遺言書があるときは、どうすればよいのか

遺言書が他の相続方法に優先する

執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)

相続登記の手順

遺言書があるときは、相続人全員での遺産分割協議、法定相続分での手続よりも優先して、遺言書で相続手続をすることになります。

通常、亡くなった方(被相続人)の遺産整理をするところから始めますが、その際、被相続人の書いた遺言書があった場合の手順について説明します。

公正証書遺言書以外の自筆証書遺言書が自宅などにあった場合、封印されているときには、開封しないでください。(自筆証書遺言書とは、遺言の内容全部(財産目録以外)を遺言者が自筆で書いたもの)
この場合、家庭裁判所で開封してください。開封すると過料に処せられることがあります。
家庭裁判所での検認手続を必ずしてください。
家庭裁判所での検認手続をしないと登記申請に使用できません。銀行など相続手続で使用できません。

ただし、自筆証書遺言書で登記所に保管されたもの(自筆証書遺言書保管制度)は、家庭裁判所での検認手続は必要ありません。相続手続開始後に、登記所で「遺言書情報証明書」を取得します。これによって各種相続手続をを行います。
「遺言書情報証明書」の取得については、こちら自筆証書遺言書保管制度を参考にしてください。

遺言書情報証明書を取得してから相続手続をする。
遺言書情報証明書は、遺留分のない兄弟姉妹にも通知する。

相続登記を申請する場合、遺言書の内容に従って登記申請するときは、注意が必要です。
公正証書遺言で相続登記を申請する場合は問題ありませんが、自筆証書遺言書保管制度を利用していなかった自筆証書遺言書で相続登記を申請する場合、自筆証書遺言書に、家庭裁判所の検認手続証明書を添付する必要があります。
これを添付しないで登記申請すると、その申請は、却下されます。あるいは、取り下げるよう登記所から指示されます。

この自筆証書遺言書に家庭裁判所の検認手続証明書が添付されているか否か、登記所は、必ず確認します。これを登記所が見逃す確率は、限りなく0に等しいです。司法書士も、もちろん必ず確認します。

遺言書の検認手続は、こちらを参考にしてください。

検認手続が終了しますと、家庭裁判所は、検認手続をした旨の証明文を遺言書に記載し証明します。

遺言書がどういう形式のもので作成されたのかを確認

遺言書の作成形式
遺言書の作成形式

法律上、公正証書遺言書、自筆証書遺言書、秘密証書遺言書などの形式があります。
また、法律の形式に則ったものではなく、単に遺書として書かれたものもあるでしょう。

これらのうち相続手続に使用できる遺言は、公正証書遺言書、自筆証書遺言書、秘密証書遺言書など、法律の形式に則って書かれたものだけです。まず、このことを確認します。

次に、遺言書が、公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言など、法律の形式に則って書かれたものでも扱い方が異なりますので、遺言書がこれらのうちのどれにあたるのかを検討します。

公正証書遺言書は、公証人役場で作成されたものなので、形式も内容も有効と考え、遺産の分配方法がどうのように書かれているのかは別にして、安心して使えます。公正証書遺言書があれば、相続開始後、基本的に他の手続をすることなく、相続手続ができます。

また、自筆証書遺言書は、家庭裁判所で確認する手続(検認手続)をする必要があります。
自筆証書遺言書で登記所に保管されたもの(自筆証書遺言書保管制度)は、家庭裁判所での検認手続は必要ありません。ただし、登記所で「遺言書情報証明書」を取得して相続手続ができます。

秘密証書遺言書は、遺言者が作成した遺言書を封に入れ、封印し、これを公証役場で公証人と証人に提出して証明してもらうものです。
相続開始まで、遺言者以外に遺言内容を知ることができません。

民法(秘密証書遺言)
第九百七十条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
 第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

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家庭裁判所での自筆証書遺言書の検認手続

登記所の保管制度を利用しない自筆証書遺言書は、家庭裁判所の検認手続が必要です。
封印された自筆証書遺言書は、中を開けなければ遺言の形式に適合しているかどうかを確認することができません。
家庭裁判所での検認手続は、法定相続人全員の立会いの下、行われるのが原則です。
家庭裁判所は、法定相続人全員に立ち会う機会を与えるために、立ち会う日時を通知します。

申立人は、基本的に立ち会います。
検認手続が終了しますと、家庭裁判所は、検認した旨の証明文を遺言書に記載し証明します。
立ち会う時間と証明分を渡される時間は、1時間ほどで終了します。

家庭裁判所の検認手続は、遺言書を開封し確認だけですので、その形式と内容で実際の相続手続に使用できるものかどうか、確認までするものではありません。

したがって、遺言書の形式・内容によっては、相続手続に使用できない場合があります。

遺留分のない兄弟姉妹にも家庭裁判所は通知する。

遺言書が相続手続に使用できる内容のものかどうかを確認

遺言書がどういう形式のもので作成されたのかを確認した後、遺言書の文面を見ることができる場合、この遺言書で各種の相続手続ができるかどうかを確認します。(自筆証書遺言書が封印されている場合は、開封することができませんので、家庭裁判所の検認手続が終了しましたら、その内容を確認します。)
遺言書で相続手続ができるかどうかは、自筆遺言書作成講座(遺言書の書き方)遺言書作成の注意点を参考にしてください。
この確認は、各種相続手続によってその扱いが異なる場合がありますので、各種相続手続先の役所(登記所・陸運局)、金融機関、証券会社に問い合わせをし確認します。

