「登記されている住所」に住民票の住所の「方書」が記載されていないとき:相続登記
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
ここでは、相続登記を申請する際、登記名義人の「登記されている住所」に「住民票の住所の方書(かたがき)」が記載されていないときについて解説します。
【相続登記相談事例】
(質問)父の相続登記では、父と同じマンションに同居していた私名義に登記します。
父の住民票除票には、「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号室」と記載されていますが、登記簿(登記記録)には、「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇」と記載されており、マンション名と部屋番号が記載されていません。
この場合、被相続人の父は、登記されている名義人と同一人物と判断されるのでしょうか。同一人物と判断されるには、「住所」が同じであることが必要だと思いますが。
また、私名義に登記しますので、私も同じマンションの住所で登記することになります。
この場合、登記申請書に記載する住所は、「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号室」と記載すればよいでしょうか。
住民票の住所:○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号室

市区町村役場によって異なるマンションの住所
マンションの住所は、市区町村役場によって、次(例)のように記載されます。
この住所の決め方は、市区町村役場により異なります。
- 「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号室」
- 「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号」
- 「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇ー○○〇号」
- 「○○市○○区○○●丁目〇〇番〇号 〇〇ハイツ○○〇号室」
- 「○○市○○区○○●丁目〇〇番〇号 〇〇ハイツ○○〇号」
- 「○○市○○区○○●丁目〇〇番〇号 〇〇ハイツ○○〇」
- 「○○市○○区○○●丁目〇〇番〇ー○○〇号」
- 「○○市○○区○○●丁目〇〇番〇ー○○〇号 〇〇ハイツ」
横浜市の場合、住民票には、次のように記載される。
● 住所が「番地」の場合:マンション名と部屋番号が記載される。
「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号室」
● 住所が「〇番〇号」の場合:マンション名は記載されず、部屋番号が記載される。
「○○市○○区○○●丁目〇〇番○ー○○〇号」
これらマンションの「住所」は、どこまで登記申請書に記載すればよいでしょうか。

「番地」と「番号」の違い
住所の「番地」と「番号」は、市区町村役場が決めていることで、同じ市区町村内の地域によっても異なります。
「番地」の場合、「○○番地の〇」というように「番地の」と記載されている場合もあります。これも市区町村役場が決めていることです。
登記する住所は、どこまでか。
● 住民票の住所:「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号室」
↓
登記する住所
A:「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号室」
B:「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇」
A・Bどちらでも登記ができる。
登記する住所は、どこまでか。
● 住民票の住所:「○○市○○区○○●丁目〇〇番○ー○○〇号」
↓
登記する住所
「○○市○○区○○●丁目〇〇番○ー○○〇号」
部屋番号まで登記する。(住民票に記載されているとおりに登記する。)
正式な「住所」とは
正式な「住所」とは、「○○番地〇」あるいは「○○番〇号」までが正式な「住所」です。
例えば、次のような住所の人もいます。
「○○市○○区○○●丁目〇〇番〇号 (個人名)〇〇方(かた)」
この住所の表示では、「(個人名)〇〇方」は、(個人名)〇〇さんと同じ「住所」ではあるけれども、同じ建物に同居していることを表します。
この住所の人は、(個人名)〇〇さんとは「世帯」が異なることを意味します。
「世帯」が異なれば、税金面・健康保険料も、別世帯の扱いとなります。
