居住用相続不動産を売却する場合、代償分割か換価分割かの選択(相続登記)と売却方法

居住用相続不動産を売却する場合、代償分割か換価分割かの選択(相続登記)と売却方法

【相談内容】
被相続人父名義の不動産(土地・建物(1階店舗・2階3階居宅))を相続しました。父名義の不動産を売却して、売却代金を法定相続分に応じて分配したいと考えています。この場合、代償分割で相続登記するのか、換価分割で相続登記するのか、どちらがよいですか。

【相続人】
母:被相続人父と同居していた。母は売却行為(売買契約締結など)が難しい。
子(長男):相続人父と同居していた。子(長男)は売却行為(売買契約締結など)が難しい。
子(二男):相続人父と同居していなかった。
子(三男):相続人父と同居していなかった。

【居住用不動産の売却の場合の3,000万円特例控除の適用】
不動産の売却では、譲渡所得税の問題があります。居住用不動産の売却では、売却する不動産に居住していた人が売却する場合、売却益から3,000万円の特例控除があります(適用される)。

【相談者が、最初に、大手不動産仲介業者Aに相談】
大手不動産仲介業者Aの回答
遺産分割協議書に相続登記の名義人を「母が相続取得する。」とだけ記載し、そのほかのこと(分配金、分配方法など)は記載しないで相続登記をします。その後、母から子3名に分配します。

【相談者の疑問】
相談者は、大手不動産仲介業者Aの回答に疑問を感じ、別の大手不動産仲介業者Bに相談しました。
大手不動産仲介業者Bから同社提携の司法書士事務所を紹介されました。
この司法書士事務所は、細かい説明をせず、相談者が結論付けた方法(代償分割または換価分割)で遺産分割協議書を作成し、相続登記をするということで、結局、相談者は、遺産分割を代償分割または換価分割、どちらの方法でしたらよいのかが分からなかったといいます。

相続した居住用不動産を売却する場合、遺産分割を代償分割にするのか換価分割にするのかを考えるポイント

相続した居住用不動産を売却する場合、遺産分割を代償分割にするのか換価分割にするのかを考えるポイントは、次のとおりです。

  1. 遺産分割協議書に相続人一人が相続取得すると記載して、代償分割または換価分割のことを記載しないで、後から、他の相続人に分配することは税法上、問題ないのか。
  2. 居住用不動産の売却の場合の3,000万円特例控除の適用について
  3. 代償分割とは
  4. 換価分割とは
  5. 代償分割の場合、譲渡所得税の申告納税は誰がするのか
  6. 換価分割の場合、譲渡所得税の申告納税は誰がするのか
  7. 結局、相続人のうち、誰の名義とするのがよいのか
  8. 売買契約締結など売却方法は
  9. 譲渡所得税の申告を税理士に依頼する場合、税理士報酬はいくらかかるのか

遺産分割協議書に相続人一人が相続取得すると記載して、代償分割または換価分割のことを記載しないで、後から、他の相続人に分配することは税金上、問題ないのか。

例えば、母が不動産を相続取得して相続登記をし、売買代金決済終了後、母が子3名に法定相続分に相当する金銭で分配する場合、税金上、問題がないでしょうか。

遺産分割協議書には、「母が不動産を相続取得する。」としか記載されていませんので、母が子3名に、どういう名目にせよ、金銭を無償で渡す行為は贈与に当たります。
このため、子3名は贈与税を申告納税する必要があります。

例えば、子3名が各500万円贈与された場合、子3名は、次の計算方法で、それぞれが贈与税の申告納税をする必要があります。
(500万円-110万円)×20%-30万円(直系尊属からの贈与:特例税率)=480,000円
子3名には、それぞれ48万円の贈与税がかかることになります。

このように、遺産分割協議書に代償分割や換価分割の方法を記載しないで、後から相続人に対して分配金を渡す行為は、贈与税の対象となりますので、注意する必要があります。

居住用不動産の売却の場合の3,000万円特例控除の適用について

相続で取得した居住用不動産の売却に限らず、居住用不動産を売却した場合、売却益から3,000万円の特例控除があります。
相続で取得した居住用不動産の売却の場合、3,000万円の特例控除が適用されるのは、相続して間もなく売却する場合は、被相続人と同居していた相続人が売却する場合に適用されます。

事例の場合、被相続人父と同居していたのは、母と子(長男)ですので、この二人のどちらか(または両方)を相続名義人とした場合に、3,000万円の特例控除が適用されることになります。
ただし、事例の場合、建物の1階部分は店舗であったので、店舗部分を除いた居宅部分に3,000万円の特例控除が適用されることになります。

