遺言書の書き方(自筆証書遺言書で書いてみる)
遺書と遺言書の違い
遺書は、亡くなる前に、残された家族、友人などに対する自分の心境などを書いたもので、法律的な内容が仮にあったとしても、本来、法律的に効力を生じさせようとするものではありません。
これに対して、遺言書は、法律(民法)の規定にしたがって書き記すことによって、財産の分配など法律的な効力を生じさせるのが本来の目的です。
遺書は形式にとらわれずに書くことができるのに対して、遺言書は、書き方の方式が決まっていますので、遺言書をせっかく書いても、その方式を誤ると、法律的な効力はなく、相続が開始した後、その遺言書では相続手続など、使用できない、という事態になってしまう場合があります。
ですから、遺言書を作成するときは、残された人のためにも、相続開始後、確実に使用できるように、きちんと書く必要があります。
自筆証書遺言書とはどんなもの?
遺言書の代表的なものは、自筆証書遺言書と公正証書遺言書です。
自筆証書遺言書は、文字通り、自筆、自分ですべて、基本的には手書きで遺言内容を書きます。
ただし、財産目録については、パソコンで作成したり、不動産であれば登記事項証明書のコピーや、預貯金であれば通帳のコピーでも問題ありません。詳しくは、自筆証書遺言書保管制度による遺言書の「自筆証書遺言書の「財産目録」は自筆でなくてもよい(2019年1月13日から)」でご確認ください。
遺言書作成の注意点についても参考にしてください。
「遺言書が一部無効なとき」の相続登記の方法を参考にしてください。
公正証書遺言書は、遺言者の陳述に基づいて、公証人役場の公証人が作成し、証明します。
自筆証書遺言書は、すべて自分で内容を書きますので、この点では費用がかかりません。
これに対して、公正証書遺言書は、公証人に手数料を支払います。
公証人に支払う手数料は、財産の価額によって異なります。
数万円以上はかかります。財産の価額によっては、数十万円かかる場合もあるでしょう。
さらに、公正証書遺言書では、遺言者の陳述に立会う証人2人が必要です。
この証人は、相続人はなれません。ほかの人を探さなくてはなりません。
ほかの人に証人となってもらうには、お礼が必要になるかもしれません。
遺言書を作成した後、相続が開始して、実際、遺言書に基づいて相続手続を行うことになります。
このとき、公正証書遺言書では、公証人が作成しますので、相続手続にほぼ100%近く、遺言書どおりに相続手続ができるでしょう。相続手続に使用できない遺言書では意味がありませんので。
そのために公証人に手数料を支払って作成してもらっています。
実際、遺言書が相続手続で、そのとおり使用できるかどうか、相続開始後でなければ、確認する方法がありません。
ですから、普通、公証人に頼んで、公正証書遺言書を作成する意味があります。
自筆証書遺言書でも、もちろん相続手続に使用できます。
相続開始後、確実に相続手続で使用できるためには、公正証書遺言書と同じような形式、文章の遺言書であれば、自筆証書遺言書でも十分可能です。
遺言書を作成した方がよい事例を参考にしてください。
遺言書を作成する前に事前準備が必要な場合があります。この場合は、相続登記のための遺言書作成【事前準備・事例】を参考にしてください。
海外在住日本人の遺言書作成は、外国に居住する日本人の遺言書作成方法(遺産は日本)を参考にしてください。
自筆証書遺言書で作成する前に、遺言書を公正証書で作成した方がよい事例を参考にしてください。
自筆証書遺言の要件
自筆証書遺言書作成の必要最低限の要件
自筆証書遺言の遺言書(自筆証書遺言書といいます。)が、相続手続で、確実に使用できるようにしなければ、意味のないものとなってしまいますので、ここでは、間違いのない方法で作成します。
自筆証書遺言書の作成要件は、次の6点です。
- 遺言者が、遺言の全文を自書する。ただし、財産目録はパソコン作成などができます。
- 遺言者が、日付を自書する。
- 遺言者が、氏名を自書する。
- 遺言者が、遺言書に押印する。
- 遺言書を自筆で作成する場合に注意する点は、遺言書が複数枚になる場合、割印が必要。
