被相続人のマイナスの財産があるときの相続方法(相談事例)

被相続人のマイナスの財産があるときの相続方法(相談事例)

相続相談事例

  • 被相続人:夫
  • 相続人:妻、子
  • 相続財産
    プラスの財産:マンション(時価700万円)、預金:極少額
    マイナスの財産:借金5件、合計600万円
     うち、
     1件:350万円、内訳 残元金:70万円、遅延損害金:280万円
     その他4件:計250万円(遅延損害金は極少額)
     夫は、会社員であったので、その他の借金は考えにくい。
  • 相続人の子の財産:預金500万円
  • 相続人の意向
    相続人の妻と子は、マンションに住み続けたい。
    相続人の子の財産(預金500万円)で返済できるなら、一括返済も考えている。

相談内容

  • 家庭裁判所の相続放棄の期限(3か月)が目前に迫っている(期限まで2週間)ので、とりあえず、相続熟慮期間伸長の申立てをしたい。
  • どういう方法が最善か。

相談経過

  • 相続熟慮期間伸長の申立て
    現時点では、期限の3か月際で申立て、審判が降りるのが3か月を超えてしまうと熟慮期間伸長が認められない可能性があるので、家庭裁判所に確認をする必要がある。
  • 相続放棄限定承認
    相続人の妻と子は、マンションに住み続けたいので、相続放棄をしてしまうと、所有権を失い、出て行かざるを得ないので、相続放棄はできない。
    限定承認は、借金返済の歯止めとして選択してもよいのではないか。
  • 借金合計600万円は、相続人の子の財産(預金500万円)を超えているので、どういう方法、限定承認がいいのか、悩みどころである。
    借金合計600万円を圧縮して、相続人の子の財産(預金500万円)で返済できれば、一番いい。

相談者への提案

  1. 相続熟慮期間伸長申立ての審判が、期限の3か月後であっても問題ないか、家庭裁判所に確認してください。
  2. 借金600万円のうち、1件:350万円(内訳 残元金:70万円、遅延損害金:280万円)の圧縮にトライしてみる。
    遅延損害金の280万円を圧縮できれば、相続人の子の財産で借金を返済できる可能性が高くなり、家庭裁判所の手続を考える必要がなくなる。
    これを早急に債権者と交渉してみる。
    借金の一括返済であれば、遅延損害金を圧縮してくれる可能性がある。
    例えば、350万円を100万円で一括返済をすることを交渉する。
    この交渉を弁護士に依頼すると、着手金30万円、成功報酬25万円、計55万円くらいかかるので、自分でトライしてみる。
    350万円を100万円にできれば、他の借金と合わせて350万円となり、相続人の子の財産(預金500万円)で返済できることになり、家庭裁判所の相続熟慮期間伸長申立てや限定承認の手続をする必要がなくなる。

相談者の対応結果

  1. 相続熟慮期間伸長申立ての審判確定が、期限の3か月後であっても問題ない。(横浜家庭裁判所)
  2. 借金350万円(内訳 残元金:70万円、遅延損害金:280万円)の圧縮を自分で交渉した結果
    合計100万円の一括返済で交渉したが、170万円であれば合意すると債権者から言われたので、相続放棄の期限も迫っているなど理由を言って、最終的に150万円(残元金:70万円、遅延損害金:280万円を80万円に)で合意した。

借金の返済は、他と合わせて400万円となり、相続人の子の財産(預金500万円)で一括返済できることになり、家庭裁判所の手続をする必要もなく、マンションも手放す必要もなくなった。
(この相談内容は、2019年6月時点での内容です。)

相続人が住んでいる家が被相続人所有の場合、相続放棄をしますと、その家を退去しなければならなくなります。
上記の例で、限定承認を選択してしまいますと、家の公売や税金(譲渡所得税)の問題がありますので、被相続人所有の家がある場合、できるだけ限定承認を選択したくないものです。
そこで、何か上手くいく方法はないかと考えます。
上記の事例では、幸い、相続人が500万円の手持ちがあったこと、債権者の遅延損害金が元金よりも遥かに高かったことで、解決の糸口が見つかりました。
このように、債務の相続がからむ案件では、債務整理の知識がありますと、役に立ちます。

「相談経過」と「相談者への提案」についての説明

相続熟慮期間伸長の申立て

相談時点で、相続放棄・限定承認までの期限3か月の2週間前であり、相続放棄か限定承認、どういう相続方法を選択したらよいのか判断がつかないことから、とりあえず、その方法を考える時間(さらに3か月)を作るために熟慮期間伸長の申立てを考えます。
ただし、ものの本によりますと、審判が確定するのが3か月を超えてしまうと熟慮期間伸長が認められないということもありますので、ここは、石橋を叩く意味でも念のため家庭裁判所に確認をします。
熟慮期間伸長の申立てにかかる費用は、1人当たり、実費が800円(申立書に貼付する印紙代)と約500円(裁判所に予納する切手代)、司法書士報酬が22,000円(当事務所に申立てを依頼する場合)の合計:約23,300円です。相談者の親子2人で46,600円かかることになります。

