成年後見制度
成年後見制度とは、どういう制度でしょうか。
成年後見制度とは、ある人 (本人)の判断能力が精神上の障害により不十分な場合 (認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等)に、本人を法律的に保護し、支えるための制度です。
成年後見制度の類型
- 法定後見制度(法律による後見制度)
ア)成年後見 → 本人の判断能力が全くない場合に、家庭裁判所が後見人を選任します。
イ)保佐 → 本人の判断能力が特に不十分な場合に、家庭裁判所が保佐人を選任します。
ウ)補助 → 本人の判断能力が不十分な場合に、家庭裁判所が補助人を選任します。 - 任意後見制度(契約による後見制度)
本人に判断能力があるうちに,将来、判断能力が不十分な状態になることに備え、公正証書(公証人役場で作成)を作成して任意後見契約を結び,任意後見人を選んでおきます。
任意後見(契約)(任せて安心、転ばぬ先の杖)も参考にしてください。
法定後見制度(法律による後見制度)
ア)成年後見 → 本人の判断能力が全くない場合
成年後見とは、本人が一人で日常生活を送ることができなかったり、一人で財産管理ができないというように、本人の判断能力が全くない場合です。
その場合、家庭裁判所が後見開始の審判とともに、本人(成年被後見人)を援助する人として成年後見人を選任します。
成年後見人は、本人の財産を管理するとともに、広範な代理権と取消権を持ちます。
したがって、本人に代わって様々な契約を結ぶなどして、本人が日常生活に困らないよう十分に配慮していかなければなりません。
また、成年後見人は、本人のために活動する義務を広く負うことになります。
これは通常の場合、本人が亡くなるまで続きます。
成年被後見人本人は、選挙権と被選挙権があります。(平成25年7月以降)
イ)保佐 → 本人の判断能力が特に不十分な場合
保佐とは、本人が日常的な買い物程度は一人でできるが、金銭の貸借や不動産 の売買等、重要な財産行為は一人ではできないというように、本人の判断能力が特に不十分な場合です。
その場合,家庭裁判所が保佐開始の審判とともに、本人(被保佐人)を援助する人として保佐人を選任します。
保佐開始の審判を受けた本人は、一定の重要な行為(民法第13条1項記載の行為)を、単独で行うことができなくなります。
保佐人は,本人が一定の重要な行為を行う際に、その内容が本人の利益を害するものでないか注意しながら、
(1) 本人がしようとすることに同意したり(同意権)、
(2) 本人が既にしてしまったことを取り消したりします (取消権)。
(3) 保佐人は,家庭裁判所で認められれば、特定の法律行為について本人を代理して契約を結んだりすることもできます(代理権)。
このように代理権を付け加えたい場合は、保佐開始の申立てのほかに、別途、代理権を保佐人に与える申立てが必要になります。
※ 重要な法律行為(民法第13条1項)
- 預貯金を払い戻すこと
- 金銭を貸し付けること
- 金銭を借りたり、保証人になること
- 不動産などの重要な財産に関する権利を得たり失ったりする行為をすること
- 民事訴訟の原告となって訴訟行為をすること
- 贈与、和解、仲裁合意をすること
- 相続を承認、放棄したり、遺産分割をすること
- 贈与や遺贈を拒絶したり不利なそれらを受けること
- 新築、改築、増築や大修繕をすること
- 民法第602条の一定期間を超える賃貸借契約をすること
※ 特定の法律行為
- 預貯金の払い戻し
- 不動産の売却
- 介護契約締結など
ウ)補助 → 本人の判断能力が不十分な場合
補助とは、本人が一人で重要な財産行為を適切に行えるか不安があり、本人の利益のためには誰かに代わってもらったほうがよいというように、本人の判断能力が不十分な場合です。
その場合、家庭裁判所が,補助開始の審判とともに、本人(被補助人)を援助する人として補助人を選任します。