ただし、登記所保管制度を利用する自筆証書遺言書の場合、登記所に提出する遺言書には、割印は必要ない。 - 財産目録をパソコンなどで作成するときは、最後に署名と押印が必要。遺言書本体と一緒に綴じて割印をする。
ただし、登記所保管制度を利用する自筆証書遺言書の場合、登記所に提出する遺言書には、割印は必要ない。
自筆証書遺言書作成の必要最低限の要件は、財産目録を除いて、遺言書の本文の最初から最後まで全部、遺言者が手書きで書くことが必要です。他人が代わって書いても無効となります。
最後に、氏名の後に押印します。
これらの作成要件を欠いたものは、無効となって相続手続で使用できません。
無効とならない例外もありますが、この場合、相続手続において、使用できるか検討したり、争いとなったりして、スムーズにいかない場合がありますので、要件を厳格に守って間違いのない方法で作成します。
その他の要件ではありませんが、遺言者の生年月日、相続人の生年月日を記入し、さらに、遺言書の最後に、遺言者が署名しますが、名前のほかに、署名する時点での住所も記載したほうが良いでしょう。
自筆証書遺言書の作成要件で、遺言者が、遺言の本文の全部、日付、氏名を自書(手書き)することについて、遺言書の全部を自書する、ということなので、結構大変です。
財産が多ければ多いほど大変です。
間違って書いてしまったときは、訂正する方法も民法によって定められていますので、その方式で訂正しなければならなくなります。
訂正方法は、次のとおりです。
民法第968条第3項
自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
そう考えますと、いきなり遺言を書くと、訂正だらけ、になる可能性があります。
訂正だらけも、ある意味、恥ずかしいので、下書き、を考えます。
ここで、問題は、下書きをどういうふうに書いたらよいか、という点です。
普通に、紙に自書して下書きしていくと、これが書き終わったときは、押印を除いて、りっぱな自筆証書の遺言書ができあがってしまいます。
こうなると、悪用されないとも限りません。
そこで、下書きの段階ですので、この場合、遺言の内容だけ書いて、日付と氏名は書かないようにします。あるいは、パソコンで、遺言の内容だけ、記入しておきます。
相続登記と自筆証書遺言書に記載すべき事項
預貯金の名義変更などの相続手続や不動産の名義変更の相続登記を、遺言書に基づいて行う場合、公証人が作成した公正証書遺言書では、手続き上、ほとんど問題になることはありません。
なぜなら、公証人が作成した公正証書遺言書は、公証人が、その専門家であるためです。
ところが、被相続人が自分で作成した遺言書、すなわち、自筆証書遺言書に基づいて、相続手続を行う場合、時として、問題となること、補充する必要がある場合があります。
遺言自筆証書の要件は、民法で規定されています。
自筆証書遺言書の作成要件は、次の4点です。
1.遺言者が、遺言の全文を自書(手書き)する。(財産目録は、手書きでなくても可)
2.遺言者が、日付を自書する。
3.遺言者が、氏名を自書する。
4.遺言者が、遺言書に押印する。
これに、例えば、相続分の指定の方法で、長男の誰々の相続分とする、ということを記載します。
通常、この内容で問題ありません。
ところが、相続手続をする先の銀行や不動産の名義変更(相続登記)を行う登記所では、個々に対応が異なる場合があります。
これは、問題を指摘される、あるいは、補充を要求されることもありますので、民法が規定する要件のほかに、次の事項も記載すれば、ほぼ問題はありません。
それは、遺言者の生年月日、相続人の生年月日です。
さらに、遺言書の最後に、遺言者が署名しますが、名前のほかに、署名する時点での住所も記載したほうが良いでしょう。
遺言者の生年月日や住所を記載した方が良い理由は、どこの誰が遺言書を作成したのかを明確にするのが目的です。
どこの誰が遺言書を作成したのか、明確でないと指摘する登記所も実際にあるからです。
この点、公証人が作成する公正証書遺言書には、遺言者の生年月日と住所、相続人の生年月日が記載されています。
遺言事項で法律上の効果のある事項
遺言書には、何を書くことができるでしょうか?
