相続人の妻がシンガポール人の相続登記(必要書類)

相続人の妻がシンガポール人の相続登記(必要書類)

執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)

【相続登記相談】
被相続人 夫(日本国籍)
相続人  妻(シンガポール国籍)
     子3名(日本国籍)
遺 産  土地・建物

(質問)シンガポール国籍の妻が被相続人夫所有の不動産を相続取得するに当たり、相続証明書として、法務局に提出する書類を教えてください。

相続登記相談事例のポイント】

  1. シンガポール国籍の妻が被相続人夫の相続人としての相続証明書は何が必要か
  2. シンガポール国籍の妻が被相続人夫所有の不動産を相続取得することで、将来、問題となることがあるのか

シンガポール国籍の妻が被相続人夫の相続人としての相続証明書は何が必要か

法務局に提出可能な相続証明書の有無

  1. 死亡した夫の除籍全部事項証明書・除籍謄本(出生から死亡まで):有り
    この記載により、死亡した夫が、シンガポール国籍の妻と婚姻したことが記載されています。ただし、これにより、シンガポール国籍の妻が、夫死亡時において、婚姻関係にあったことを証明できません。
  2. 死亡した夫の住民票(除票):有り
  3. 妻の住民票:有り
    死亡時の夫の住所と妻の住所は、同じです。死亡した夫の住民票(除票)と妻の住民票が一体となっていないため、死亡届により世帯主・続柄(妻)等が変更となったことを証明することができません。
    ○○市役所では、死亡した夫と妻が一体として記載されている住民票を発行していません。(市役所担当者に確認済み)
    横浜市であれば、死亡した夫の住民票(除票)と妻の住民票が一体となっているものを取得できます。
  4. 日本の役所に届出たことを証する「婚姻届出記載事項証明書」:無し
    昭和5○年婚姻届出のため、○○市役所では、保存期間の経過により発行できません。(市役所担当者に確認済み)
  5. シンガポール政府発行の「婚姻証明書」:有り(婚姻時に発行されたもの)
  6. 夫の死亡届証明書:有り
    ただし、「届出人欄」には、「同居の親族」としての記載のみで、「妻」とは記載されていません。
  7. 妻の在留カード:有り
    これにより妻の国籍(シンガポール国籍)を証明します。原本に相違ない旨を記入し、署名捺印します。
  8. 子3名の戸籍謄本:有り
    子3名の父母が記載されています。

外国籍の妻が、夫死亡時に、被相続人夫の配偶者であったことを証明

外国籍の妻が、夫死亡時に、被相続人夫の配偶者であったことを証明するためには、次の2つの要件が必要です。

  1. 外国籍の妻が、夫と婚姻したこと
  2. 外国籍の妻が、夫死亡時に、被相続人夫の配偶者であったこと

外国籍の妻が夫と婚姻したことの事実だけでは足りず、被相続人夫の死亡時において、配偶者であったことを証明する必要があります。
これは、外国籍の妻が夫と婚姻した後、離婚していることも考えられるからです。
日本人の妻であれば、夫と同じ戸籍に記載されているので、夫死亡時において配偶者であったことを証明することができます。

ところが、外国籍の妻は、日本国籍でないため、夫の戸籍に記載されないことから、夫死亡時において婚姻関係にあったことを証明できないことになります。

外国大使館(または本国政府)で、外国籍の妻が夫死亡時に夫の配偶者であったことの証明書

外国籍の妻が、被相続人の配偶者であることを証明するためには、基本的には、外国大使館(または本国政府)で、外国籍の妻が、被相続人夫の配偶者であることを証明してもらう必要があります。

この証明は、外国公証役場での宣誓陳述書では、妻が夫の配偶者(相続人)であることの証明とはならないため、別途、外国大使館(または本国政府)で、外国籍の妻が、被相続人夫の配偶者(相続人)であることの証明が必要となります。

この点について、シンガポール大使館(東京)領事関係サービス部に確認したところ、同大使館では、「シンガポール国籍の妻が、死亡した日本人の夫の相続人であることの証明書」は、発行していないとのことです。
このため、日本人の夫が死亡した時点において、シンガポール国籍の妻が、正式な配偶者であったことを証明できないことになります。