この「(個人名)〇〇方」を「方書(かたがき)」といいます。
この「方書」は、住所に付属して住民票に記載されます。
このように「方書」は、世帯が異なることを表すため、正式な「住所」とはいえません。
住民票と印鑑証明書とで異なる住所の表記
次のような場合もあります。
住民票には、マンション名と部屋番号が記載されているが、印鑑証明書には、マンション名と部屋番号が記載されていない場合が、稀にあります。
この場合であっても、問題ありません。誤りではありません。
住民票:「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号室」
印鑑証明書:「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇」
登記を扱う法務局の認識は
法務局においても、「方書」は住所の一部ではあるが、正式な「住所」ではないとの認識です。
したがって、登記の場合、次のように申請書に記載されていれば、そのとおり受付けられることになります。
例えば、住民票に記載されている住所が次(例)の場合、
「○○市○○区○○●丁目20番地5 〇〇ハイツ501号室」
↓
登記申請書に記載された住所が、次のどちらであったとしても、法務局は、これを受け付けます。
「○○市○○区○○●丁目20番地5 〇〇ハイツ501号室」
「○○市○○区○○●丁目20番地5」
その結果、「○○市○○区○○●丁目20番地5」と申請書に記載されていれば、登記簿(登記記録)には、マンション名と部屋番号が記載されないことになります。
マンション名と部屋番号が記載されている場合と記載されていない場合
登記の場合、基本的には、登記されている住所と現在の住所が異なる場合は、この経過を証明する住民票などを法務局に提出します。
相続登記の場合
例えば、土地の登記簿(登記記録)には、マンション名と部屋番号が記載されているが、建物の登記簿(登記記録)には、マンション名と部屋番号が記載されていない場合です。


この登記の記載で、相続登記を申請する場合、被相続人の登記されている住所が異なることになります。
土地登記簿(登記記録)には、「○○市○○区○○●丁目20番地5 〇〇ハイツ501号室」と記載されている。
建物登記簿(登記記録)には、「○○市○○区○○●丁目20番地5」と記載されている。
登記名義人と被相続人の同一性
これで、被相続人が登記名義人と同一人物と判断されるのかどうか。
これで問題ありません。
この場合、被相続人の最後の住所が記載された住民票除票(本籍・筆頭者記載)(または戸籍の附票(本籍・筆頭者記載)を法務局に提出できれば問題ありません。相続登記の場合は、ほかの名義変更登記と異なり、住所が相違したとしても、名義人の住所変更登記を申請する必要はありません。
相続登記以外の名義変更登記の場合
相続登記以外の名義変更登記の場合、例えば、売買、贈与、財産分与などの登記申請の場合、名義人の住所が登記されている住所と現在の住所が相違する場合は、登記義務者が登記名義人住所変更登記を申請する必要があります。この場合、住所が経過したことを証明する住民票や戸籍の附票を法務局に提出します。
登記義務者となる登記名義人が、この住所変更登記をしなければならない根拠は、次のとおりです。
不動産登記法(申請の却下)
第二十五条 登記官は、次に掲げる場合には、理由を付した決定で、登記の申請を却下しなければならない。ただし、当該申請の不備が補正することができるものである場合において、登記官が定めた相当の期間内に、申請人がこれを補正したときは、この限りでない。
七 申請情報の内容である登記義務者(第六十五条、第七十七条、第八十九条第一項(同条第二項(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)及び第九十五条第二項において準用する場合を含む。)、第九十三条(第九十五条第二項において準用する場合を含む。)又は第百十条前段の場合にあっては、登記名義人)の氏名若しくは名称又は住所が登記記録と合致しないとき。
不動産登記法第25条第7号に規定されているとおり、登記義務者の氏名や住所が登記記録(登記簿)と一致しないときは、申請されている登記が却下されることになります。(実際には、法務局から申請の自発的な取下げを促される。取下げの場合、申請書・添付書類が返却され、登録免許税の還付(再使用証明)を受けることができる。)
例えば、次のように登記簿(登記記録)に記載されている場合
土地:「○○市○○区○○●丁目20番地5 〇〇ハイツ501号室」
建物:「○○市○○区○○●丁目20番地5」(← マンション名と部屋番号が記載されていない)