遺言書の形式では有効であっても、遺言書の内容によっては、その一部を使用できない場合もあります。

家庭裁判所の検認手続が必要な自筆証書遺言書は、この遺言書で相続手続ができることを確認してから家庭裁判所に検認手続をします。遺言書の内容によっては、その一部を使用できない場合もありますが、全部無効でなければ、家庭裁判所の検認手続をします。
この遺言書で相続手続ができない場合は、家庭裁判所で検認手続をしても、相続手続ができないため、家庭裁判所の検認手続をしても意味がありません(相続手続で使用できない)ので、別の相続方法(法定相続遺産分割協議)を検討していただくことになります。
もっとも、遺言書が封印されている場合は、開封することができませんので、この場合は、家庭裁判所の検認手続が終了してから、この遺言書で相続手続ができるかどうかを確認することになります。

受益者(相続人・受遺者)が遺言者の死亡前に死亡しているとき

遺言書の作成後、受益者(相続人・受遺者)が死亡し、遺言者が死亡した場合、この遺言内容は有効でしょうか。
遺言書作成 →受益者(相続人・受遺者)死亡 →遺言者死亡
例えば、遺言書の内容として「遺言者は、○○(誰々)に○○を相続させる。」あるいは、「遺言者は、○○(誰々)に○○を遺贈する。」
この場合、どちらも、遺言書の内容が無効となります。
ただし、このようなことを想定して、例えば、「受益者が遺言者の先に死亡した場合は、受益者に代わって○○に相続させる。○○に遺贈する。」としておけば、遺言書どおりに遺言を執行できます。

民法
(受遺者の死亡による遺贈の失効)
第九百九十四条 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
第九百九十五条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

民法 | e-Gov法令検索

遺言書が一部無効なときの相続登記の方法を参考にしてください。

遺言書の内容を実行するのはだれかを確認

遺言書に「遺言執行者」が書かれていれば、基本的には、相続人ではなく遺言執行者が相続手続を行います。遺言執行者については、こちらを参考にしてください。

遺言書には、その遺言内容を実行する人(遺言執行者)が、書かれている場合がありますが、
遺言執行者が書かれていない場合であっても、法定相続人のうち遺産を相続により取得する相続人であれば、自分で相続手続きを行うことができます。

ただし、遺言の内容によっては、遺言執行者がいなければ不都合を生ずる場合(遺贈の登記(遺言書がある場合の遺贈の登記))もありますので、この場合は、遺言執行者の選任を家庭裁判所に申立てます。
遺言執行者選任の申立は、法定相続人のうち1人からできます。

遺言書に書かれているとおりに相続手続をしなければならないのか。

遺言書に書かれている内容は、亡くなった方(被相続人)のご意志を反映されたものなので、尊重すべきですが、遺言書で遺言執行者が指定されていない場合、法定相続人全員での話し合いで、遺言書の内容と異なる遺産の分配方法(遺産分割)を行うこともできます。
例えば、遺言書に従って相続手続を行う場合、相続税が高額となってしまうような場合です。
ただし、遺言執行者が指定されている場合は、必ずしもそうとは限りません。(公正証書で遺言書を作成する場合、通常、遺言執行者を指定します。)

また、遺言書の内容どおりに相続手続をした結果、後日、法定相続人から異議がある場合があります。例えば、他の相続人の「遺留分」を侵害してしまうような場合です。

法定相続人には法律上、相続人として最低限保障されている権利(遺留分)があるからです。
ただし、法定相続人のうち被相続人の兄弟姉妹には、遺留分がありません。法定相続人に被相続人の兄弟姉妹がいても、遺言書の内容に従って、遺言書の内容を実行しても問題ありません。

法律上、相続人に保証されたこの遺留分を侵害する遺言内容の場合は、無効ではなく有効で、この遺言内容どおりに手続ができます。
この遺言内容に従って相続手続をされ、遺留分を侵害された相続人は、遺留分を侵害した相続人に対して「遺留分侵害額請求権」を行使することができます。
遺留分については、こちらを参考にしてください。

遺言執行者が指定されている場合の相続手続

遺言執行者が遺言書で指定されている場合、相続人全員の同意があっても、基本的に、遺言内容を変更することができません。

民法(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

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このことは、遺言執行者の職務が遺言の内容を実現することにあり、必ずしも相続人の利益のために職務を行うものではないことを意味します。

例えば、遺言で、遺産を公的な機関に寄付する、というような場合、相続人全員の合意があるからといって、遺言執行者にこの寄付行為をやめさせることができません。

相続人は、遺言者執行者がする遺言執行の妨害行為をすることができない。(遺言執行妨害禁止)

民法(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

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ただし、相続人が対抗要件を備えること(登記)は、遺言の執行の妨害行為(法第1013条第1項)に該当しないため、相続人が単独で、相続による権利の移転の登記を申請することができます。

遺言書による相続登記の方法

遺言書による相続登記の方法は、次を参考にしてください。
遺言書での相続登記の方法
遺贈の登記(遺言書がある場合の遺贈の登記)
遺留分侵害額請求権(遺言書で相続手続をする場合)
相続と遺贈を同一不動産で登記する方法(順番)
相続登記と内縁の妻に遺贈
「遺言書が一部無効なとき」の相続登記の方法
公正証書遺言書による相続登記(代襲相続人が姪)と預貯金相続手続の方法

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