割協議書の書き方(その5)「相続人○○は、次の遺産を取得する。」の書き方
- 遺産分割協議書の書き方(その6)「不動産」の書き方
- 遺産分割協議書の書き方(その7)「預貯金」「生命保険金」「国債」「自動車」の書き方
- 遺産分割協議書の書き方(その8)「債務」の書き方
- 遺産分割協議書の書き方(その9)「祭祀承継者」の書き方
- 遺産分割協議書の書き方(その10)「その他」の書き方:代償分割・換価分割
- 遺産分割協議書の書き方(その11)相続人の署名・捺印(実印の押印)
- 遺産分割協議書の書き方(具体例)
遺産分割協議書の書き方
遺産分割協議が成立して(遺産分割について話し合いがまとまった場合)遺産分割協議書を作成します。これに相続人全員が署名・実印を押印(鮮明に)します。
遺産分割協議書の用紙の大きさに制限はありません。通常のコピー用紙A4版でOK。
ただし、遺産分割協議書が2ページ以上になるときは、相続人全員の割印が必要です。
登記所では、少しの記入ミスでも訂正を求めますので、できれば、遺産分割協議書の最初または最後のページに「訂正のための捨印」があった方がよいでしょう。
捨印を押すのを嫌がる相続人がいるときは、5回くらいチェックして間違いがないことを確認してから署名捺印(実印を押印)してもらいましょう。(それでも、ご自分の住所の記入を間違える人もいます。訂正しなければなりません。)
遺産分割協議書の作成が必要な場合
遺産分割協議書は、相続人の法定相続分とは異なる相続の仕方(遺産分割)をする場合に作成します。相続登記に必要な書類と一緒に法務局(登記所)に提出します。また、遺産分割協議書は、登記申請書の「登記原因証明情報」の一部の書類となるものです。
ただし、民法の規定に従って法定相続分で遺産を分配する場合は、遺産分割協議書を作成する必要はありません。これは、民法の規定から明らかだからです。
遺産分割協議書の見本
遺産分割協議書の見本は、次のとおりです。このような形式で遺産分割協議書を作成します。
遺産分割協議書の書き方(個別に説明)
遺産分割協議書の書き方について個別に説明します。
遺産分割協議書の書き方(その1)1通の遺産分割協議書に相続人全員が連名で署名捺印しないといけないのか
遺産分割協議書に署名・実印を押印する相続人は、連名で記載するのが基本ですが、事情によっては相続人ごとに個別に遺産分割協議書を作成しても問題ありません。
遺産分割協議書を相続人全員の連名で作成すれば、自分を含めてほかの人が、確かに署名捺印(実印)をしていることを確かめることができます。
ですが、例えば、相続人の人数が多い場合(10名など)、相続人が遠方に住んでいる場合など、連名での作成が難しい場合は、遺産分割協議書を相続人ごと個別に作成しても問題ありません。
この場合、遺産分割協議書の中に「なお、相続人は、○○、○○、○○・・・である。」と相続人全員の氏名を記載しておけばよいでしょう。
また、相続人の個別の遺産分割協議書では、これに記入する日付は、各相続人が記入する日付が異なっていても問題ありません。(過去、法務局や金融機関で通用しています。)
相続人ごとに個別に作成する方法として、「遺産分割協議証明書」という遺産分割協議書とは、多少、文章の内容が異なりますが、「遺産分割協議証明書」という書面でも問題ありません。この場合の日付も、各相続人が(異なる)日付を記入します。
遺産分割協議書の書き方(その2)遺産分割協議書に記載する遺産の内容は、すべての遺産を記載しないといけないのか
遺産分割協議書に記載する遺産の内容は、すべての遺産を記載しても、一部の遺産を記載しても問題ありません。
遺産分割協議書に記載する遺産の内容は、すべての遺産分割について協議が成立した証(あかし)として作成するのが基本です。この理由は、遺産のすべて(種類・金額)について相続人が理解し、そのうえで、これらをどのように遺産分割するのかを協議(話し合い)するのが遺産分割協議の基本だからです。また、遺産分割について、改めて何度も協議することは、かえって相続人間で煩わしいことにもなるからです。
