マンションの相続登記の方法:敷地権付きマンションと敷地権付きではないマンション
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
【相続登記相談】
(質問)父が所有していたマンションの相続登記をしようとしていますが、登記簿謄本を取得しましたら、次のような内容の登記がされています。建物には、マンションの土地について書かれていません。
私が購入し、取得したマンションの登記簿には、土地に関する事項が書かれています。
これは、どのような違いがあるのかを教えてください。父のマンションの相続登記の方法も教えてください。
【登記簿:敷地権付きではないマンション】




【登記簿:敷地権付きマンション】



敷地権付きマンションと敷地権付きではないマンションとの違い
一つの建物(一棟の建物)全部を賃貸するマンション(投資用マンション)とは違い、通常、販売されているマンションは、一つの建物(一棟の建物)が部屋(〇号室)ごとに分けて、所有権の登記がされています。
このように、部屋(〇号室)ごとに分けて、所有権の登記がされているマンションのことを区分建物(一棟の建物が区分されている)といいます。現在、販売されているマンションは、敷地権付き区分建物がほとんどです。
敷地権付きマンション(区分建物)とは(土地に権利が及ぶ)
敷地権付き区分建物は、登記簿に次のような内容が記載されています。
【登記簿:敷地権付きマンション】


敷地権付き区分建物は、最大、次の4つで構成されています。
- 表題部(一棟の建物の表示)
- 表題部(専有部分の建物の表示)
- 権利部(甲区)(所有権に関する事項)
- 権利部(乙区)(所有権以外の権利に関する事項)
表題部(一棟の建物の表示)
表題部(一棟の建物の表示)では、次の事項が記載されています。
- 専有部分の部屋番号
マンションの区分された部屋の家屋番号全部が記載されています。
これで、このマンションには、いくつの区分された部屋(専有部分の建物)があるのかが分かります。 - 所在
マンションの「所在」は、住民票に記載されている「住所」と必ずしも一致しません。
この「所在」は、登記上の土地の地番と同じです。ある土地の地番上に一棟の建物が建っている場合、その地番が「所在」に記載されている「〇番地」と同じです。 - 建物の名称
マンションの名称(マンション名)が記載されています。 - 構造
マンション全体の構造が記載されています。 - 床面積
マンション全体の床面積が記載されています。 - 表題部(敷地権の目的である土地の表示)
土地の①「符号」②「所在及び地番」③地目④地積が記載されています。
この「土地」は、通常、マンション全体の敷地です。
「土地」が一つ(一筆)の場合もあれば、二つ、三つ・・・の場合もあります。
地積は、マンションの土地全体の面積のことをいいます。
表題部(専有部分の建物の表示)
表題部(専有部分の建物の表示)では、次の事項が記載されています。
- 各部屋(〇号室)ごとに「表題部(専有部分の建物の表示)」があります。
- 不動産番号
各専有部分の部屋ごとに、不動産番号が記載されています。 - 家屋番号
建物の場合、家屋番号で特定します。例えば、登記簿謄本を取得する場合、家屋番号を指定して請求します。 - 建物の名称
通常、専有部分の建物の部屋番号のことをいいます。 - 専有部分の①種類②構造③床面積、「原因及びその日付(登記の日付)」が記載されています。
- 表題部(敷地権の表示)
マンションの敷地(土地全部)は、それぞれの土地(符号①~)について「②敷地権の種類」「③敷地権の割合」、「原因及びその日付(登記の日付)」が記載されています。
このマンションでは、「敷地権(敷地の権利)」は、「所有権」で、その権利の割合(敷地権の割合)が、○○万分の〇〇であることが分かります。
これにより、いつ敷地権となったのか、いつ、敷地権の登記がされたのかが分かります。
このマンションでは、新築日と同時に、土地が敷地権となったことが分かります。
【登記簿 敷地権付きマンションの土地】