代償分割とは

遺産分割で相続取得する相続人を決める場合、この相続人が(一般的には)遺産を取得する代わりに他の相続人に対し、金○○円を支払うという場合に、このことを代償分割といいます。代償分割は、代償金の額が確定している場合に代償分割ということができます。
代償金の額が確定していない場合、代償分割とはいえません。例えば、「相続人の一人が不動産を取得する代わりに、その相続人が相続不動産を売却して、ほかの相続人に売却代金の中から、代償金として〇分の〇の割合で支払う。」という遺産分割協議の内容では、代償分割とはいえません。代償金とは記載されている場合であっても、これは換価分割と同じことだからです。

代償分割では、例えば、事例のように、遺産が不動産1か所と多少の預貯金の場合、特に、被相続人と同居していた相続人がいる場合は、この相続人が居住する場所を確保するという意味でも、被相続人の多少の預貯金では他の相続人に金銭で分配できません。そこで、その代わりに、被相続人と同居していた相続人が自分の手持ち資金などで、ほかの相続人に対し、金銭で支払うという方法が考えられます。
このような場合を代償分割といいます。
相続人が不動産を取得する代わりに、ほかの相続人に対し、代償金として金○○円を支払う、というものです。このことを遺産分割協議書に記載します。

この場合、「ほかの相続人に対し、代償金として金○○円を支払う」という行為は、「相続の一環」として行われることから贈与税の問題はありません。
これが、先の大手不動産仲介業者Aの回答のように、遺産分割協議書に「ほかの相続人に対し、代償金として金○○円を支払う」という記載がなく、単に、ほかの相続人に対し、金銭を渡す行為は贈与税の対象となってしまいます。

換価分割とは

換価分割とは、被相続人名義の不動産を売却して、その売却代金を相続人で分配するという遺産分割の方法です。
換価分割の場合の遺産分割協議書には、例えば、次のように記載します。

【相続人全員名義で相続登記をする場合】
     遺産分割協議書
相続人A、B、Cは、不動産を各3分の1の割合で相続取得する。
ただし、不動産を売却し、売却代金から次の経費等を差し引いた金額を各3分の1の割合で分配する。
売却に係る経費等
(1)上記不動産の司法書士に支払う相続登記費用(報酬・実費)
(2)売買契約締結・決済に係る諸経費(売買契約書に貼付する収入印紙税、仲介業者への仲介手数料、交通費など)
(3)境界確定作業がある場合の測量費、境界確定料、登記費用など
(4)譲渡所得税がかかる場合の譲渡所得税
(5)上記の他、不動産売却に伴う必要な経費

「売却に係る経費等」を記載しない場合は、各相続人は、「売却代金から受け取った金額」から相続取得する割合で「売却に係る経費等」を負担するということになります。
相続人全員を名義人として登記した場合は、名義人全員が売買契約の売主として、基本的には、契約締結時、売買代金締結時に出席する必要があります。売買契約を代理人に委任した場合であっても、名義人全員に対して、売買による所有権移転登記を代理申請する司法書士の本人確認と意思確認が必要です。

【相続人の一名を相続名義人として相続登記をする場合】
      遺産分割協議書
相続人Aは、不動産を相続取得する。
ただし、不動産を売却し、売却代金から次の経費等を差し引いた金額を、相続人A、B、C各3分の1の割合で分配する。
売却に係る経費等
(1)上記不動産の司法書士に支払う相続登記費用(報酬・実費)
(2)売買契約締結・決済に係る諸経費(売買契約書に貼付する収入印紙税、仲介業者への仲介手数料、交通費など)
(3)境界確定作業がある場合の測量費、境界確定料、登記費用など
(4)譲渡所得税がかかる場合の譲渡所得税
(5)上記の他、不動産売却に伴う必要な経費

国税庁の次のサイトを参考にしてください。

「国税庁ホームページより」遺産の換価分割のための相続登記と贈与税
【照会要旨】
 遺産分割の調停により換価分割をすることになりました。ところで、換価の都合上、共同相続人のうち1人の名義に相続登記をしたうえで換価し、その後において、換価代金を分配することとしました。
この場合、贈与税の課税が問題になりますか。
【回答要旨】
 共同相続人のうちの1人の名義で相続登記をしたことが、単に換価のための便宜のものであり、その代金が、分割に関する調停の内容に従って実際に分配される場合には、贈与税の課税が問題になることはありません。
【関係法令通達】
 相続税法第1条の4
 注記
 平成28年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。