ただし、そうは言っても、相続人間での煩わしさを感じない場合や、とりあえず一部の遺産について分配を決める場合は、一部の遺産について遺産分割協議が成立すれば、一部の遺産についての遺産分割協議書を作成することもできます。これは、相続人間での話し合いがスムーズに行われるであろうことが前提です。
遺産の一部について遺産分割協議書を作成する必要がある場合は、次のような事例です。
(1)被相続人が生前、不動産の売買契約を締結したが、この締結後に死亡した場合です。
この場合は、買主への引渡期限が契約書に記載されていますので、速やかに相続登記をする必要があります。これは、引渡期限までに買主への引渡しができない場合、買主から契約を解除されたり、損害金の支払いに応じなければならなくなるからです。
(2)被相続人所有の不動産を早急に売却しなければならない事情がある場合、この不動産について遺産分割協議書を作成する必要がある場合です。
遺産分割協議書の書き方(その3)遺産分割協議書を作成する通数(枚数)
遺産分割協議書を作成する場合、作成する通数(枚数)については、相続人の人数・遺産分割の仕方によって異なります。また、作成する通数は、通数の必要性によっても異なります。次の通数となります。相続人の希望を確認します。
- 遺産分割の仕方や必要性とは関係なく、とにかく相続人の人数分を作成する。
- 遺産分割でまったく相続しない人の分は作成しない。相続する人の分だけを作成する。
例えば、不動産を相続人の1名が遺産分割で取得する場合、取得しない相続人は、自分が取得しないことを分かっていて、この遺産分割協議書を持っていても使うことがないので、この人の分は作成しない。
不動産を遺産分割で取得する相続人は、遺産分割協議書で相続登記をするので、必然的に必要となる。 - 例えば、相続人が3名いる場合、1名は相続しないで2名が相続する場合、遺産分割で相続しない1名には必要性がないので作成しない。相続する2名は必要性があるので作成する。この場合、2通作成する。
- 例えば、相続人が3名いる場合、遺産分割で3名とも相続する場合、3名とも必要性があるので作成する。この場合、3通作成する。
- 遺産分割協議書の内容で、被相続人の「債務」が記載されている場合、遺産分割で債務を負わない相続人の分も遺産分割協議書を作成する。
債務を負わないことを確認するためにも、債務を負わない相続人の分も遺産分割協議書を作成する。
(ただし、債務を負わない旨、相続人間で合意したとしても、これで債務を免れるわけではない。完全に債務を免れるためには債権者の同意が必要。少額の債務は相続した人が支払うことはできても、高額な債務の場合は、特に債権者の同意が必要。)
例えば、遺産の種類が多い場合、相続手続をする相続人が遺産分割協議書1通を持っている場合は、この手続を順番に行なう必要があります。そうしますと、手続完了までの時間がかかります。早く手続を完了したい場合は、手続をする相続人に必要な通数の遺産分割協議書を持たせることで手続完了までの時間を短縮することができます。
ただし、相続人全員の印鑑証明書も同じ通数を用意する必要があります。
また、被相続人・相続人の除籍謄本や戸籍謄本もその分余計に用意しないといけません。この場合は、「法定相続情報一覧図の写しの証明書」をその通数分取得した方がよいでしょう。
遺産分割協議書の書き方(その4)「被相続人」の書き方
遺産分割協議書には、まず最初に、死亡した被相続人について書きます。次のどの書き方でも問題ありません。
- 「被相続人○○の令和〇年〇月〇日死亡による相続が開始したため」・・・
(当事務所では、当初、この書き方を採用していました。) - 「被相続人○○(昭和〇年〇月〇日生)の令和〇年〇月〇日死亡による相続が開始したため」・・・
(当事務所では、被相続人をより特定しやすいようにこの書き方を採用しています。) - 被相続人○○
本籍 ○○
最後の住所 ○○
生年月日 ○○
死亡日 ○○
被相続人についての書き方で、上の1.「被相続人○○の令和〇年〇月〇日死亡による相続が開始したため」 で問題がない理由は、次のとおりです。