「敷地権(敷地の権利)」とは、専有部分の建物(区分された各部屋)がマンションの土地と一体となっており、建物に登記された権利(所有権や抵当権など)の登記は、敷地権の割合で、土地にも権利の効力が及ぶことを意味します。
土地にも権利が及ぶことから、土地の登記簿には、所有権や抵当権などの権利の登記がされないことになります。
土地の登記簿には、専有部分の建物と一体となっているということを表す登記がされています。このことは、「所有権敷地権」(など)、一棟の建物表示の「所在」、「建物の名称」が登記されていますので、土地の登記簿には、所有権や抵当権などの権利の登記をする必要がないことになります。
権利部(甲区)(所有権に関する事項)
権利部(甲区)(所有権に関する事項)では、所有者が登記されます。これで、所有者が誰であるのかかが分かります。
また、差押は、権利部(甲区)に登記されます。
敷地権付き区分建物では、建物に所有者として記載されていれば、「敷地権の種類」、「敷地権の割合」で、土地にも所有権が及んでいることになります。
権利部(乙区)(所有権以外の権利に関する事項)
権利部(乙区)(所有権以外の権利に関する事項)では、抵当権などの担保権が登記されます。
敷地権付き区分建物では、建物に抵当権など担保権が記載されていれば、「敷地権の種類」、「敷地権の割合」で、土地にも抵当権など担保権の権利が及んでいることになります。
敷地権付きではないマンション(区分建物)とは(土地も登記すれば権利がある。)
【登記簿:敷地権付きではないマンション】


敷地権付きではない区分建物は、最大、次の4つで構成されています。
- 表題部(一棟の建物の表示)
ただし、「建物の名称」が登記されていないものがある。 - 表題部(専有部分の建物の表示)
- 権利部(甲区)(所有権に関する事項)
- 権利部(乙区)(所有権以外の権利に関する事項)
ですが、敷地権付きではない区分建物は、敷地権付き区分建物とは異なり、次の事項が登記されていません。
- 表題部(一棟の建物の表示)では、
表題部(敷地権の目的である土地の表示)
土地の①「符号」②「所在及び地番」③地目④地積が記載されていません。 - 表題部(専有部分の建物の表示)では、
表題部(敷地権の表示)
マンションの敷地(土地全部)について、それぞれの土地(符号①~)についての「②敷地権の種類」「③敷地権の割合」、「原因及びその日付(登記の日付)」が記載されていません。
このことから分かるように、敷地権付きではない区分建物では、専有部分の建物表示に所有者として記載されていても、この権利の効力が敷地には及んでいないことを意味します。
そこで、敷地権付きではない区分建物では、土地の登記簿に、建物所有者の土地の権利を登記することになります。この土地の権利は、○○分の〇というように、敷地全体に対する「持分」として登記されます。

