死因贈与による登記(仮登記と本登記)

死因贈与による登記(仮登記と本登記)

死因贈与契約とは、ある人が死亡したときに効力を生ずる贈与者と受贈者との契約です。
この死因贈与契約書は、後々説明しますように、公正証書で作成するのがベストです。公証人役場で公証人が作成してくれます。)
普通、死因贈与契約は、あまり行われませんが、贈与を受けたいと思う人が、自分の権利を確保したい場合に、この契約をして、他の人に名義変更されないように登記します。

【遺言書による「遺贈」や「相続」との違い】

遺言書によって「誰々に遺贈する。」や「誰々(推定相続人)に相続させる。」とすることで、遺言者(不動産の所有者)が死亡した時に、当然効力を生じます。ただし、遺言者が死亡するまでは、遺贈を受ける人(受遺者)や推定相続人の権利は確保されません。

また、遺言者は、すでに書いた遺言書を後日、撤回できますので、遺言書に書かれた受遺者となる人や推定相続人の権利が不確かな状態が続くことになります。
さらに、死因贈与の場合、仮登記という方法で、完全ではないけれども、一応、「権利者」としての権利を確保することができますが、 遺言書による「遺贈」や「相続」 の場合は、遺言者の死亡まで仮登記など登記をする手段がありません。

死因贈与契約書は、私署証書(普通の契約書)で作成することも、もちろん可能です。ただ、これを公正証書で作成することのメリットは、後々説明しますように、絶大です。
公証人が契約書を作成するために、次の書類を事前に公証人役場に渡します。
(1)死因贈与契約の内容を書いたもの、または、公証人に説明する。
(2)贈与者・受贈者の印鑑証明書
(3)固定資産税の納税通知書(課税明細が記載されているもの)
   公証人の手数料は、不動産の評価価格で計算しますので、一概にいくらということが言えませんが、評価価格:1,000万円くらいであれば、おおよそ5万円ほどです。
公証人が作成した契約書の読み合わせをする際は、公証人役場に「実印」を持参して、公正証書の原本に各自署名・実印を押印します。
最後に、公証人が公正証書として正本と謄本を渡してくれます。これを「仮登記」と「本登記」に使用します。

死因贈与による仮登記

この登記は、死因贈与契約が、 ある人(所有者)が死亡したときに効力を生ずる仮の権利ですので、移転「仮登記」という方法で登記します。そして、ある人が死亡した時に「仮登記」の「本登記」をすることになります。

【「仮登記」をしておけば、安心ですか。】
死因贈与契約による仮登記は、仮の権利ですので、登記記録には、普通の名義変更とは異なり、所有者とは記載されず「権利者」として記載されます。
また、 仮登記の権利者である受贈者が、このように、他の人に名義変更されないように、と思ったとしても、現在の所有者は、所有者としての地位に変更がありませんので、この所有者が第三者に名義変更(移転登記)することは可能です。
ただし、この場合、移転登記を受けた第三者は、登記記録上、仮登記が登記されていることを認識(承知)して移転登記を受けることになりますので、通常の場合、第三者が仮登記が登記されていることを承知で、所有者から移転登記を受けることは少ないといえます。

【贈与税は高額】
以前、この死因贈与契約によって、それなりの件数で仮登記が行われていた理由は、次のとおりです。
普通、死因贈与契約で想定される当事者は、相続関係者(推定相続人)です。被相続人の配偶者や子です。
この場合、死因贈与契約ではなく、生前贈与契約で名義変更の所有権移転登記(仮登記ではなく本登記)を行う場合、贈与税が非常に高くなります。
贈与価格が2,500万円であれば、親子の関係であっても、贈与税を860万円納めることになります。(2,500万円×45%-265万円=860万円)

ですので、贈与税が高額であることから、死因贈与契約で、とりあえず仮登記をしておこうということになります。

ただ、親が子に(生前)贈与する場合、今では、相続時精算課税制度による贈与で、贈与価格が2,500万円以内であれば、贈与税が優遇されていますので、そういう意味で、親子の贈与の場合、死因贈与契約による仮登記は少なくなったといえるでしょう。

死因贈与による仮登記の方法

登記の方法は、次のとおりです。
死因贈与による所有権移転の仮登記は、基本的に贈与者(義務者)と受贈者(権利者)との共同申請で行います。
贈与者の承諾があるときは、受贈者(権利者)からの単独で申請することができます。
(仮登記の場合、義務者の承諾書(印鑑証明書付き)があれば、権利者が単独で申請できます。)
権利者の単独申請の場合、義務者の実印を押印した承諾書と印鑑証明書が必要となります。

