二重国籍者(日本国籍と外国籍)と日本国籍離脱者の相続登記と預貯金相続手続
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
【相続登記相談】
この度、日本において、父の遺産相続手続を行うことになりました。父の遺産と相続人については、次のとおりです。
遺産
① 不動産:土地・建物、評価価格 合計3,000万円
② 預貯金:金融機関5件、合計2,000万円
相続人
子4名:長男、二男(私)、長女、二女
私(二男)は、アメリカに居住しアメリカの市民権を持つ者です。日本国籍を離脱していません。ですので、二重国籍者です。アメリカのパスポートを所持しています。
また、事前に、私の在留証明書とサイン拇印証明書を日本領事館で取得しようとしましたが、領事館では、在留証明書を発行できないと言われました。サイン拇印証明書は発行できるという言い方です。
領事館が言うには、私の場合、アメリカの市民権を持っているので、すでに日本人ではないため、在留証明書は発行できないという言い方です。
領事館の説明では、在留証明書を発行するには、アメリカのビザや永住権の証明書が必要だという説明ですが、私がアメリカの市民権を取得するときに、アメリカの役所にこれらを提出したため、現在、これらの書類を所持しておりません。このため、在留証明書を取得することができません。
不動産の相続登記と預貯金の相続手続については、長男が書類を収集したり、遺産分割協議の内容について、主導しています。
私としては、不動産を相続取得するつもりはなく、法定相続分に相当する金銭を受け取れればよいと考えています。
この場合、私としては、遺産分割において、どのようなことを他の相続人に対して言ったらよいでしょうか。また、私が用意すべき書類について教えてください。
二重国籍者(日本国籍と外国籍)の相続登記と預貯金相続手続
二重国籍者(日本国籍と外国籍)の相続登記と預貯金相続手続では、二重国籍者(日本国籍と外国籍)の戸籍謄本・住民票・印鑑証明書をどのように用意するのかということについて検討する必要があります。
相続登記・預貯金相続手続に必要な書類
長男は、相続登記・預貯金相続手続に必要な書類として、次の書類を収集する必要があります。
被相続人(父)について
法定相続人(長男、二男、長女、二女)について
二重国籍者(日本国籍と外国籍)の戸籍謄本・住民票・印鑑証明書
二男は、日本国籍とアメリカ国籍で二重国籍者であり、「相談内容」に記載のとおり、住民票としての在留証明書を取得できないので、相続登記などの相続手続では、別の書類を用意する必要があります。
戸籍謄本
二男の相続人としての相続証明書は、いまだ日本国籍を離脱していないので、戸籍謄本を用意することになります。
住民票と印鑑証明書に代わる書類
二男は、遺産を直接取得するわけではないので、住民票は必ずしも必要ではありません。
仮に、取得できるサイン拇印証明書を使用するとした場合、サイン拇印証明書には住所の記載がないため、遺産分割協議書に記載する二男の住所・氏名と符合させることができません。
この結果、サイン拇印証明書を取得できるとしても、実際には、サイン拇印証明書を使用できないことになります。
遺産分割協議書を外国公証役場で認証
そこで、二男は、遺産分割協議書の内容を証明するため、長男作成の遺産分割協議書と同じ内容の遺産分割協議書を作成し、これにアメリカ公証人の認証を受けることが必要となります。
アメリカ公証人には、日本語と英文の両方を提出し、これに公証人の認証文を付けてもらいます。
この場合、遺産分割協議書には、二男の次の内容を記載する必要があります。
→ 住所、氏名 (日本国籍の氏名とアメリカ身分証明書に記載の氏名)、生年月日
外国に居住する相続人の相続内容