代償分割の場合、譲渡所得税の申告納税は誰がするのか

代償分割の方法の場合、相続人のうち特定の人が不動産を相続取得することになりますので、不動産の名義人となった相続人が譲渡所得税の申告納税をすることになります。(2023年、東京国税局電話相談室に確認済み)

換価分割の場合、譲渡所得税の申告納税は誰がするのか

換価分割の方法の場合、形式上相続人のうち1名が取得することになっても、実質的に相続人全員が不動産を相続取得することになりますので、相続人全員が個別に譲渡所得税の申告納税をすることになります。(2023年、東京国税局電話相談室に確認済み)

結局、相続人のうち、誰の名義とするのがよいのか

事例の場合、相続した不動産を売却して、売却代金を法定相続分の割合に応じて分配する場合、被相続人と同居していた(例えば)母を相続名義人として、代償分割の方法で相続登記をするのがよいでしょう。
この場合、遺産分割協議書には、例えば、次のように記載します。

     遺産分割協議書
相続人 母○○は、次の遺産(不動産)を相続取得する。
【代償金の支払い】
母○○は、上記不動産を相続取得する代わりに代償金として、子(長男)○○に金500万円を、子(二男)○○に金500万円を、子(三男)○○に金500万円を、〇年〇月〇日までに支払う。

売買契約締結など売却方法は

被相続人名義の不動産を売却する場合、被相続人名義のままでは、不動産の売買契約を締結することができません。なぜなら、死者が「売る」という意思を表明することができないからです。
ですので、被相続人名義を相続人名義に変更登記した後でなければ、売買契約を締結することができないのが基本です。もっとも、最低限、遺産分割協議書で不動産を取得することになる相続人が誰であるのかが確定することが必要です。

売買契約締結ができる時期

事例の場合で、母が不動産の名義人となった場合、売買契約締結ができる時期は、被相続人の除籍謄本、相続人の戸籍謄本や遺産分割協議書、印鑑証明書など相続登記ができる書類全てが揃ったときです。相続登記ができる書類すべてが揃ったことで不動産の名義人が確定しますので、この名義人が売主となることができるからです。

実際には、相続登記ができる書類すべてが揃ったということで、相続登記申請ができますので、司法書士が相続登記を申請し、申請した時点で、登記所が登記申請を受け付けたという「受付のお知らせ」または「受領証」があれば、売買契約を締結して問題がないことになります。

売買契約締結時の方法

売買契約締結は、通常、売主・買主が同席の上、売買契約書に署名捺印します。事例の場合、母は同席することができませんので、例えば、子(二男)が母を代理して売買契約締結をします。

売買代金決済時の方法

事例の場合、売買契約締結時には、母が子(二男)を代理人としていましたので同席していませんでした。
売買代金決済時には、売買による所有権移転登記を申請代理する司法書士が立ち会い、売主・買主双方の本人確認と意思確認を行います。
事例の場合、例えば、売買代金決済場所に、子(二男)が母を同席させれば、司法書士が売主である母の本人確認と意思確認ができますので、売買による所有権移転登記ができることになります。

譲渡所得税の申告を税理士に依頼する場合、税理士報酬はいくらかかるのか

事例のように、3,000万円の特例控除を適用しなければ譲渡所得税がかかる場合、あるいは、3,000万円の特例控除の適用がない場合であっても譲渡所得税がかかる場合、譲渡所得税の申告が必要です。
譲渡所得税の申告を自分ですることができないときは、税理士に申告を依頼することになります。
この場合、税理士報酬は、申告する人一人当たり15万円から20万円かかるようです。(顧問税理士の話し)

このようなことからも、事例の場合、換価分割(相続人全員で申告)よりも代償分割(相続人の一人が申告)を選択した方がよいと言えます。

まとめ:居住用相続不動産を売却する場合の注意点

居住用相続不動産を売却して、売却代金を相続人に分配する場合、代償分割か換価分割かを選択することになりますが、譲渡所得税の申告・納税が必要な場合、基本的には、代償分割の方がよいと言えるでしょう。
家庭裁判所の遺産分割調停では、相続不動産を売却して相続人に分配する場合、換価分割によることが多いようです。

次を参考にしてください。
遺産分割協議書の書き方(代償分割)
代償分割による相続登記
不動産売却のための換価分割と代償分割

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