権利者の単独申請の場合、死因贈与契約書が公正証書(公証人役場で作成)で作成されている場合で、所有権移転仮登記を贈与者(義務者)が承諾する旨の記載があるときも同様に、権利者が単独で申請できます。この場合、義務者の承諾書と印鑑証明書は不要となります。
死因贈与契約書が公正証書で作成されていない場合は、義務者乙(所有者)の承諾書を作成し、これに義務者乙が実印を押印し、義務者乙の印鑑証明書が必要となります。
なお、仮登記の場合、義務者乙の権利証(登記済権利証や登記識別情報通知)は不要です。

(登記申請書の記載例)
登記の目的 始期付所有権移転仮登記
原   因 年月日始期付贈与(始期 ○○の死亡)
権 利 者 甲
義 務 者 乙

登録免許税は、固定資産税の評価価格の2%の2分の1です。(本登記を行うときは、残りの2分の1の登録免許税がかかります。)
贈与による所有権移転登記の税率は2%です。仮登記の場合、これで計算した登録免許税の2分の1が、仮登記の登録免許税ということになります。残りの2分の1の登録免許税は、仮登記の本登記を行うときに納めます。
例えば、評価価格:1,000万円の場合
1,000万円×2%×1/2=10万円(登録免許税)
      
仮登記の場合、住民票の添付は不要です。
ただし、使用した公正証書に記載された権利者の住所として、「丁目」・「番地」が省略されていたため、委任状には、住民票に記載のとおりに住所を記載してもらいました。
(以上、平成28年横浜地方法務局西湘二宮支局で登記完了)

参考までに(昔の登記記載例)約30年前の登記では、次の登記記載例があります。
登記の目的 条件付所有権移転仮登記
原   因 年月日贈与(条件 ○○の死亡)

死因贈与による「仮登記」の「本登記」の方法

死因贈与契約の贈与者が死亡したことによって、死因贈与契約の効力が生じます。そこで、仮登記の権利であったものを「所有者」として「本登記」をすることになります。
死因贈与契約書を公正証書で作成した場合の必要書類は、次のとおりです。
公正証書には「執行者」の記載がある場合で、この執行者を受贈者と同じにした場合です。
→ この場合、執行者と受贈者が同じなので、事実上、単独申請ができます。(形式上は権利者・義務者の共同申請)
(1)公正証書の正本または謄本(←登記原因証明情報となる。)
   死亡した贈与者の除籍謄本(贈与契約の贈与者が死亡したことを証明)
   死亡した贈与者の住民票の除票
(2)執行者の印鑑証明書・実印
(3)受贈者の住民票・印鑑(認印で可)
(4)元の所有者が持っていた権利証(登記済権利証または登記識別情報通知)
   → もし、この権利証がない場合であっても、 執行者と受贈者が同じであれば、難しいことはありません。
(5)固定資産税の評価証明書(登録免許税の根拠を示すために必要です。)

もし、 死因贈与契約書を公正証書で作成していなかった場合は、次のとおりです。
(1) 公正証書の正本または謄本の代わりに
   死因贈与契約書(私署証書)
   執行者の定めがある場合、死亡した贈与者の印鑑証明書
   (私署証書が真正に作成されたものであることを証明)
   死亡した贈与者の法定相続人全員の戸籍謄本・印鑑証明書・実印
   死亡した贈与者(被相続人)の出生から死亡時までの除籍謄本
   死亡した贈与者の住民票の除票
(2)執行者の印鑑証明書・実印(執行者がいない場合、法定相続人全員の印鑑証明書・実印)
(3)受贈者の住民票・印鑑(認印で可)
(4)元の所有者が持っていた権利証(登記済権利証または登記識別情報通知)
   → もし、この権利証がない場合、登記義務者が執行者でなく、法定相続人全員の場合は難しくなります。法定相続人全員が権利証を持っていないことと同じだからです。
(5)固定資産税の評価証明書(登録免許税の根拠を示すために必要です。)

●別の方面からの情報
 登記所としては、次の条件であれば、公正証書による死因贈与契約書でなくても、執行者が義務者として登記ができる。
(1)死因贈与契約書の贈与者の押印が実印でなされている。
(2)贈与者の印鑑証明書がある(有効期限を問わない)。

(3)死因贈与契約書に執行者の定めが記載されている。

●最初の死因贈与契約書の作成段階で、最終的な仮登記の本登記をすることも考えて、圧倒的に本登記がしやすい公正証書で死因贈与契約書を作成するのがベストです。費用は多少かかっても。(おおよそ5万円)

(登記申請書の記載例)
登記の目的 所有権移転(〇番仮登記の本登記)
原   因 年月日贈与 ← 贈与の日付は、死亡した贈与者の死亡日です。
権 利 者 甲
義 務 者 乙

登録免許税は、固定資産税の評価価格の2%の2分の1です。(仮登記ですでに2分の1の登録免許税を納めています。)

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