相続による所有権保存登記の方法:数次相続登記
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
【相続登記実例】
1年前に、(亡)祖父名義の土地A・土地Bについて相続登記を完了したが、その後、新たに、土地C・土地Dについて、(亡)曾祖父名義であることが判明した。この場合、どういう方法で相続登記をしたらよいでしょうか。
【被相続人・相続人】
被相続人(不動産名義人)は曾祖父A、その相続人は、(亡)祖父B、(亡)父C、子D(代襲相続人を含む)を含め10名
曾祖父A・隠居届出日:大正〇年〇月〇日(家督相続)
祖父B・死亡日:昭和27年〇月〇日
父C・死亡日:昭和55年〇月〇日
【今回相続登記する不動産】
土地C:権利部 甲区(所有権に関する事項)あり
土地D:表題部のみ


「前回の相続登記で使用した」遺産分割協議書の内容
(1)遺産分割協議書(被相続人 祖父B)(一部省略)
被相続人:祖父B(明治〇年〇月〇日生)の昭和27年〇月〇日死亡により開始した相続につき、同人の相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。
相続人(亡)父Cは、次の遺産を相続取得する。
不動産の表示
土地A、土地B
上記以外の不動産があった場合は、すべて(亡)父Cが相続取得する。
(2)遺産分割協議書(被相続人 父C)(一部省略)
被相続人:父C(明治〇年〇月〇日生)の昭和55年〇月〇日死亡により開始した相続につき、同人の相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。
相続人 子Dは、次の遺産を相続取得する。
不動産の表示
土地A、土地B
上記以外の不動産があった場合は、すべて子Dが相続取得する。
相続による所有権保存登記の基本
【事例】
土地D:表題部のみ
表題部「所有者」欄に記載されている名義人(亡)E
相続人:子F
登記申請書の作成:相続による所有権保存登記
登記申請書(一部省略)
登記の目的 所有権保存
所 有 者 (被相続人 E○○)
(住所)○○○○
(氏名)子F○○
登記識別情報通知希望の有無:送付の方法による交付を希望する
添付情報 住所証明情報 相続証明情報 評価証明情報
課税価格 金1,000万円(評価価格)
登録免許税 金40,000円(課税価格の0・4%)
不動産の表示
表題部「所有者」のみが登記されている場合の相続登記(所有権保存)の方法
事例では、表題部「所有者」のみが登記されている場合、この「所有者」が(亡)Eであるときは、その相続人子Fが権利部 甲区(所有権に関する事項)の最初の「所有者」として登記することができます。
不動産登記法(所有権の保存の登記)
不動産登記法 | e-Gov 法令検索
第七十四条 所有権の保存の登記は、次に掲げる者以外の者は、申請することができない。
一 表題部所有者又はその相続人その他の一般承継人
登記申請書(所有権保存)の記載方法
登記の目的・所有者
登記の目的 所有権保存
相続人が権利部 甲区(所有権に関する事項)の最初の「所有者」として登記することになるので、「所有権保存」を記載します。
所 有 者 (被相続人 E○○)
(住所)○○○○
(氏名)子F○○
表題部「所有者」欄に記載されている名義人(亡)Eの氏名を「被相続人 E○○」と記載します。
添付情報
添付情報:相続証明情報
この場合の相続証明情報とは、次の書類のことをいいます。
①被相続人の出生から死亡までの除籍謄本など
②被相続人の住民票除票(本籍筆頭者記載)
③相続人の戸籍謄本
④遺産分割協議書(遺産分割協議書で行うとき)
⑤相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書で行うとき)
相続関係説明図の作成
「相続関係説明図」を作成・提出することで、①被相続人の出生から死亡までの除籍謄本など・③相続人の戸籍謄本の原本還付(法務局が原本を返却)ができます(これらをコピーする必要がない)。
個別に原本還付手続をする必要がある書類
次の書類は、個別に(1通ずつ)コピーして、原本還付手続をすることにより、法務局からその原本が返却されます。
②被相続人の住民票除票(本籍筆頭者記載)
④遺産分割協議書(遺産分割協議書で行うとき)
⑤相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書で行うとき
その他、相続人の住民票(住所証明情報)

原本還付手続とは、コピーしたものに「これは、原本の写しに相違ありません。申請人氏名○○㊞」と記入押印(2ページ以上となるときは割印をする。)し、原本と一緒に法務局に提出します。原本は、登記完了後に、他の書類と一緒に返却されます。
【相続登記実例】の場合の相続による所有権保存登記の方法:数次相続登記
【相続登記実例】の場合のポイント
1年前に、(亡)祖父名義の土地A・土地Bについて相続登記を完了したが、その後、新たに、土地C・土地Dについて、(亡)曾祖父名義であることが判明した。
「前回の相続登記で使用した」遺産分割協議書の内容
(1)遺産分割協議書(被相続人 祖父B)(一部省略)
被相続人:祖父B(明治〇年〇月〇日生)の昭和27年〇月〇日死亡により開始した相続につき、同人の相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。
相続人(亡)父Cは、次の遺産を相続取得する。
不動産の表示
土地A、土地B
上記以外の不動産があった場合は、すべて(亡)父Cが相続取得する。
(2)遺産分割協議書(被相続人 父C)(一部省略)
被相続人:父C(明治〇年〇月〇日生)の昭和55年〇月〇日死亡により開始した相続につき、同人の相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。
相続人 子Dは、次の遺産を相続取得する。
不動産の表示
土地A、土地B
上記以外の不動産があった場合は、すべて子Dが相続取得する。
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相続人が10名いるので、改めて、遺産分割協議書を作成する必要があるのか。
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「前回の相続登記で使用した」遺産分割協議書に、(1)「上記以外の不動産があった場合は、すべて(亡)父Cが相続取得する。」、(2)「上記以外の不動産があった場合は、すべて子Dが相続取得する。」と記載されているので、前回の遺産分割協議書を再度、使用することができる。
数次相続の場合の遺産分割協議書作成方法は、「第3の相続」の相続人孫Fが遺産分割で単独で相続取得する場合を参考にしてください。
【被相続人・相続人
被相続人(不動産名義人)は曾祖父A、その相続人は、(亡)祖父B、(亡)父C、子D(代襲相続人を含む)を含め10名いる。
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相続人が10名いるので、改めて、被相続人・相続人の戸籍除籍謄本などや相続人の印鑑証明書・住民票を取得する必要があるのか。
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相続登記の場合、被相続人・相続人の戸籍除籍謄本などや相続人の印鑑証明書・住民票については、有効期限の定めがないので、前回使用したこれらの書類を再度、使用することができる。
なお、「上記以外の不動産があった場合は、すべて○○が相続取得する。」ということが遺産分割協議書に記載されていなければ、再度、遺産分割協議書を作成し、相続人全員の署名、実印を必要とします。
被相続人の隠居・死亡日 曾祖父A・隠居届出日:大正〇年〇月〇日(家督相続) 祖父B・死亡日:昭和27年〇月〇日 父C・死亡日:昭和55年〇月〇日 👇 どういう登記原因とすればよいのか。 👇 【今回相続登記する不動産】 土地C:権利部 甲区(所有権に関する事項)あり 次の登記の方法で行う。 登記の目的 所有権移転 原 因 大正〇年〇月〇日祖父B家督相続昭和27年〇月〇日父C相続昭和55年〇月〇日相続 土地D:表題部のみ 次の登記の方法で行う。 登記の目的 所有権保存