通常、例えば、売買による所有権移転登記を申請する場合、「不動産の表示」として、土地と建物両方を登記申請書に記載します。この場合、土地についても建物についても、登記の目的、原因、申請当事者(権利者・義務者))が同じであることを前提としています。
登記の目的 所有権移転
原 因 〇年〇月〇日売買
権 利 者 A
義 務 者 B
不動産の表示
所 在 ○○市〇区〇町〇丁目
地 番 〇番地〇
地 目 宅地
地 積 ○○・○○平方メートル
所 在 ○○市〇区〇町〇丁目 〇番地〇
家屋番号 〇町〇丁目 〇番〇の〇
種 類 居宅
構 造 木造スレートぶき2階建
床 面 積 1階 ○○・○○平方メートル
2階 ○○・○○平方メートル
登記義務者の住民票に記載されている住所が、「○○市○○区○○●丁目20番地5 〇〇ハイツ501号室」の場合、
登記義務者の住所は、建物の登記記録(登記簿)に記載されている住所「○○市○○区○○●丁目20番地5」と一致しないことになります。
ですが、「〇〇ハイツ501号室」が「方書」とみなされるため、問題がなく、登記義務者の住所変更登記をしなくてよいことになります。
それでは、(登記)義務者の住所として、登記申請書には、
「○○市○○区○○●丁目20番地5 〇〇ハイツ501号室」と
「○○市○○区○○●丁目20番地5」のどちらを記載すればよいのでしょうか。
結論としては、(登記)義務者の住所として、どちらを記載しても問題がないことになります。
(2025年 松江地方法務局 出雲支局で登記完了)
登記申請書(一部省略)(売買による所有権移転の例)
登記の目的 所有権移転
原 因 令和〇年〇月〇日売買
権 利 者 (住所)○○
(氏名)○○
氏名ふりがな ○○ ○○
生年月日 〇年〇月〇日
メールアドレス ○○@○○(メールアドレスの申出は任意)
権 利 者 (住所)○○市○○区○○●丁目20番地5
(氏名)○○
添付情報
登記原因証明情報 登記識別情報 印鑑証明情報 住所証明情報 検索用情報証明情報 評価証明情報
令和〇年〇月〇日申請 ○○法務局 ○○出張所・支局 御中
課税価格 金○○円
登録免許税 金○○円
不動産の表示
所 在 ○○市〇区〇町〇丁目
地 番 〇番地〇
地 目 宅地
地 積 ○○・○○平方メートル
この価格 金○○○円
所 在 ○○市〇区〇町〇丁目 〇番地〇
家屋番号 〇町〇丁目 〇番〇の〇
種 類 居宅
構 造 木造スレートぶき2階建
床 面 積 1階 ○○・○○平方メートル
2階 ○○・○○平方メートル
この価格 金○○○円
なぜ、「方書」が登記される場合と登記されない場合があるのか
そもそも、なぜ、マンション名と部屋番号が登記されている場合と登記されていない場合があるのでしょうか。
例えば、次のように登記されるのでしょうか。
土地登記簿(登記記録):「○○市○○区○○●丁目20番地5 〇〇ハイツ501号室」
建物登記簿(登記記録):「○○市○○区○○●丁目20番地5」
それは、司法書士が代理申請したとき、
ある司法書士Aが土地について相続登記をするときに、
「○○市○○区○○●丁目20番地5 〇〇ハイツ501号室」と登記申請書に記載し申請した場合
別の司法書士Bが建物について相続登記をするときに、
「○○市○○区○○●丁目20番地5」と登記申請書に記載し申請した場合
どちらの場合であっても、申請どおりの登記の記載となるからです。
法務局は、どちらの住所の記載であっても問題がないため、申請どおりに登記するためです。
このような形式上の不一致が起こる可能性がありますので、当司法書士事務所では、一般の方の通常の認識と同じく、登記する「住所」を「○○市○○区○○●丁目20番地5 〇〇ハイツ501号室」として、「方書(かたがき)」を含めて登記申請します。
まとめ:「登記されている住所」に住民票の住所の「方書」が記載されていないとき:相続登記
(回答)マンションの住所で登記する場合、よほどの事情がない限り、住民票に記載されている「住所」のとおりに登記申請書に記載し、申請します。
一般の方は、住民票に記載されている「住所」を素直に「住所」として認識すればよいかと思います。
事例の場合、名義人が相続登記を申請する際、登記申請書に記載する住所は、「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇」ではなく、「○○市○○区○○●丁目〇〇番地〇 〇〇ハイツ○○〇号室」と、住民票に記載のとおりに、申請書に記載すればよいでしょう。
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