相続放棄か限定承認かの選択

相続放棄か限定承認かの選択は、相続放棄をしてしまいますと、最終的に相談者の親子はマンションから退去しなければならなくなりますので、相続放棄は避けたいところです。
限定承認は、最悪な状況になったとしても、借金返済の歯止めとして選択しておいた方がよいと、普通は考えます。ただし、限定承認の手続を行う場合の費用は、合計約13万円かかります。

限定承認の場合、被相続人の遺産の中に不動産があり、現金・預金などで債務を返済できない場合は、この不動産を処分して返済に充てる必要があります。
不動産を処分する場合、不動産を売却することになりますが、これは任意の売却(不動産業者を通して)をすることができず、裁判所の公売手続で売却する必要があります。
公売手続では、任意の売却価格ではなく、債権者への返済を想定していますので、不動産鑑定士が鑑定した価格でなければなりません。
そうしますと、不動産鑑定士に支払う費用として約20万円はかかることになります。
また、限定承認による不動産売却では、相続人に譲渡所得税の問題が生じます。
これらを考えますと、限定承認で不動産を売却することは、手続上、税金上、相談者の親子で行うことは難易度が高くなります。
この手続を弁護士に依頼する場合は、さらに、弁護士費用も最低でも50万円はかかると思われます。

相続放棄・限定承認以外の方法を検討してみる

相談者の子には、預金500万円があるので、これを使って債務の返済ができれば、限定承認の手続(手続上の難易度の高さ・費用がかかる)によらずに解決できれば一番よいでしょう。

借金600万円のうち、1件:350万円(内訳 残元金:70万円、遅延損害金:280万円)がありますので、この遅延損害金が異常に高いことに気が付く必要があります。何年間返済を滞らせていたのか不明ですが、この遅延損害金を何とか圧縮する方法を考えます。
遅延損害金の280万円を圧縮できれば、相続人の子の財産(500万円)で借金を返済できる可能性が高くなり、難易度が高く費用もかかる限定承認の手続を考える必要がなくなります。

債務整理を行う場合、借金の一括返済であれば、まともな債権者であれば、元金を含めて返済額を圧縮してくれる可能性があります。
また、元金は圧縮できないが遅延損害金を圧縮してくれる可能性があります。
この債権者の場合、相続放棄・限定承認の期限が迫っていますので、交渉が難航することは避けたいものです。交渉が難航すれば、債権者が有利な立場になります。
相談者としては、相続放棄・限定承認の期限内に解決できれば一番よいわけです。

そこで、当事務所としては、この債権者に対する債務の額(350万円)を、例えば、100万円で一括返済をすることを相談者自身が交渉することを提案しました。この場合、それでも、この債権者は、残元金70万円の返済を受けることができ、なおかつ遅延損害金30万円を受取ることができます。

この交渉を弁護士に依頼しますと、着手金30万円、成功報酬25万円、計55万円くらいかかりますので、相談者自身で交渉してみます。
350万円を100万円に圧縮できれば、他の借金と合わせて600万円が350万円となり、相続人の子の財産(預金500万円)で返済できることになり、家庭裁判所の相続熟慮期間伸長申立てや限定承認の手続をする必要がなくなります。

「相談者の対応結果」についての説明

  1. 相続熟慮期間伸長申立ての審判確定が、期限の3か月後であっても問題がないことが確認できました。(横浜家庭裁判所)
  2. 借金350万円(内訳 残元金:70万円、遅延損害金:280万円)の圧縮を、相談者自身が合計100万円の一括返済で交渉しましたが、170万円であれば合意すると債権者から言われました。この債権者は、まともな債権者ではないようです。
    170万円ということは、残元金が70万円、遅延損害金が100万円ということで、まだまだ遅延損害金が高いので、相談者が当事務所に再度、相談に来られました。
    そこで、百歩譲って合計150万円で交渉してはどうですかと提案しました。
    この債権者と交渉する際には、150万円で返済するのが限界である、相続放棄の期限も迫っているなど理由を言うように提案しました。
    この債権者とは、最終的に150万円(残元金:70万円、遅延損害金:280万円を80万円に)で合意しました。

借金の返済は、他と合わせて400万円となり、相続人の子の財産(預金500万円)で一括返済できました。これで、家庭裁判所の手続をする必要もなく、マンションを手放すこともなく、費用もかかることなく、無事に解決できました。

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