二男は、アメリカに居住し、不動産を相続取得するつもりはなく、二男の法定相続分に相当する金銭の受取りを希望しています。このため、遺産分割協議書の内容として、不動産を含めた遺産を直接取得する内容ではなく、代償金を受取るという内容(代償分割)がよろしいかと思われます。
もし、不動産は別にしても、例えば、預貯金のうち、二男が(法定相続分に相当する金額)1,250万円を相続取得するという内容の場合、預貯金の相続手続を長男が行うとすれば、二男は、この手続の委任状を長男に渡す必要があります。そうしますと、遺産分割協議書のほかに、この委任状についてアメリカ公証人の認証も必要となるからです。
もっとも、二男が、遺産の預貯金から直接、相続取得することを希望するのであれば、「委任状」を作成し、アメリカ公証人の認証文を付けて、長男に郵送します。
日本国籍離脱者の相続登記と預貯金相続手続
相続人のうちの一人が日本国籍を離脱している場合は、除籍謄本には、例えば、「アメリカ合衆国の国籍を取得したため、日本国籍を喪失した。」というように記載されます。
日本国籍離脱者(元日本人は外国人)の戸籍謄本・住民票・印鑑証明書
日本国籍離脱者(元日本人は外国人)は、除籍謄本を取得することになります。また、日本人と同じように住民票と印鑑証明書を取得できないことから、相続登記などの相続手続では、別の書類を用意する必要があります。
日本国籍離脱者(元日本人は外国人)の相続証明書・住所証明書
日本国籍離脱者(元日本人は外国人)の相続証明書は、除籍謄本だけでは、現在、相続人として生存しているのかどうか不明であるため、別の書類も用意する必要があります。
宣誓供述書を作成
日本国籍離脱者(元日本人は外国人)の相続証明書として、宣誓供述書を作成し、外国公証人の認証を受けることが必要です。
そこで、次のような内容の宣誓供述書を日本語と英文で作成し、公証人の認証文を付けてもらいます。
宣誓供述書
私○○ ○○は、公証人の面前において、以下の内容を供述し、間違いのないことを宣誓します。
1 住所、氏名、生年月日
私の現在住んでいる住所は、次の場所です。
○○○○
私の氏名は、○○ ○○ です。
私の生年月日は、〇年〇月〇日 です。
2 日本における相続手続
私は、被相続人○○ ○○の相続手続に関して、次の事項に相違ないことを供述します。
1.日本国籍離脱前の日本における戸籍の本籍:○○○○
2.被相続人(父)の氏名:○○ ○○
被相続人(父)の生年月日:〇年〇月〇日
母の氏名:○○ ○○
母の生年月日:〇年〇月〇日
3.父母との続柄 ○○
4.アメリカ合衆国の国籍取得日(帰化日):〇年〇月〇日
5.日本国籍の喪失日:〇年〇月〇日
6.被相続人の死亡日:〇年〇月〇日
7.私が被相続人(父)○○○○の相続人であることに相違ありません。
(2025年 横浜地方法務局で登記完了)
日本国籍離脱者(元日本人は外国人)の印鑑証明書
アメリカのように、印鑑証明書の存在しない国では、前述のように、遺産分割協議書を作成し、これに外国公証人の認証文を付けてもらえば、不動産の相続登記など相続手続に使用することができます。
台湾や中国本土には、印鑑証明書発行の制度がありますので、日本人と同様に、遺産分割協議書に登録印鑑を押印することができます。
まとめ:二重国籍者(日本国籍と外国籍)と日本国籍離脱者の相続登記と預貯金相続手続
二重国籍者(日本国籍と外国籍)の相続登記と預貯金相続手続では、在外日本領事館(大使館)で、二重国籍者の在留証明書(住民票に代わるもの)を取得できないため、実際の相続手続で使用する遺産分割協議書などを外国公証人に認証してもらう必要があります。また、住所証明書として、宣誓供述書が必要な場合もあります。
日本国籍離脱者(元日本人は外国人)の場合は、相続証明書として、日本にある除籍謄本のほか、宣誓供述書を作成し、外国公証人に認証してもらう必要があります。
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