遺言の内容として法律上の効果のある事項は、法律(民法など)で定められています。
主なものは、次のとおりです。
認知、遺贈、配偶者居住権の遺贈、相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺言執行者の指定
その他
相続人の廃除または廃除の取消し、遺産分割の禁止、共同相続人間の担保責任の指定、特別受益の持戻しの免除、祭祀承継者の指定、財団法人設立のための寄附行為、遺言信託の設定、生命保険金受取人の指定または変更、未成年者後見人または未成年者後見監督人の指定など
認知
父が婚姻関係でないときに生まれた子を自分の子として認めること(認知)を、遺言ですることができます。父が存命中は、その子を自分の子として認め届け出ることによって法律上の親子関係が生じます(任意認知)。また、子が父に対して裁判をすることによって親子関係が生ずる場合もあります(強制認知)。認知された子は、父の相続人となります。
遺贈
遺贈は、遺言で、遺産の全部または一部を譲与することができます。
遺言でしなければならない点で、譲与される相手との契約ではありません。
遺贈は、法定相続人のほか誰に対してもできます。
ただし、実際、遺贈を行うときは、法定相続人が義務履行者になります。
遺言執行者がいるときは、遺言執行者が行います。
したがって、遺贈の場合、相続人であっても単独で手続を行うことができません。
法定相続人に対しては、遺贈という言葉ではなく、相続という言葉を使います。
相続は、法定相続人が単独で手続を行うことができます。
遺贈は、法定相続人以外の人に対して行うときに、この言葉を使います。
遺贈には、包括遺贈と特定遺贈があります。
包括遺贈は、「遺産の全部またはその一部、ある割合」が対象になります。
したがって、包括遺贈の場合は、法定相続人と同じ立場、法律上同じ地位にあって、遺産の分割について協議したり、相続放棄、限定承認ができます。
特定遺贈は、この土地、このマンションというように、「特定された遺産」が対象になります。
相続登記の相続と遺贈の違い(相続相談)を参考にしてください。
配偶者居住権の遺贈
配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物について、終身または一定期間、配偶者にその使用を認めることを内容とする法定の権利が新設されました。(2020年4月1日から施行)
これにより、被相続人が遺贈によって配偶者に配偶者居住権を取得させることができることになりました。詳しくは、配偶者短期居住権の要点を参考にしてください。
相続分の指定
相続分の指定とは、相続人の誰々に、例えば、3分の1を相続させ、相続人の誰々には3分の2を相続させる、というものです。
これは、法定相続分とは異なった相続分を指定する、相続させる、ということです。
遺産分割方法の指定
遺産分割方法の指定とは、相続人の誰々にA不動産を相続させ、相続人の誰々にはB不動産を相続させる、というものです。
遺言執行者の指定
遺言執行者の指定は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をすることを誰々にさせることを遺言で指定することができます。
遺贈の場合、これを受ける受遺者を遺言執行者に指定することもできます。
この場合、受遺者が遺言執行者を兼ねますので、受遺者が単独で遺贈による登記を申請することができます。
「相続させる」の場合も、相続人を遺言執行者に指定することができます。
財産の中には、積極財産(プラスの財産)に限らず、消極財産(マイナスの財産)もある場合があります。まずは、遺言者が自分の財産を整理して、相続人誰々に何を相続させるかを決めた方がよいでしょう。相続開始後、残された相続人は、何が相続財産なのか、わからない場合があるからです。
曖昧なまま、遺言を書きますと、相続開始後、相続人の間で、話しがまとまらない、ということもあるからです。遺言を書く以上、この辺を明確にした方がよいでしょう。
遺言書を書いてみる
相続分指定の方法で遺言書を書いてみる
遺言書を書くとき、一番簡単な方法は、相続人に相続させる方法として、相続分を指定する方法です。相続分というのは、民法に規定されている法定相続人、正確には、遺言をする人の推定相続人の相続分です。
推定相続人の相続分は、例えば、配偶者が一人と子が二人いる場合には、配偶者が2分の1、子はそれぞれ4分の1です。
相続分は、何分のいくつ、というように、持分割合をいいます。
相続財産の個別的な、これ、あれ、を相続させる、というのは、遺産分割方法の指定になります。
したがって、例えば、先の例でいえば、配偶者が一