不動産の名義変更(相続登記)では、遺産分割協議書に書かれている被相続人が登記されている名義人と同一人物かどうかを確認します。
このことは、次の書類で確認します。
被相続人の除籍謄本(被相続人の氏名・生年月日・死亡日が記載)
被相続人の住民票除票(被相続人の氏名・最後の住所・生年月日・死亡日が記載)
相続人の戸籍謄本(相続人の氏名・生年月日・両親の氏名が記載)
登記名義人の被相続人は、登記上、住所と氏名で特定します。このため、まずは、住民票除票で被相続人の死亡時の住所で確認します。(最後の住所が不明の場合もあります。)
これで被相続人が特定できれば問題ありませんが、特定できない場合であっても、相続人が誰なのか、被相続人の除籍謄本と相続人の戸籍謄本で確認できます。これで被相続人が特定できれば、遺産分割協議書には最低限、被相続人の氏名と死亡日を書けばよいことになります。遺産分割協議書には相続人全員の氏名が書かれ、全体として被相続人を特定できますので問題がないことになります。
預貯金など金融機関の手続では、金融機関には被相続人の生年月日が登録されていますので、最後の住所が分からない(証明できない)場合であっても、被相続人の氏名と生年月日で特定されることになります。
遺産分割協議書の書き方(その5)「相続人○○は、次の遺産を取得する。」の書き方
「相続人○○は、次の遺産を取得する。」
これは「取得する。」でも「相続取得する。」でも問題ありません。「取得する。」は「相続により取得する。」という意味だからです。
配偶者居住権の書き方
2020年4月1日以降、配偶者居住権を遺産分割で被相続人と同居していた配偶者に取得されることができます。
遺産分割協議書には、次のように記載します。
「相続人Aは、相続開始時に居住していた次の建物の配偶者居住権を取得する。配偶者居住権の存続期間は、被相続人○○○○の死亡日(または遺産分割協議成立の日)から相続人Aの死亡日までとする。」
第三者に建物を使用・収益させる場合は、特約事項として「第三者に居住建物の使用又は収益をさせることができる。」と記載します。
配偶者居住権は、原則、第三者に建物を使用・収益させることができません。
次を参考にしてください。
配偶者居住権を選択した方がよい事例
配偶者居住権の登記の方法
遺産分割協議書の書き方(その6)「不動産」の書き方
「不動産」の書き方は、基本的には、登記記録(登記簿)に記載されているとおりに記載しましょう。(特に自分で作成する場合)
登記所は、登記記録に記載された不動産の内容でしか、判断しません。登記記録と同じ内容で書かれていれば問題ありません。
よくあることですが、税理士さん作成の遺産分割協議書では、固定資産税の評価証明書(課税台帳登録事項証明書)に記載されている不動産の「現況」で書かれたものがあります。
登記記録では、土地であれば「所在」「地番」「地目」「地積」が記載され、建物であれば「所在」「家屋番号」「種類」「構造」「床面積」が記載されています。
このうち、税理士さん作成の遺産分割協議書では、「地目」「地積」「種類」「構造」「床面積」が「現況」で記載されています。これは、評価証明書には、登記上の内容のほかに、現況の内容が記載されているからです。税理士さんは、この「現況」の内容で「不動産」を記載します。
税理士さんが「不動産」を「現況」で記載する理由は、相続税の申告を想定しているからです。相続税申告の不動産評価を現況で行うからです。
例えば、「登記上の地積」が100㎡のところ、「現況の地積」が120㎡であれば、相続税申告の不動産評価を現況で行わなければなりません。
土地の相続税評価の場合、評価証明書の「評価価格」ではなく、「税務署の路線価」で計算しますので、登記上の地積と現況とでは違いが生じます。
また、建物の床面積が登記上50㎡のところ、現況が100㎡と記載されている場合もあります。もっとも、建物の相続税評価の場合、評価証明書の評価価格は、現況価格であるので、床面積が50㎡でも100㎡でも変わりありません。