補助人は、本人が望む一定の事項につぃてのみ(同意権や取消権は民法第13条1項記載の行為の一部に限る)、保佐人と同様,同意や取消しや代理をし,本人を援助していきます。
補助開始の場合は、その申立てと一緒に,必ず同意権や代理権を補助人に与える申立てをしなければなりません。
また、補助開始の審判をすることにも、補助人に同意権または代理権を与えることにも、本人の同意が必要です。
※ 後見、保佐、補助のどれに該当するか明らかでない場合、
申立ての段階では、医師の診断書の内容に対応する類型の申立てをします。
申立て後に行われる鑑定により、申立ての類型と異なる結果が出る場合があります。
この場合には、申立ての趣旨の変更という手続きをします。
申立ての趣旨の変更に伴い、新たに代理権付与や同意権付与の申立てをする場合には、申立手数料(各800円)が必要になります。
申立てに必要な書類と費用(実費)
必要書類
1)申立書
2)申立事情説明書
3)親族関係図
4)本人の財産目録、その資料(コピー)
→ 不動産登記事項証明書、預貯金通帳、各種の証書、負債に関する資料、収入に関する資料、支出に関する資料
5)本人の収支状況報告書、その資料 → 領収書の写しなど
6)後見人等候補者事情説明書
7)戸籍謄本 → 本人、申立人、後見人等候補者
8)住民票 → 本人、申立人、後見人等候補者
9)登記されていないことの証明書 → 本人、申立人、後見人等候補者
成年被後見人、被保佐人、被補助人、任意後見契約の記録がない、ことの証明書
10)診断書(主治医)
費用(実費)― 申立てをする時に必要です。
1)収入印紙 800円(保佐、補助で代理権、同意権の付与の場合は、さらにそれぞれ800円)
2)登記印紙 4,000円
3)郵便切手 4,300円 →内訳 500円が4枚、100円が5枚、80円が20枚、10円が20枚
4)鑑定費用 5万円から15万円
当事務所に依頼される場合の司法書士報酬は、相続登記費用の追加報酬でご確認ください。
事前準備、申立て、審判確定後の流れと期間
1)必要書類の取得
- 戸籍謄本 → 本人、申立人、後見人等候補者
- 住民票 → 本人、申立人、後見人等候補者
- 登記されていないことの証明書 → 本人、申立人、後見人等候補者
成年被後見人、被保佐人、被補助人、任意後見契約の記録がない、ことの証明書 - 主治医の診断書
- 不動産登記事項証明書、預貯金通帳、各種の証書、負債に関する資料、収入に関する資料、支出に関する資料
2)書類の作成
- 申立書
- 申立事情説明書
- 親族関係図
- 本人の財産目録
- 本人の収支状況報告書
- 後見人等候補者事情説明書
3)家庭裁判所に申立て
- 収入印紙 800円(後見の場合)
- 登記印紙 4,000円
- 郵便切手 4,300円
→ 内訳 500円が4枚、100円が5枚、80円が20枚、10円が20枚
以上、9,100円 - 鑑定費用 5万円から15万円(申立てたときに家庭裁判所に確認)
申立人が家庭裁判所の調査官と面接します。
申立書や申立事情説明書など提出書類の内容について聞かれます。
4)家庭裁判所または、医師がします。
- 本人調査(家庭裁判所調査官)
→ 調査が可能な揚合は、家庭裁判所調査官が本人と直接面接します。
予め申立人に対し、調査日時を連絡します - 親族への意向照会(家庭裁判所調査官)
→ 本人の親族に対し、書面により申立ての概要や侯補者を伝えて、その意向を確認する場合があります。 - 鑑定(医師)
→ 主治医等に依頼して、本人の判断能力の程度を医学的に判定します。
鑑定とは、本人に判断能力がどの程度あるかを医学的に判定するための手続です。
申立時に提出する診断書とは別に、家庭裁判所が医師に鑑定依頼をします。
後見開始事件や保佐開始事件では、原則として鑑定が行われますが、診断書の記載内容等から,明らかに後見相当と判断される場合は,鑑定が省略されることがあります。