法務局の見解:婚姻証明書を再発行してもらう

シンガポール政府発行の婚姻証明書について、シンガポール大使館に確認したところ、婚姻証明書の再発行は可能であるが、日本国内のシンガポール大使館・領事館では再発行ができず、シンガポールに出向いて、同国の入国管理局でのみ再発行が可能である旨確認済みです。
わざわざ、シンガポールに出向かなければならず、婚姻証明書の再発行は、相続人にとって過度な負担となることから現実的な方法とはいえません。

外国人登録原票証明書を取得することも検討
相続人妻の外国人登録原票証明書を取得することも考えられますが、次の理由により、取得しないこととします。
妻の外国人登録原票証明書には、家族構成、特に、夫との関係が記載されているものと思われます。このことにより、妻が夫と婚姻関係にあったことが推測されます。
しかし、外国人が外国人登録原票に記載される措置は、平成24年(2012年)7月8日までであることから、これ以降の夫婦の関係がどうなったかを確認できないため、取得する必要性が乏しいことになります。

外国籍の妻が、夫死亡時に、被相続人夫の配偶者であったことを直接的に証明できないとき

外国籍の妻が、夫死亡時に、被相続人夫の配偶者であったことを直接的に証明できないときの間接証明書類として、事例では、次の書類を法務局に提出することとしました。

  1. 死亡した夫の除籍全部事項証明書・除籍謄本(出生から死亡まで)
  2. 死亡した夫の住民票(除票)
  3. 妻の住民票
  4. シンガポール政府発行の「婚姻証明書」(婚姻時に発行されたもの)
  5. 夫の死亡届証明書
  6. 妻の在留カード写し
  7. 子3名の戸籍謄本
  8. 上申書
  9. 妻と子3名の印鑑証明書

(以上、2024年(令和6年)横浜地方法務局 西湘二宮支局で登記完了)

シンガポール国籍の妻が被相続人夫所有の不動産を相続取得(相続登記)することで、将来、問題となることがあるのか

シンガポール国籍の妻が被相続人夫所有の不動産を相続取得(相続登記)した場合、将来、妻が死亡したときは、次の問題が生じます。

シンガポール国籍の妻が死亡した時、次のことを証明する必要があります。
シンガポール国籍の妻の出生から死亡までを証明する法的な書類
シンガポールには、日本と異なり、戸籍制度がないため、このような法的書類は存在しません。
このことにより、相続人が子3名(日本国籍)だけであることを直接的に証明できないことになります。

この場合、提出可能な書類として、次の書類を提出することになると思われます。

  1. 死亡した夫の除籍全部事項証明書・除籍謄本
  2. 妻の住民票(除票)
  3. シンガポール政府発行の「婚姻証明書」(婚姻時に発行されたもの)
  4. 夫の死亡届証明書
  5. 妻の在留カード写し
  6. 妻の外国人登録原票証明書
    夫のほかに子3名が記載されていると思われます。
  7. 子3名の戸籍謄本
  8. シンガポール大使館の証明書
    相続人が子3名であることの証明書
  9. 子3名の印鑑証明書
  10. 上申書

将来の相続対策

妻が遺言書を作成

シンガポール国籍の妻が被相続人夫所有の不動産を相続取得(相続登記)した場合、前述のように、相続人が子3名だけであることを直接、証明することが難しいことから、妻が公証役場で遺言書を作成することとします。

この場合、次の遺言書の作成方法では、相続人が子3名だけであることを証明する必要がありますので、公証役場で遺言書を作成することを選択します。
自筆証書遺言書作成家庭裁判所での検認手続が必要です。
登記所保管制度による自筆遺言書作成法定相続人全員を証明することが必要です。

公証役場で遺言書を作成した場合、法務局に提出する書類

被相続人母と子の相続関係だけを証明すればよいことになります。

  1. 公正証書で作成した遺言書(正本または謄本)
  2. 妻の住民票(除票)
  3. 妻の在留カード写し
  4. 死亡した夫の除籍全部事項証明書・除籍謄本
  5. 子3名の戸籍謄本
相続登記で、妻名義としないで、子名義とする

事例の場合、今回の相続登記で、妻名義とする必要性がなければ、子名義とするのがよいでしょう。
ただし、妻の預金などが多額にあるときは、前述のように、公正証書で遺言書を遺してもらった方がよいでしょう。

相続登記や預貯金の相続手続、遺言書の作成については、当司法書士事務所にご相談ください。

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相続登記相談風景(イメージ)
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