相続登記のための遺産分割調停申立方法と問題点(横浜市・川崎市・神奈川県内・東京都内・日本全国対応)
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
遺産分割調停とは
相続が開始したとき、通常は、相続人全員で遺産分割協議(遺産の分配方法についての話し合い)を行います。これがスムーズに行われれば、遺産分割協議書を作成して、不動産の相続登記など相続手続を行うことになります。
ところが、この遺産分割協議がスムーズに行われずに、遺産の分配について相続人の間で話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所で、まずは、遺産分割調停という方法で遺産の分配について話し合うことになります。
この遺産分割調停で話しがまとまれば、家庭裁判所が遺産分割調停調書を作成してくれますので、これで、不動産の相続登記など相続手続を行うことになります。
相続開始から10年を経過した場合の遺産分割調停の申立て
相続開始から10年を経過した場合の遺産分割調停申立てについては、相続開始から10年を過ぎた遺産分割の特別受益(生前贈与など)と寄与分(療養看護など)の取り扱い(令和5年4月1日から)を参考にしてください。
相続開始から10年を経過している場合には、遺産分割調停において、家庭裁判所は、特別受益(生前贈与など)と寄与分(療養看護など)を考慮することなく、法定相続分で遺産分割の算定をすることになります。
遺産分割の協議や調停が長引くと相続税の問題
遺産分割の、相続人の間での協議や、家庭裁判所での遺産分割調停が長引く場合、一番問題となるのが、相続税の問題です。
通常、相続財産について争いがある場合、相続財産だけに注意がいく傾向がありますが、相続税の問題も非常に重要です。
なぜなら、遺産分割がスムーズに行われていれば問題とならなかった相続税納税や、相続税申告期限を過ぎても相続税申告納税をしなかったことによる無申告加算税と延滞税の問題があるからです。
後述しますように、家庭裁判所での遺産分割調停の期日(裁判所に出頭する日)は、通常、一か月に一回ですので、調停成立まで早くて半年はかかると思われます。
そうしますと、相続税の対象となる場合は、申告期限の10か月を過ぎてしまうことも考えられます。
配偶者税額軽減や小規模宅地の特例の適用の問題
相続税を考える場合、相続税の対象となるのかどうかということです。
これは、例えば、被相続人の夫の遺産の場合、配偶者である妻は、配偶者税額軽減(1億6,000万円か法定相続分の2分の1相当額の多い金額)の適用を受けることができますが、相続開始から10か月以内に相続税の申告をしない場合、この配偶者税額軽減の適用を受けることができません。
配偶者の税額軽減を参照してください。
また、妻が被相続人名義の自宅に同居していた場合、小規模宅地の特例(路線価格80%減額)の適用がありますが、相続開始から10か月以内に相続税の申告をしない場合は、この小規模宅地の特例の適用を受けることができません。
No.4208 相続財産が分割されていないときの申告を参照してください。
配偶者税額軽減や小規模宅地の特例の適用がない場合、本来であれば(遺産分割がスムーズに行われていれば)、配偶者税額軽減や小規模宅地の特例の適用があることによって、相続税の申告だけで済むところが、これらの適用がないことによって、原則どおりの相続税を納めなければならないことになってしまいます。
相続開始後10か月以内に相続税の申告納税ができそうにないとき
遺産について未分割の状態であっても、申告納税をしない場合、相続税額に無申告加算税と延滞税が上乗せされることになります。
遺産分割協議にしても、遺産分割調停にしても、相続開始後10か月以内に相続税の申告納税ができそうにないときは、遺産について未分割の状態であるので、法定相続分での仮の申告と納税をします。
10か月の申告期限までに仮の申告納税をした相続税は、配偶者税額軽減や小規模宅地の特例の適用がない税額です。
この場合、相続税申告書に添付して「申告期限後3年以内の分割見込書」を税務署に提出します。
10か月の申告期限から3年以内に遺産分割協議または調停が成立したときは、成立した日から4か月以内に「更正の請求」をすることによって、配偶者税額軽減や小規模宅地の特例を適用した税額で計算して、多く納めた税額の還付を受けることができます。
相続税の申告書または「更正の請求書」に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付した上で、申告期限までに分割されなかった財産について申告期限から3年以内に分割したときは、税額軽減の対象になります。
「更正の請求」の期限は、遺産分割協議または調停の成立した日から4か月以内であるため、この4か月の期限を過ぎた場合は、配偶者税額軽減や小規模宅地の特例を適用できないことになるため、税金の還付を受けることができなくなります。
以上の内容は、税務署または税理士にご確認ください。
家庭裁判所での遺産分割調停の手順
ここでは、遺産分割調停の申立てをした後、調停が開始されたときの手順について説明します。調停では、次のように進行します。
相続人の確定・遺産の範囲を確定・遺産の評価を確定
まず、次の1から4を確定します。
- 相続人を確定
遺産分割をする資格のある相続人を確定します。
相続放棄をした人や相続分譲渡をした人などを除きます。
安易に考えてはいけない相続分譲渡を参考にしてください。 - 遺言書の有無を確定
遺言書がある場合、遺言書で分割が決められていない遺産について調停の対象となります。 - 遺産の範囲を確定
調停で話し合う遺産がどれなのかを確定します。 - 遺産の評価を確定
遺産が不動産の場合、固定資産評価価格か税務署路線価格で評価します。評価方法について争いがある場合、裁判所指定の鑑定人が評価します。(鑑定料が数十万円かかります。)
前述の相続人や遺言書について争いがある場合、それぞれ、先に別の裁判でこれらを確定させる必要があります。また、遺産の範囲について争いがある場合、これを主張する側が証拠として裁判所に提出する必要があります。
遺産分割方法の話し合い
次に、遺産の分割方法について話し合います。
- 特別受益や寄与分・特別寄与料があるのか
- 分割方法
誰が何を相続するかを決めます。
原則は、法定相続分に基づいて決めます。場合によっては、代償金を支払うことにする場合もあります。不動産売却のための換価分割と代償分割を参考にしてください。
調停不成立
遺産分割について相続人全員の合意がない場合は、調停不成立となります。この場合、「審判」に移行します。審判では、最終的には裁判官が判断することになります。
調停成立
遺産分割について相続人全員が合意した時は、調停が成立し、裁判所が調停調書を作成します。
この場合、後述しますように、不動産の相続登記では、確実に登記できるように、調停成立前に事前に「調停(案)」を作成して、裁判所に提出するようにします。
家庭裁判所に提出する書類の準備
申立書を提出する家庭裁判所は、どこ?
調停申立ての提出先は、「相手方のうちの一人の住所地」を管轄する家庭裁判所(または当事者が合意で定める家庭裁判所)