相続手続(登記)が確実にできるためには、どんな遺言方式がいいのか

相続手続(登記)が確実にできるためには、どんな遺言方式がいいのか

遺言書があるとき

不動産の相続登記や各種相続手続において、亡くなった方の遺言書があれば、通常、まず、遺言書にしたがって、遺産を分配したり、相続手続をします。

遺言は、一般的に普通、「ゆいごん」と言っていますが、大学の先生などは「いごん」と言っています。私もお客さんと話す時は、一般的な「ゆいごん」で言っています。

遺言書は法律にしたがった方式で作成

遺言書は、民法が定める遺言の方式にしたがって作成した場合にだけ、遺言の法律上の効力が認められます。
この民法の定める遺言の方式にしたがっていない遺言書は、各種相続手続きや不動産の相続登記をする場合に使うことができません。
単に、遺書のようなものは、遺族に対するメッセージとはなっても、例えば、不動産の相続登記手続きはもちろんのこと、銀行での相続手続きやクルマの名義変更などには使用できません。

民法が定める遺言の方式には普通方式と特別方式があります。
特別方式は、ほんとうに特別な場合、緊急の場合にする遺言なので、ほとんどめったにないといっていいでしょう。

自筆証書遺言書か公正証書遺言書のどちらがいいのか

普通方式による遺言には、①自筆証書遺言書(遺言者が自分で書きます。)、②公正証書遺言書(公証人役場で作ります。)、③秘密証書遺言書(公証人役場で行いますが、遺言内容は本人以外は内容を知ることができません。)があります。

この中で、遺言の内容が確実に、より確実に実行できるのが公正証書遺言書です。

自筆証書遺言書は、自分ですべて自筆で書いて、書いた日付と署名、押印が絶対条件です。
ただし、本文以外の財産目録については、手書き以外の方法で作成することができます。例えば、パソコンで作成したり、通帳のコピー、不動産登記事項証明書のコピーでも財産目録とすることができます。

もし、自筆証書遺言書で作成したいということであれば、専門家によく書き方を指導してもらう必要があります。「遺言書が一部無効なとき」の相続登記の方法を参考にしてください。
遺言書の保管場所も考える必要がありますので、ほんとうに自分の死後のことを考えた場合、心配かもしれません。自分の死後、その遺言書が使えない、ということであれば、もう、悔やみようがありません。自筆証書遺言書の書き方は、自筆遺言書作成講座(遺言書の書き方)を参考にしてください。

例えば、こういうご相談も現実にはあります。
亡くなった祖父の書いた遺言書(?)があります。内容は、祖父の孫にすべてを託します、という内容です。遺言書(?)の作成方式は、ノートに遺言内容を自筆して署名していますが、日付と押印がありません。これは、日付と押印が遺言書の絶対条件ですので、遺言の方式にしたがっていないことになり、相続手続で使用できないことになります。

自筆証書遺言書は、自宅で保管することもできますが(相続開始後、家庭裁判所の検認手続が必要です。)、登記所の保管制度を利用することもできます。
登記所の保管制度を利用した自筆証書遺言書の場合、相続開始後、「遺言書情報証明書」を登記所で取得しなければなりません。(遺言書情報証明書の取得は、家庭裁判所の検認手続と同じくらい面倒な作業です。この取得まで時間もかかります。)これを取得しませんと各種の相続手続ができません。しかし、公正証書遺言書の場合は、こういう手続をする必要がありません。
登記所の保管制度を利用した自筆証書遺言書を参考にしてください。

やはりより確実なのが公正証書遺言書です。

公正証書ということですから、これは、公(おおやけ)に正しい証明書ということで、公証人役場の公証人が作成します。

この場合、その場に立ち会う証人2人が必要ですが、証人を誰にするのか、また、遺言の内容を知られることになりますので、証人となってくれる人を検討します。もし、証人となってくれる人がいない場合は、お金は少しかかっても、証人となってくれる人を公証人役場で紹介してくれますので、問題ありません。(証人への謝礼(一人当たり1万円以内)を支払います。)

公証人の手数料は、遺産の額と遺言の内容で決まりますので、たくさんありますと、それ相当の手数料を公証人に支払わなければなりません。込み入った内容ではない通常の公正証書遺言書で、遺産が5,000万円ほどであれば、公証人の手数料は5万円ほどです。