「②敷地権の種類」「③敷地権の割合」、「原因及びその日付(登記の日付)」が記載されていないマンション
その他、敷地権付きではない区分建物では、次のような建物の登記簿の場合もあります。
- 表題部(一棟の建物の表示)では、
表題部(敷地権の目的である土地の表示)がある。
土地の①「符号」②「所在及び地番」③地目④地積が記載されている。が、 - 表題部(専有部分の建物の表示)では、
表題部(敷地権の表示)
マンションの敷地(土地全部)について、それぞれの土地(符号①~)についての「②敷地権の種類」「③敷地権の割合」、「原因及びその日付(登記の日付)」が記載されていない。
このような区分建物は、建築当時登記では、敷地権付きではない区分建物でしたが、その後、不動産登記法の改正(昭和63年法務省令第37号附則第2条第2項)により、法務局の職権で、敷地権の旨の登記がされた場合です。
ただし、専有部分の建物の一部が敷地権の旨の登記がされなかった場合があります。この専有部分の建物には、「②敷地権の種類」、「③敷地権の割合」、「原因及びその日付(登記の日付)」の記載がなく、空白となっています。
このような区分建物では、前述の敷地権付きではない区分建物と同様に、土地の登記簿に、建物所有者の土地の権利を登記することになります。
この土地の権利は、○○分の〇というように、敷地全体に対する「持分」として登記されることになります。
敷地権付きではない区分建物の相続登記の方法
次の申請書を2件(持分が異なる場合は3件以上)作成し、この順番で申請(法務局に提出)します。
申請書を1件で作成することができますが、記載方法が複雑となるため、通常は、2件で作成します。
相続登記の登記申請書(見本):敷地が1筆の場合
(1/2)登記申請書(一部省略)
登記の目的 所有権移転
原 因 令和〇年〇月〇日相続
相 続 人 (被相続人 父(氏名)○○)
(住所)○○
子(氏名)○○
氏名ふりがな ○○ ○○
生年月日 〇年〇月〇日
メールアドレス ○○@○○(メールアドレスの申出は任意)
添付情報
登記原因証明情報 住所証明情報 検索用情報証明情報 評価証明情報
令和〇年〇月〇日申請 ○○法務局 ○○出張所・支局 御中
課税価格 金○○円
登録免許税 金○○円(課税価格の0・4%)
不動産の表示
一棟の建物の表示
所 在 ○○市〇区〇町〇丁目 〇番地〇
建物の名称 ○○マンション
(「建物の名称」が登記されていない場合は、構造・床面積全てを記載します。)
専有部分の建物の表示
家屋番号 〇町〇丁目 〇番〇の〇
建物の名称 ○○○
種 類 居宅
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床 面 積 〇階部分 ○○・○○平方メートル
(2/2)登記申請書(一部省略)
登記の目的 父(氏名)○○持分全部移転
原 因 令和〇年〇月〇日相続
相 続 人 (被相続人 父(氏名)○○)
(住所)○○
持分○○万分の○○
子(氏名)○○
氏名ふりがな ○○ ○○
生年月日 〇年〇月〇日
メールアドレス ○○@○○(メールアドレスの申出は任意)
添付情報
登記原因証明情報(前件添付) 住所証明情報(前件添付) 検索用情報証明情報(前件添付) 評価証明情報
令和〇年〇月〇日申請 ○○法務局 ○○出張所・支局 御中
移転した持分の
課税価格 金○○円
登録免許税 金○○円(課税価格の0・4%)
不動産の表示
所 在 ○○市〇区〇町〇丁目
地 番 〇番地〇
地 目 宅地
地 積 ○○・○○平方メートル
登記申請書の「氏名ふりがな」、「生年月日」、「メールアドレス(メールアドレスの申出は任意)」については、現在、記載することが必須となっています。次を参考にしてください(令和7年4月21日から申出開始)。登記申請をするときの検索用情報の申出方法:検索用情報を登記申請書に記載する方法で申出る。
登記完了後の「登記識別情報通知(権利証)」の発行枚数
専有部分の建物の表示がなされた「登記識別情報通知」1枚のほかに、申請した土地の数に応じて「登記識別情報通知」が発行されます。
敷地権付き区分建物の相続登記の方法
次の申請書を1件作成し、申請(法務局に提出)します。
相続登記の登記申請書(見本):敷地権の土地が1筆の場合
登記申請書(一部省略)
登記の目的 所有権移転
原 因 令和〇年〇月〇日相続
相 続 人 (被相続人 父(氏名)○○)
(住所)○○
子(氏名)○○
氏名ふりがな ○○ ○○
生年月日 〇年〇月〇日
メールアドレス ○○@○○(メールアドレスの申出は任意)
添付情報
登記原因証明情報 住所証明情報 検索用情報証明情報 評価証明情報
令和〇年〇月〇日申請 ○○法務局 ○○出張所・支局 御中
課税価格 金○○円
登録免許税 金○○円(課税価格の0・4%)
不動産の表示
一棟の建物の表示
所 在 ○○市〇区〇町〇丁目 〇番地〇
建物の名称 ○○マンション
専有部分の建物の表示
家屋番号 〇町〇丁目 〇番〇の〇
建物の名称 ○○○
種 類 居宅
構 造 鉄筋コンクリート造1階建
床 面 積 〇階部分 ○○・○○平方メートル
この価格 金○○円
敷地権の表示
土地の符号 1
所在及び地番 ○○市〇区〇町〇丁目〇番地〇
地 目 宅地
地 積 ○○・○○平方メートル
敷地権の種類 所有権
敷地権の割合 ○○万分の○○
登記申請書の「氏名ふりがな」、「生年月日」、「メールアドレス(メールアドレスの申出は任意)」については、現在、記載することが必須となっています。次を参考にしてください(令和7年4月21日から申出開始)。登記申請をするときの検索用情報の申出方法:検索用情報を登記申請書に記載する方法で申出る。
登記完了後の「登記識別情報通知(権利証)」の発行枚数
専有部分の建物の表示がなされた「登記識別情報通知」1枚が発行されます。
まとめ:マンションの相続登記の方法:敷地権付きマンションと敷地権付きではないマンション
(回答)登記簿の建物に、土地の内容(「敷地権の種類」と「敷地権の割合」)が記載されていない「地権付きではないマンション」の相続登記では、前述のように、申請書2件(持分が異なる場合は3件以上)で作成し申請します。
登記簿の建物に、土地の内容(「敷地権の種類」と「敷地権の割合」)が記載されている「敷地権付きマンション」の相続登記では、前述のように、申請書1件で作成し申請します。
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