多くの場合、本人の病状の実情をよく把握している主冶医に鑑定をお願いしていますが、事案によっては,主治医に鑑定を依頼できない、もしくは、鑑定を引き受けていただけないこともあります。
家庭裁判所が指定した医師に鑑定を依頼した場合、往診の要否や地理的条件によっては、通常よりも、鑑定に要する時間や費用が多めにかかることがあります。
申立てのための診断書を依頼するときに、主治医に対して、鑑定を引き受けていだだけるか否か、また、鑑定費用についての意向等を診断書付票に記載してもらうようお願いしてください。
なお、鑑定が行われる場合、診断書付票に記載されている金額を家庭裁判所へあらかじめ納めます。申立て時にご持参ください。
鑑定費用は、鑑定人の意向や鑑定のために要した労力等を踏まえて決められますが、家庭裁判所の判断で別の医師を鑑定人として指定する場合は、改めて金額が定められることになります。
5)家庭裁判所の審理
申立事情説明書、後見人等候補者事情説明書、鑑定結果、調査結果等の内容を家庭裁判所が検討します。
6)家庭裁判所の審判(申立てから審判まで概ね3か月から6か月)
家庭裁判所が、審判書謄本を申立人・後見人等に送付します。
鑑定や調査が終了した後、家庭裁判所は、後見等の開始の審判をし、あわせて、最も適任と思われる方を成年後見人等に選任します。
また、後見監督人を選任することもあります。
保佐開始や補助開始の場合には、必要な同意(取消)権や代理権も定めます。
※ 誰を成年後見人等に選任するかという点については、不服申立てをすることができません。
※ 次の人は成年後見人等になることができません。(欠格事由)
- 未成年者
- 成年後見人等を解任された人
- 破産者で復権していない人
- 本人に対して訴訟をしたことのある人、その配偶者または親子
- 行方不明である人
※ 次のいずれかに該当する場合は、後見人等候補者以外の者を選任したり、成年後見監督人等を選任する可能性があります。
- 親族間に意見の対立がある場合
- 本人に賃料収入等の事業収入がある場合
- 本人の財産(資産)が大きい場合
- 本人の財産を運用することを考えている場合
- 本人の財産状況が不明確である場合
- 後見人等候補者が自己または自己の親族のために、本人の財産を利用(担保提供などを含む)し、または利用する予定がある場合
- 後見人等候補者が高齢である場合(概ね70歳以上)
7)審判の確定
後見人等が審判書を受領してから2週間経過後に、審判が確定します。
8)本人の財産目録と年間収支予定表を提出
審判確定後1か月以内に、後見人等が、家庭裁判所に、本人の財産目録と年間収支予定表を提出します。
9)後見等の登記
審判確定後、家庭裁判所が東京法務局に、審判内容の後見等の登記を依頼します。登記の完了まで約2週間
10)職務の遂行
後見人等が、後見等の登記事項証明書を取得して、銀行の預貯金の引き出しなど、本人に代わって、法律行為をすることができます。
成年後見人(保佐人、補助人)の職務
1 財産目録と収支予定表の作成、提出
成年後見人に選任された方は、まず財産目録を作成し、家庭裁判所に提出するとともに、年間の収支予定を立てなければなりません。
特に、後見人は、この財産目録の作成が終わるまでは、急迫の必要がある行為しかできないことが法律で定められています。
2 成年後見人、保佐人、補助人に共通すること
成年後見人等は、申立てのきっかけになったこと(例えば、保険金の受取りや預貯金の引出し、遺産分割など)が終わった後も、本人を法的に保護しなければなりません。
本人の財産管理は、本人の利益を損なわないよう、元本が保証されたものなど、安全確実な方法で行うことを基本とし、投機的な運用はできません。
本人を保護することが成年後見人等の仕事ですので、本人の利益に反して本人の財産を処分(売却や贈与)することはできません。
成年後見人等、本人のその配偶者や子、孫など(親族が経営する会社も含む)に対する贈与や貸付けも、原則として認められません。
