相続放棄をしたい人と限定承認をしたい人がいる:注意点

相続放棄をしたい人と限定承認をしたい人がいる:注意点

執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)

相続放棄をしたい人と限定承認をしたい人がいる場合の注意点について解説します。

【相続放棄・限定承認相談】
相続人の中に、相続放棄をしたい人と限定承認をしたい人がいる場合、どのような点に注意したらよいのかを教えてください。

「相続放棄」と「限定承認」の申立て方法の違い

相続において「相続放棄」と「限定承認」とでは、申立て方法が異なります。特に、相続人の中で「放棄したい人」と「限定承認したい人」がいる場合には、手続の進め方に注意が必要です。

  • 相続放棄
     各相続人が単独で申立てができる。
     相続放棄が正式に受理されると、その人は最初から相続人ではなかったことになる。
  • 限定承認
     相続人全員で申立てをする必要がある。

相続放棄の申立ては、各相続人が単独(一人)でできるため、限定承認をしたい人がいる場合であっても、先に、相続放棄の申立てをすることができます。
この場合、「先に相続放棄をした人は相続人でなくなる」ため、その後に残った相続人全員で限定承認の申立てを行うことは可能です。

相続財産清算人の選任:限定承認

限定承認では、申立てた相続人が複数いる場合、その中の一名(または代理人弁護士など)を「相続財産清算人候補者」として、申立書に記載します。
相続財産清算人が清算行為などを行うため、ほかの相続人は何もする必要がありません。

このため、あえて相続放棄の申立てをしなくてもよいと思われますが、相続人の中には、自分が完全に相続人としての立場から離れたいと思う人がいるため、自分だけ相続放棄をしたいと考えます。
このことは、プラスの遺産がマイナスの遺産を上回る場合であっても、このように考える人もいます。

相続の熟慮期間(3か月)の問題

相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から「3か月以内」に、次のいずれかを選択する必要があります(民法915条)。この3か月を「熟慮期間」といいます。

相続の方法
 ●単純承認:すべての遺産(プラス・マイナス)を引き継ぐ。
 ●相続放棄:遺産(プラス・マイナス)を何も引き継がない。
 ●限定承認:プラスの遺産の範囲でマイナスの遺産も引き継ぐ。

法定単純承認

熟慮期間の3か月を過ぎると、(自動的に)単純承認とみなされます。

民法 第九百二十一条 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。

相続放棄をしたい人と限定承認をしたい人がいる場合

先に相続放棄の申立てをし、その後に限定承認の申立てをするとき

相続人A:相続放棄がしたい
相続人B:限定承認がしたい
相続人C:限定承認がしたい

相続人Aの相続放棄が受理されると、Aは、はじめから相続人でなかったことになるので、相続人はBとCとなります。相続人BとCで限定承認の申立てができます。

相続人BとCが限定承認の申立てができる期限

例えば、次の場合、相続人BとCは、どうしたらよいでしょうか。
相続人BとCが被相続人の死亡を知った日:4月1日
相続人Aが相続放棄の申立てをした日:6月1日
相続人BとCが限定承認の申立てができる期限(知った日から3か月後):7月1日

相続人Aの相続放棄の受理日が不明であるので(おおよそ1か月?)、相続人BとCは、相続放棄の受理日(Aが相続人ではなかったことが確定)まで待ってから、限定承認の申立てをすると、熟慮期間の3か月を過ぎでしまうので、6月中に、限定承認の申立てをする必要があります。
この場合、家庭裁判所の運用で、受理日が確定しない段階で、追って限定承認の申立てをすることが可能とされています。(2026年、横浜家庭裁判所に確認済み)
ただし、申立てをする家庭裁判所に、この点について確認をした方がよいでしょう。

この場合、家庭裁判所では、後の限定承認の申立てを保留とし、相続放棄の受理が確定した後、限定承認の申立ての手続を進めることになります。

この場合、先に申立てのあった相続放棄が、万が一、受理されなかった場合、後の限定承認の申立てが、相続人全員で行われないことになるので、限定承認の申立ては受理されないというリスクがあります。

熟慮期間の伸長の申立て

前述のように、先に申立てのあった相続放棄が、万が一、受理されなかった場合、後の限定承認の申立てが、相続人全員で行われないことになるので、限定承認の申立ては受理されないというリスクがあります。

そこで、「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月」を過ぎてしまいそうなときは、「熟慮期間の伸長の申立て」をして、熟慮期間を伸長することが可能です。

ですが、先に申立てのあった相続放棄が、万が一、受理されなかった場合、相続放棄をしたい人の「熟慮期間(3か月)」が過ぎてしまう可能性があります。
そうしますと、「限定承認をしたい人」が熟慮期間を伸長したとしても、「相続放棄をしたい人」の熟慮期間が経過してしまうと、法定単純承認となってしまうので、結果として、(相続人全員で限定承認の申立てをする必要があるので、)「限定承認をしたい人」が限定承認の申立てができないことになります。

このようなリスクが多少なりともあるので、「相続放棄をしたい人」を説得して、相続人全員で限定承認の申立てをするようにした方がよいでしょう。
他の人が相続財産清算人となり、受理後の手続などをしますので、「相続放棄をしたい人」は何もすることはありません。

まとめ:相続放棄をしたい人と限定承認をしたい人がいる:注意点

相続放棄をしたい人と限定承認をしたい人がいる場合は、注意が必要です。
相続放棄をしたい人と限定承認をしたい人がいる場合

  1. 相続放棄をしたい人が、先に相続放棄の申立てをする。
  2. 相続放棄の申立てをした人を除いた相続人全員で限定承認の申立てをする。
  3. 相続放棄・限定承認の申立てをすべて「自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内」に行う。
  4. 先に申立てた相続放棄が、確実に家庭裁判所に受理されるようにする。
  5. 相続放棄の申立てが、心配される・不確実な場合は、「相続放棄をしたい人」を説得して、相続人全員で限定承認の申立てをするようにする。

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相続放棄・限定承認・相続登記相談風景(イメージ)
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