海外在住日本人の遺言書作成は、どういう方式の遺言書がよいのか。

海外在住(外国に居住している)日本人の遺言書作成は、どういう方式の遺言書がよいでしょうか。

近年、海外に居住している日本人も多くいます。国際結婚をして外国人の配偶者とともに外国に居住している日本人も多くいます。
この場合、日本に財産を、例えば、不動産や預貯金を残したままの日本人も多くいます。
また、海外在住の日本人が、外国で生活をしているうちに、不動産を所有したり、外国銀行の預金を持つこともあります。
その結果、外国にある財産と日本にある財産の両方を持つことになります。

このような場合、例えば、外国にある財産を外国人の配偶者や子供に相続させ、日本にある財産を自分の兄弟姉妹などに引き継ぎさせたいという場合があります。

そこで、このような場合、どういう方式の遺言書を作成したら、ベターでしょうか。

遺言書の有効性の問題

まず、海外在住の日本人が遺言書を作成する場合、どこの国の法律に基づいて遺言書を作成すれば、有効になるのかという問題があります。

遺言の方式の準拠法に関する法律
(準拠法)
第二条 遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。
一 行為地法
二 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
三 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
四 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
五 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

遺言の方式の準拠法に関する法律 | e-Gov法令検索

この規定から、外国の法律にしたがって方式上有効とされれば、日本においても(日本の方式で作成されていなくても)方式上有効となります。
海外在住の日本人が遺言書を作成する場合、外国の法律でも、日本の法律でも、遺言書作成の方式が有効であれば、どちらでもよいことになります。

実際に遺言書を作成する場合は

そこで、実際に遺言書を作成する場合、外国の法律または日本の法律、どちらにしたがって遺言書を作成した方がよいでしょうか。

外国の法律または日本の法律、どちらにしたがっても遺言書は有効ですが、実際に遺言書を執行(相続手続を実行)する場合は、どうでしょうか。

例えば、外国の法律にしたがって遺言書を作成した場合、日本にある不動産の相続登記や預貯金の相続手続を行うときは、次の点を確認したり、作業することになります。

  1. 外国の法律にしたがって作成した遺言書で、そのまま相続手続ができるでしょうか。
    例えば、ニュージーランドの法律にしたがって作成した遺言書は、そのままでは相続手続をすることができず、高等裁判所で「プロべート」の手続が必要です。
    ニュージーランドの遺言書(相続が開始した時の取り扱い)を参考にしてください。
  2. 外国の法律にしたがって作成した遺言書は、すべて日本語に翻訳する必要があります。

ということは、外国の法律にしたがって作成した遺言書を日本で相続手続をする場合、面倒な手続や作業が必要となります。

このような点を考えますと、外国にある財産は、外国の法律に基づいた遺言書で作成し、日本にある財産は、日本の法律に基づいた遺言書で作成するのがよいでしょう。
日本の法律に基づいた遺言書であれば、翻訳もする必要がありません。

遺言書の作成は、それぞれの国の法律に基づいて遺言書を作成した方が、遺産相続手続を確実に行うことができると考えております。
例えば、日本の公証役場で作成した遺言書(公正証書遺言書)にアメリカの遺産が記載されており、この遺言書で、アメリカの銀行で預金の解約手続きをしようとしたところ、この遺言書(公正証書遺言書)では手続ができない旨言われたことがあります。
日本では、公証人作成の公正証書遺言書であれば、ほかの手続を要することなく、遺産相続手続を行うことができますが、例えば、アメリカでは、この遺言書だけでは足りず、別の手続(裁判所での認証)が必要であることから、日本の公正証書遺言書になんらかの法的なお墨付きが必要だとの考え方があります。

日本の法律に基づいた遺言書では、どういう方式の遺言書がよいのか。

そこで、日本にある財産は、日本の法律に基づいた遺言書で作成するとして、どういう方式の遺言書がよいでしょうか。

日本の法律に基づいた遺言書は、通常、次の三種類です。
(1)自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用しない):一般的な遺言書です。
(2)自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用する):2020年7月10日制度開始
(3)公正証書遺言書:公証役場で作成します。

この三種類の遺言書のどれを選択したらよいでしょうか。
次に、この三種類について検討してみます。

自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用しない)

この自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用しない)は、昔から日本人が知っている一般的な遺言書で、全文を自筆(財産目録を除きます。)で作成します。
作成時点では、お金がかかりません。

ただし、相続開始後、家庭裁判所で遺言書の検認手続が必要となります。
この場合、外国で作成した自筆証書遺言書を、相続開始後、日本の家庭裁判所で検認手続をする場合、どこの家庭裁判所で検認手続をするのか、という問題があります。(家庭裁判所の管轄)

家事事件手続法
相続に関する審判事件の管轄権
第三条の十一 裁判所は、相続に関する審判事件(別表第一の八十六の項から百十の項まで及び百三十三の項並びに別表第二の十一の項から十五の項までの事項についての審判事件をいう。)について、相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。(百三:遺言書の検認:民法第千四条第一項)

