債権者代位で相続登記後の遺産分割登記と錯誤で更正登記

債権者代位で相続登記後の遺産分割登記と錯誤で更正登記

売主の死亡後に、「売買契約の代金請求について」の裁判上の争いがあり、裁判の原告(買主)から債権者代位で、法定相続分で相続登記(不動産名義変更)をされた後、この裁判が被告(売主)である相続人の勝訴となり、その後、相続人の間で遺産分割協議が成立した場合、どのような登記をすればよいでしょうか。

債権者代位登記とは

債権者代位権とは、債権者が債務者に対して有する債権を保全するため、債務者の有する権利を債権者が債務者に代わって(代位して)行う権利のことをいいます。この権利を行使して行うのが、債権者代位による登記です。
事例の場合は、売買契約の買主である債権者が、売主に対して有する売買代金請求権を保全するため、債務者である売主の相続人が有する権利である「相続権」を、債権者の買主が債務者である売主の相続人に代わって(代位して)、相続人の法定相続分での名義変更登記を行うことをいいます。

事例の場合、次のように登記します。
債権者代位登記の例
(登記の目的)所有権移転
(登記)「原因」:年月日相続
(相続人):A持分3分の1、B持分3分の1、C持分3分の1
代位者:D
代位原因:年月日売買代金請求権

通常、この代位登記の後に、仮差押や仮処分の登記をします。
債権者が仮差押や仮処分の登記をする場合、被相続人の売主名義のままでは、これらの登記を行うことができませんので、売主の相続人名義に法定相続分での代位登記を先にする必要があります。

代位でなされた法定相続分での登記が、A持分3分の1、B持分3分の1、C持分3分の1の場合、遺産分割でCが土地所有権全部を相続すると決定したときは、どのようにCに所有権の登記をすればよいでしょうか。

「遺産分割」を登記原因として持分全部移転登記

このような場合、通常、「遺産分割」を原因として、持分全部移転で登記します。「遺産分割」を登記原因として行うのが、自然な方法と言えます。

登記の目的 A、B持分全部移転
原   因 平成○年○月○日(遺産分割協議成立の日)「遺産分割」
権 利 者 持分3分の2 C
義 務 者 A、B
「遺産分割」を登記原因とする場合の登録免許税は、移転する持分3分の2の評価価格の0・4%です。

この申請の場合、A、Bには、債権者代位による登記で登記識別情報(権利証)が発行されていませんでしたので、登記申請後、登記所からA、B2名に通知する方法で行います。(権利証がない場合の事前通知)

登記義務者の「登記識別情報」がない場合の、これに代わる方法には、①登記所からの事前通知、②司法書士による本人確認情報の作成、③公証人役場での本人証明があります。
事例の場合、相続人間で遺産分割協議に基づいて登記するということは、相続人間での合意があったことになりますので、①の登記所からの「相続人A・B」に対する事前通知で十分登記が可能であること、及び「事前通知」であれば費用がかからないことから、この事前通知を選択することになります。

「錯誤による所有権更正」または「錯誤で所有権抹消」は?

「錯誤で所有権更正」の方法で登記する場合、そもそも最初にした登記の内容が誤りであったことが前提条件となります。最初にした登記の内容が誤りであった場合、「錯誤で所有権更正」の方法で登記をすることはできます。この場合、「錯誤で所有権更正」で登記をすることについての根拠が必要です。その根拠を「登記原因証明情報」に記載して登記所に提出しなければなりません。

ところで、債権者代位で相続により法定相続分での所有権移転登記は、相続人にとっては、あずかり知らないことなので、錯誤で所有権更正としてもよさそうですが。

しかし、債権者代位による法定相続分で登記をした内容それ自体、誤った登記ではありません。
また、そもそも、債権者代位で登記した申請人と今回申請しようとしている相続人が異なります。
今回申請しようとしている相続人が、誤った内容の相続登記をしたわけでもありません。
「錯誤で所有権更正」で登記をする場合、その根拠を「登記原因証明情報」に記載して登記所に提出します。

そもそも、錯誤で所有権更正登記の場合は、その登記された内容が、まったく違っていた場合です。
例えば、法定相続分で登記をしたが、その法定相続分に誤りがあった場合、相続人に誤り(名義人として誤り)があった場合、遺産分割で登記したが、遺産分割の内容に誤りがあった場合です。
その他、例えば、家庭裁判所での相続放棄をした人がいたにもかかわらず、法定相続人全員での登記をした場合は、錯誤があったと言えます。

また、もし仮に、相続人全員での遺産分割協議が債権者代位登記の前に成立していたのであれば、「錯誤で所有権更正」も可能と思われます。ただし、他の担保権など「所有権更正」を阻害する登記がないことが前提です。

通常、一旦、法定相続分で登記をし、その後、遺産分割が成立したので、「遺産分割」を原因として持分移転登記をすることはよくあることです。(「遺産分割」の登録免許税は固定資産評価価格の0・4%で「相続」の場合と同じ税率です。)

今回、他人様が行った法定相続分での所有権移転登記を認めたうえで、「遺産分割」を原因として持分移転登記をすることは問題ありません。

「遺産分割」で持分全部移転登記をした場合、事例のCの権利証(登記識別情報)は、後から登記した分のみ発行されます。
債権者代位で法定相続分での登記をした前の分(登記識別情報)は、それ以降存在しないことになります。
債権者代位によって登記された場合、その登記の登記識別情報(権利証)は発行されないことになっています。
すなわち、後から登記する持分3分の2のみ登記識別情報(権利証)があるだけです。

もし、事例のCの権利証として、完全なものが必要であれば、前にした登記を「錯誤で所有権抹消」し、改めて相続(相続証明書一式や遺産分割協議書を添付)による所有権移転登記をすることも考えられます。
前述したとおり、「錯誤で所有権更正」は、誤った登記であることが前提です。「錯誤で所有権抹消」も同じです。
もし、仮に、相続人全員での遺産分割協議が債権者代位登記の前に成立していたのであれば、「錯誤で所有権抹消」も可能と思われます。ただし、他の担保権など「所有権抹消」を阻害する登記がないことが前提です。

「錯誤で所有権更正」か「錯誤で所有権抹消」は、実際どういうことだったのかということで考える必要があります。この実際がどういうことだったのかを「登記原因証明情報」に記載することになります。

登記識別情報(権利証)は、その後の所有権移転や抵当権設定登記に必要なものですが、もし、一部でも登記識別情報が存在しない場合は、別の手続でカバーできますので、一部が存在しないからと言って、特に問題はありません。登記識別情報については、こちらを参考にしてください。

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