外国に居住する日本人の遺言書作成方法(遺産は日本)
外国に居住する日本人が、日本にある遺産(財産)について、遺言書を作成する場合、どういう方法がよいでしょうか。できるならば、一時、日本に帰国して日本にある公証人役場で公正証書遺言書を作成できればベストですが、事情によって日本に帰国できない場合もあるからです。
外国で遺言書を作成する場合、どういう遺言方式にすればよいのか
この場合の遺言書作成の方法は、①日本の法律にしたがって自筆証書で作成する方法と公正証書で作成する方法、②外国の遺言に関する法律にしたがって作成する方法があります。どちらを選択することもできます。
②の外国の遺言に関する法律にしたがって作成する方法では、その外国の法律上有効な方法を確認する必要があります。
この作成方法は、外国によって異なります。
日本でいうところの自筆証書の方式もあれば公正証書の方式もあります。
日本でいうところの自筆証書の方式による場合は、相続開始後、日本の家庭裁判所での検認手続が必要です。
また、自筆証書でも公正証書でも、外国語の遺言書を日本語に翻訳する必要があります。
②の外国の遺言に関する法律にしたがって作成する方法では、その外国の遺言に関する法律がどういうものであるのかを確認し、遺言書を日本語に翻訳する必要があること、相続手続きにおいて、いちいち外国の遺言に関する法律がどういうものであるのかを説明、証明しなければならないことを考えると、この方法は、難しいといえます。
次に、①の日本の法律にしたがって遺言書を作成する方法では、自筆証書による方法と公正証書による方法があります。
自筆証書による方法では、すべて手書き(財産目録を除く)でする必要があり、相続開始後は、日本の家庭裁判所での検認手続が必要です。外国で自筆証書遺言書を作成する場合、日本における登記所の保管制度を利用できません。
特に、遺産を外国人に相続または遺贈させたい場合、遺言書を保管している外国人が、日本の家庭裁判所に検認手続きをする必要があります。
検認手続きでは、法定相続人全員に通知され、その手続きに要する時間や戸籍謄本など揃える手間がかかりますので、難しいといえます。
最後に、日本の法律にしたがって公正証書で遺言書を作成する場合、外国には日本の公証役場がありません。
ですが、外国にある日本の大使館または領事館で公正証書遺言書を作成することができます。
外国にある日本の領事館で、日本の公証人の職務を日本の領事が行うことになっています。(民法984条)
民法(外国に在る日本人の遺言の方式)
民法 | e-Gov法令検索
第九百八十四条 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。
こうして日本の領事館で遺言書を作成すれば、相続開始後、日本の家庭裁判所で検認手続をする必要がありません。
ただし、この場合であっても、立会人である証人2名が必要です。
領事館での費用はかかりますが、相続開始後の検認手続を考えれば、この方法がよいでしょう。
なお、遺言書を作成する場合、遺言執行者を指定するときは、遺産を相続する人や遺贈を受ける人(受遺者)を遺言執行者とすることができます。
弁護士や司法書士など専門家を遺言執行者にしなければならない、という決まりはありません。
遺産を相続する人や受遺者が遺言執行者であれば、自分で相続手続ができます。
もし、相続開始後に、自分で相続手続ができなければ、専門家を代理人として依頼することもできます。
外国にある大使館・領事館で遺言書を作成する方法
遺言書を外国にある大使館や領事館で作成する場合、その領事が遺言書の作成について、必ずしも精通している訳ではありません。
領事は、基本的に、遺言者が事前に作成した遺言の内容(遺言書の原案)にしたがって、遺言書を作成します。実際に作成するのは、大使館・領事館の職員です。
遺言書の形式としては、日本の公証人役場で作成する遺言書と同じ形式で、民法規定の公正証書遺言の方式で遺言書の原案を作成します。なお、証人2名は、日本語を理解できる者でなければなりません。
民法(公正証書遺言)
民法 | e-Gov法令検索
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
例えば、次のような文面です。
遺言公正証書
本職は、遺言者○○○○の嘱託により、平成○年○月○日、在○○○○日本国大使館において、民法第974条各号に該当しない者であることを確認した後記証人2名の立会をもって、次のとおり遺言者の遺言の趣旨の口授を筆記して、この証書を作成する。
遺言の趣旨
私、○○は、次のとおり遺言します。
(中省略)
本旨外要件
(住所)○○共和国・・・
(本籍)神奈川県横浜市中区・・・
(職業)会社役員
(氏名)遺言者 ○○
(生年月日)○年(昭和○年)○月○日生
(住所)○○
(職業)○○
(氏名)証人 ○○
(生年月日)○年○月○日生
(住所)○○
(職業)○○
(氏名)証人 ○○
(生年月日)○年○月○日生
本職は、前記遺言者に○○(パスポートなど)を提出させ、人違いでないことを証明させた。
本職は、遺言者及び証人にこの遺言公正証書を読み聞かせたところ、同人らはいずれもこの証書の筆記の正確であることを承認し、次に署名捺印する。
遺言者(氏名・署名) ㊞
証人 (氏名・署名) ㊞
証人 (氏名・署名) ㊞
本公正証書は、民法第969号第1号より第4号にかかげる方式に従い、平成○年○月○日、在○○日本国大使館において作成し、同条第5号に基づき、本職において次に署名捺印する。
(大使館の住所)○○
在○○日本国大使館
公館長(氏名・署名) (公印)
以上の内容で当事務所が遺言書の原案を作成(2015年・平成27年)