遺産分割協議書作成と債務の相続
遺産分割協議書を作成する場合、法定相続人のうち、だれがどの相続財産を相続するかを決めて作成します。
遺産分割協議書に記載する相続財産は、プラスのもの(積極財産)もあればマイナスのもの(消極財産)もあります。
この消極財産が、被相続人の債務です。
被相続人の債務もまた相続の対象となります。
相続の対象とは、遺産分割で協議し、法定相続人のうちのだれが、どの債務を引き継ぐかを決めます。
遺産分割協議書の基本的な作成方法は、遺産分割協議書の書き方を参考にしてください。
遺産分割協議書に記載すべき被相続人の債務
被相続人の債務の中には、例えば、次のような債務があります。
- 治療費や入院費などの医療費
- 税金(固定資産税・所得税・住民税など)
- 銀行からの借入金
住宅ローンの債務の場合は、団体生命保険金などで返済することになります。
住宅ローンの場合であっても、団体生命保険料を支払っていなかった場合には、債務を相続、債務を相続人が返済しなければなりません。 - 葬式費用
葬式費用は、被相続人の生前の債務ではありませんが、遺産分割協議書に記載することも可能です。
また、相続税を計算するときは遺産総額から差し引くことができます。
被相続人の債務の解説
上記1医療費や2税金の債務の場合は、一括で支払うことが多いため、遺産分割協議書で、相続人のうちのだれが、どの債務を引き継ぐかを決めることが普通です。(もっとも、相続人が支払えることが前提となります。)
上記3銀行からの借入金の場合は、通常、その借入額が高額で、一括返済ではなく、分割返済であることが多いため、単に、遺産分割協議書で相続人のうちのだれが、債務の全部を引き継ぐかを決めたとしても、それで効力が生じるわけではありません。
銀行からの借入金全額を相続人のうちの一人が引き継ぐには、債権者である銀行の同意、承諾が必要となります。
このように、被相続人の債務が高額で、銀行からの借入れの場合、遺産分割協議書を作成する前に、相続人のうちのだれが債務を相続するかについて、銀行と打合せ、銀行の同意を得ておく必要があります。
銀行の了解を得たうえで、遺産分割協議書を作成します。
銀行の借入金債務の相続手続
上記のように被相続人の銀行からの借入金債務がある場合の手続は、次の手順で行います。
- 相続人の間で、だれが債務を引き継ぐかをあらかじめ話し合います。
- 銀行と債務の引き継ぎについて、交渉し、同意を得ておきます。
- 遺産分割協議書の作成
- 遺産分割協議書に法定相続人が署名・実印を押印します。
- 銀行と債務の引き継ぎについての変更契約(債務引受契約)を締結します。
- 各種の相続手続をします。
- 不動産について相続登記をします。
- 抵当権など債務者の変更登記をします。
これは、銀行からの借入金の担保として相続した不動産に、抵当権など担保権の登記がされている場合です。
未成年者の相続登記と抵当権の債務者変更登記
配偶者(夫)が亡くなり、相続人は、もう1人の配偶者(妻)と未成年の子である場合で、相続不動産には、亡くなった配偶者(夫)が債務者となっている抵当権が登記されている事例です。
住宅ローンの債務では、通常の場合、団体生命保険が降りますので、これで債務を返済できます。
抵当権は、単に抹消登記をすればよいことになります。
所有権の登記では、法定相続分で登記するのであれば、未成年者の特別代理人選任を申立てることなく、母が未成年者の親権者として登記することができます。
法定相続分ではない別の相続方法(法定相続分とは異なった方法)で所有権の登記を行うときは、未成年者特別代理人選任の申立てをする必要があります。
この場合、住宅ローン以外の銀行などの債務がある場合、債務も含めた遺産分割ということになりますので、特別代理人の選任が必要です。
裁判所の判例では、法定相続人の中に未成年者がいて遺産分割協議を行うときは、必ず、特別代理人の選任が必要になる、という判断です。
これは、たとえ親権者が利益を得ない場合であっても、不利益だけを受ける場合であっても、特別代理人を選任し、特別代理人と協議することが必要です。
遺産分割協議という行為そのものが利益相反に該当する、という考え方です。
特別代理人の選任を家庭裁判所に申立てるということは、相続財産すべてについての遺産分割協議書(案)を家庭裁判所に提出することになります。
もう1つの、抵当権の債務者を親権者に変更する銀行との債務者変更契約でも、特別代理人選任が必要です。この場合も、抵当権の債務者を変更する契約書(案)を家裁に提出します。
この、遺産分割協議と抵当権の債務者変更の特別代理人選任は、同時に、同じ特別代理人候補者で申立てることができます。
債務者を親権者に変更する銀行との契約では、必ず、特別代理人の署名が必要になりますので、特別代理人を選任しないで手続きをすることはできません。
利益相反に該当する行為を親権者が代理して行ったときは、無権代理行為となります。
無権代理行為は、本人の追認がなければ効力を生じない、というのが民法の規定です。
したがって、遺産分割協議は、追認がない以上、無効ということになります。本人が成年に達してから追認すれば有効になる、ということです。
判例では、親権者がした無権代理行為は、未成年者が成年に達してから追認することができる、としています。また、単に未成年の子に対して無効であるという、判例もあります。
例えば、親権者が未成年の子を代理して作成した遺産分割協議書を登記所に提出したとき、登記所は受け付けてくれません。却下されます。
これは、遺産分割協議そのものが利益相反に該当し、特別代理人が未成年の子を代理して、遺産分割協議をする必要があるからです。
親権者が未成年の子を代理して作成した遺産分割協議書の提出があった場合、登記所は、戸籍謄本の内容から、相続人が未成年者であることが判明しますので、登記を受け付けない、ということになります。