遺言書の保管場所については、公証人役場で保管しますので、心配する必要がありません。
その人が亡くなったときに、公証人役場に保管されていることを誰かが知っている必要はありますが。
もっとも、遺言者が公正証書遺言書を相続人など誰かに預けていれば問題ないでしょう。公正証書遺言書は、公証人役場で作成した時に、その正本と謄本を渡されますので、これで相続手続を行うことができます。

登記所の保管制度を利用した自筆証書遺言書の場合、相続開始後、「遺言書情報証明書」を登記所で取得しなければなりませんが、公正証書遺言書の場合は、こういう手続をする必要がありません。公正証書遺言書の場合は、遺言書作成時の公証人役場から受け取った遺言書の正本または謄本で手続ができます。もし、これがない場合は、公証人役場で再発行してもらうことができます。

ほんとうは、自筆証書遺言書と公正証書遺言書のどちらがいいのか

私が遺言書を作成するとすれば、たとえ5万円ほどかかっても公正証書遺言書にします。なぜなら、私の死後、確実に速やかに相続手続ができるからです。
登記所の保管制度を利用した自筆証書遺言書で、私の死後、相続人が相続手続をするには、登記所で「遺言書情報証明書」を取得する必要があります。これがないと相続手続ができません。
この遺言書情報証明書を取得するには、私の出生時から死亡時までのすべての除籍謄本、法定相続人全員の戸籍謄本、法定相続人全員の住民票を登記所に提出しないといけません。これらの書類を集めることは、通常の相続の必要書類を集めることと同じで、相続人にとって大変面倒な作業となります。さらに、遺言書が登記所で保管していることを法定相続人全員に知らされることになります。登記所が通知します。遺言書情報証明書の交付申請をする場合、法定相続人全員の住民票も提出することになっているからです。
公証人役場で作成する公正証書遺言書は、難しい作業でもありません。登記所の保管制度を利用した自筆証書遺言書に比べれば、遥かに安全確実だと思います。
司法書士の私でさえ、このように思います。

特に、公正証書遺言書で作成した方がよい場合は、次のとおりです。
例えば、法定相続人として被相続人の兄弟姉妹がいる場合、この兄弟姉妹には遺留分がありません。
遺言書でこの兄弟姉妹以外の人に「相続させる。」または「遺贈する。」という遺言書を作成した場合、兄弟姉妹には遺留分がありませんので、基本的に兄弟姉妹は遺産を取得することができません。
登記所の保管制度を利用した自筆証書遺言書の場合、登記所は、遺留分のない兄弟姉妹に対しても「登記所に遺言書が保管されている」旨のを通知します。
また、この制度を利用しない自筆証書遺言書の場合、相続登記のほかに各種相続手続を行うためには、家庭裁判所に遺言書の検認手続をして、遺言書に証明文を付けてもらう必要があります。
この検認手続では、遺留分のない被相続人の兄弟姉妹に対しても、検認手続に立ち会うことの通知を家庭裁判所がします。
法定相続人全員に対する「登記所からの通知」や「家庭裁判所からの通知」といったことが必要となる遺言書を作成することでもよいということであれば、自筆証書遺言書を選択することになります。

法務局(登記所)に保管された自筆証書遺言書は、

遺言書情報証明書を取得
遺言書情報証明書は、遺留分のない兄弟姉妹(甥・姪)にも登記所は通知する。

登記所の保管制度を利用しない自筆証書遺言書は、

自筆証書遺言書の検認手続では、遺留分のない兄弟姉妹(甥・姪)にも家庭裁判所は通知する。

結論:遺言書情報証明書の取得を、あるいは、自筆証書遺言書の検認手続を司法書士に依頼するのであれば、

相続開始後、相続人などが遺言書情報証明書の取得を、あるいは、自筆証書遺言書の検認手続を司法書士に依頼するのであれば、戸籍謄本や除籍謄本、住民票などの実費の他に、司法書士に支払う報酬として5万円から10万円ほどかかると思われます。
公証人役場で作成する公正証書遺言書の作成費用が5万円から10万円ほど(遺産総額がそれほど高くない。あるいは、これ以上高くなったとしても)であれば、より確実に相続手続(相続登記を含めて)ができる公正証書遺言書を選択するのがよいと思われます。
遺言書を公正証書で作成した方がよい事例を参考にしてください。

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