租続税対策を目的とする贈与等についても同様です。できません。
本人の財産を減らすことになり、また、ほかの親族との間で無用の紛争が発生するおそれがあるからです。
本人の財産から支出できる主なものは、本人自身の生活費のほか、本人が第三者に対して負っている債務の弁済金、成年後見人等がその職務を遂行するために必要な経費、本人が扶養義務を負っている配偶者や未成年の子などの生活費などです。
成年後見人等に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適さない事由があるときには、家庭裁判所が解任することがあります。
成年後見人の主な職務
成年後見人は、本人の財産の全般的な管理権とともに代理権を有します。
つまり、本人の意思を尊重し、かつ、本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら(身上配盧義務)、財産を適正に管理し(財産管理義務)、必要な代理行為を行っていきます。
そして、それらの内容がわかるように記録しておくとともに、定期的に(1年に1回)家庭裁判所に報告しなければなりません(報告義務)。
具体的には,本人の財産が他人のものと混ざらないようにする、通帳や証書類を保管する、収支計画を立てる等の財産管理をするとともに、本人に代わって預金に関する取引、治療や介護に関する契約の締結等、必要な法律行為を行います。
居住用不動産の夫婦間贈与と成年後見
夫(成年被後見人)の成年後見人となっている妻に夫名義の居住用不動産を贈与することができますか。
成年後見人とは、認知症などによって自分の意思を表示できない状態の人について、その人(成年被後見人)に代わって、財産管理や監護をするのが成年後見人です。
居住用不動産の贈与は、婚姻生活20年以上の夫婦の間で贈与するとき、贈与の金額が2,000万円の範囲内であれば、贈与税がかからない、というものです。
もっとも、贈与税の確定申告は必要です。
正確には、1年間の贈与の非課税枠110万円をプラスして2,110万円まで、贈与税がかからず、夫婦の間で贈与することができます。
夫婦が互いに意思表示できるのであれば問題ありません。相談事例の場合は、そういう状況でもありません
また、成年後見人は、基本的に成年被後見人の夫の財産を管理するだけの権限しかありません。管理するだけの権限を越えるような行為をする場合、家庭裁判所の判断が必要です。
夫の成年後見人となっている妻に夫名義の居住用不動産を贈与する行為は、自分が自分に贈与するようなもので、夫である成年被後見人と妻である成年後見人との利益が相反することになるので、基本的には贈与することはできません。成年被後見人と成年後見人との利益が相反することになる場合は、家庭裁判所に成年被後見人の特別代理人の選任を申し立てることになります。
この特別代理人の選任を申立て、認められるのは、例えば、成年被後見人と成年後見人との間で、不動産を売買するようなときです。
売買のように、成年被後見人が不動産を譲渡しても、その対価として財産が残るようなときは、認められます。
相談事例のように、贈与の場合、成年被後見人所有の不動産を無償で譲渡することは、成年被後見人の財産が減少することになりますので、家庭裁判所は、これを認めません。
ただし、特別の事情によっては、家庭裁判所に認められる可能性は皆無とはいえませんが、この特別の事情は、家庭裁判所を納得させるだけの特別の事情が必要です。
ですので、贈与の場合、ほぼ100%認められる可能性はないといってよいでしょう。
夫婦間贈与をしたいので家庭裁判所に許可をもらってください、と半ば強制的に依頼されたので、やむを得ず、家庭裁判所に申立てしましたが、認められませんでした。
このように、婚姻生活20年以上の夫婦の間で、居住用不動産を贈与するときは、夫婦が元気なうちにしたほうがよいでしょう。すべては、そうなってしまってからでは遅いのです。