家事事件手続法 | e-Gov法令検索

この規定から、相続開始の時に日本に住所または居所があったとき、あるいは、相続開始の前に住所があったとき(相続開始の前に日本に住んでいた)は、日本の家庭裁判所で遺言書検認手続ができます。
しかし、相続開始前に日本に生活の拠点がなく、外国に生活の拠点がある場合、住所も居所も外国にある場合、日本の家庭裁判所で遺言書検認手続をする管轄権がないことになり、その結果、家庭裁判所で遺言書検認手続をすることができないことになります。

なぜなら、上記の規定から、遺言書検認手続を申立てることができる家庭裁判所は、「遺言者(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」と定められているからです。「遺言者(被相続人)の最後の住所地」が日本になければ、日本の家庭裁判所に遺言書検認の管轄権がないことになります。

このことから、外国で自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用しない)を作成した後、外国に生活の拠点があり、外国で死亡した場合、遺言書の検認手続ができず、その結果、この遺言書で相続手続ができないことになります。
この場合、遺言書がない場合の方法(法定相続か遺産分割)で行うことになります。

また、仮に「遺言者(被相続人)の最後の住所地」があったとして、家庭裁判所に遺言書検認手続ができる場合であっても、外国人の配偶者や子がいる場合は、婚姻関係や親子関係を証明する書類、配偶者や子の住所を証明する書類を家庭裁判所に翻訳して提出する必要があります。家庭裁判所は、配偶者や子に検認手続の通知を郵送します。
このように考えますと、実際の相続手続を行うことができるまで、相当の時間を要することになります。

自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用する):2020年7月10日制度開始

この自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用する)は、全文を自筆(財産目録を除きます。)で作成します。これを日本の法務局(登記所)で保管してもらうものです。作成時点では、数千円かかります。詳しくは、自筆証書遺言書保管制度による遺言書を参考にしてください。

日本の登記所で自筆証書遺言書を保管してもらいますので、日本に一時帰国などして出向く必要があります。

遺言書の保管申請ができる法務局(遺言書保管所)は、次の三つから選択できます。
(1)遺言者の「住所地」
(2)遺言者の「本籍地」
(3)遺言者の「所有する不動産の所在地」

海外に在住している日本人の場合、「本籍地」または「所有する不動産の所在地」を管轄する登記所に出向いて手続をすることになります。

相続開始後、遺言書情報証明書を取得する

相続開始後、登記所で遺言書情報証明書を取得する必要があります。この遺言書情報証明書で相続手続を行います。

遺言書情報証明書を取得するためには、次の書類を登記所に提出する必要があります。
(1)遺言者(被相続人)の出生時から死亡時までのすべての戸籍・除籍謄本
(2)法定相続人全員の戸籍謄本
(3)法定相続人全員の住民票

海外在住の日本人に、外国人の配偶者や子がいる場合は、婚姻関係や親子関係を証明する書類、配偶者や子の住所を証明する書類を登記所に翻訳して提出する必要があります。登記所は、配偶者や子に遺言書情報証明書を発行した旨の通知を郵送します。
このように考えますと、実際の相続手続を行うことができるまで、相当の時間を要することになります。

公正証書遺言書(日本の公証役場で作成)

自筆証書遺言書で実際の相続手続を行うには、相当の困難を伴います。
そこで、日本に一時帰国などできるのであれば、日本の公証役場で公正証書遺言書を作成する方法がよいと思われます。

公正証書遺言書であれば、相続開始後、家庭裁判所の検認手続をする必要もなく、登記所の遺言書情報証明書を取得する必要もありません。

日本に一時帰国などできないのであれば、次の「外国にある日本の大使館・領事館で遺言書を作成する方法」にします。

外国にある日本の大使館・領事館で遺言書を作成

外国にある日本の大使館または領事館で公正証書遺言書を作成することができます。
これは、日本国内の公証役場で作成する公正証書遺言書と同じ効力があります。
相続開始後、家庭裁判所の検認手続をする必要もなく、登記所の遺言書情報証明書を取得する必要もありません。
詳しくは、外国にある日本の大使館・領事館で遺言書を作成する方法を参考にしてください。

まとめ

海外在住の日本人が、遺言書を自筆証書遺言書で作成する場合、作成する時点では、困難を伴いませんが、相続開始後、必要書類を用意したり、家庭裁判所や登記所の手続で困難を伴うことにより、実際の相続手続まで相当な時間を要することになります。

そこで、海外在住の日本人の遺言書作成は、まず、日本に一時帰国などできるのであれば、日本の公証役場で公正証書遺言書を作成するのがよいでしょう。
次に、日本に一時帰国などできないのであれば、外国にある日本の大使館・領事館で遺言書を作成するのがよいでしょう。

公正証書遺言書の作成や、遺産相続・相続登記については、当司法書士事務所にご相談ください。

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