不動産名義変更:生前贈与登記と相続登記との違い(夫婦間贈与・本人確認が困難な場合・夫婦の子は1名)
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
不動産名義変更の生前贈与登記と相続登記との違い(夫婦間贈与・本人確認が困難な場合・夫婦の子は1名)について解説します。
【相続登記相談】
(質問)現在住んでいる戸建ては、夫婦の共有名義で、夫持分10分の9、妻持分10分の1です。戸建ての評価価格は、土地と建物で900万円、路線価で計算すると、1,000万円です。
現在、妻は余命いくばくもなく、今のうちに、妻の持分を私名義に変更しておいた方が、後々、よいのではないかと思っています。
この場合、生前贈与で名義変更した方がよいのか、相続が開始してから相続登記をした方がよいのかを教えてください。
なお、妻は現在、入院しており、面会は、親族に限られています。また、私たち夫婦には、子が一人おります。
生前贈与で、土地と建物の権利証が必要な場合、紛失して見当たりません。この場合、権利書の再発行をしてもらうことができますか。

生前贈与の種類
暦年贈与(れきねんぞうよ)
暦年贈与とは、1年間の贈与税の非課税額を使って利用します。
1年間の非課税額とは、贈与税の基礎控除額110万円のことで、これを適用して贈与することをいいます。
夫婦間贈与(配偶者間贈与)
夫婦間贈与(配偶者間贈与)とは、「戸籍上」の婚姻生活が20年以上の夫婦に適用され、
1)居住用の不動産の贈与(贈与を受ける人が実際に居住することが要件)
または
2)居住用の不動産を購入するための資金として贈与
する場合に利用します。
贈与税の特別控除額は、2,000万円+110万円(1年間の贈与税の基礎控除額)の合計2,110万円までです。
「不動産を贈与する場合の価格」は、土地は国税庁の「路線価」で計算し、建物は「固定資産税の評価価格」で計算します。
相続時精算課税制度(親から子・孫への贈与)
相続時精算課税制度を利用した贈与は、
20歳(2022年4月1日以降は18歳)以上の子や孫が、60歳以上の親から受ける贈与について適用され、親の相続時に相続税で精算します。
相続時精算課税とはいっても、親の生前に贈与しますので、相続ではなく、贈与の扱いとなります。
贈与した価額から、まず、贈与税の基礎控除額:110万円を控除し、さらに、特別控除額の2,500万円(累計)を控除します。その結果、マイナスになる場合は、贈与時の贈与税が非課税となります。
これがプラスになる場合は、税率が一律20%かかります。
事例の生前贈与の価格は:暦年贈与か夫婦間贈与か
贈与価格の計算方法は
土地:路線価1㎡当たりの価格(場所により評価価格の倍率計算)を基準に計算
建物:固定資産税の評価価格(固定資産税納税通知書・課税明細書に記載されている「評価価格(評価額)」)を基準に計算
事例では、土地・建物合計贈与価格を1,000万円で計算します。
1,000万円×1/10=100万円(贈与価格)
この結果、事例の場合、夫婦間贈与(配偶者間贈与)を利用する必要がなく、暦年贈与(基礎控除額:110万円)を利用して行うことができます。
登記費用:贈与登記と相続登記の違い
事例では、土地・建物の合計評価価格(固定資産税課税明細書の評価価格)を900万円で計算します。
【贈与登記の場合】の登記費用
【贈与登記の場合】の登記費用は
900万円×1/10=90万円
90万円×2%=18,000円(登録免許税)
実費:18,000円+662円+980円+200円(贈与契約書貼付印紙)=19,842円
報酬:46,000円+4,600円
合計:70,442円
【相続登記の場合】の登記費用
【相続登記の場合】の登記費用は
900万円×1/10=90万円
90万円×0.4%=3,600円(登録免許税)
(ただし、土地についてのみ令和9年(2027年)3月31日まで評価価格が100万円以下の場合は非課税)
実費:3,600円+662円+980円+2,000円=7,242円
報酬:55,000円+5,500円
合計:67,742円
以上の結果から、事例の場合、贈与登記も相続登記も、それほど登記費用に違いがないことが分かります。
【贈与登記の場合】合計:70,442円
【相続登記の場合】合計:67,742円
必要書類:贈与登記と相続登記の違い
【贈与登記の場合】の必要書類
贈与者(妻)
① 土地・建物:権利証
② 印鑑証明書
③ 住民票
④ 固定資産税納税通知書・課税明細書
⑤ 身分証明書コピー(マイナンバーカード・健康保険証など)
⑥ 贈与契約書などに実印で押印
受贈者(夫)
⑦ 住民票(上記世帯全員のものであれば不要)
⑧ 身分証明書コピー(マイナンバーカード・健康保険証など)
⑨ 贈与契約書などに認印で押印
【相続登記の場合】の必要書類
妻が亡くなった場合に相続登記で名義変更する場合
【相続登記の場合】の必要書類は
被相続人(妻)について
(1)妻の戸籍除籍謄本全部
→ 出生から死亡までの戸籍除籍謄本全部(広域交付の方法で取得)
(2)妻の「住民票」の除票(本籍・筆頭者の記載)
(3)固定資産税納税通知書・課税明細書(原本)
法定相続人(夫、子)
(1)戸籍謄本 1通
(2)住民票 1通
(3)印鑑証明書 1通
(4)遺産分割協議書(実印で押印)
事例の場合の選択:生前贈与か相続登記か
事例の場合、以上の内容(登記費用と必要書類)から、
贈与登記も相続登記も費用面では、同じくらいです。
必要書類については、贈与登記よりも、相続登記の方が、多くの書類を必要とします。
生前贈与が困難な(事実上できない)理由
生前贈与による名義変更登記では、手続を司法書士に依頼する場合、司法書士が妻に対し、本人確認・意思確認をします。事例では、これができません。
また、土地・建物の権利証を紛失している場合、再発行の手続はありません。
この場合、一つの方法として、登記申請後、法務局から「登記申請に間違いないかどうかの確認」のため、書類が妻宛てに郵送されます(法務局の事前通知)。
この郵送物を妻が、郵便局に出向いて受取ることになります(本人限定郵便)。事例では、これもできません。
以上のことから、事例では、現時点で、生前贈与により名義変更登記することができないことになります。
まとめ:不動産名義変更:生前贈与登記と相続登記との違い
生前贈与登記とは、登記名義人の生前に行う名義変更のことをいいます。相続登記とは、登記名義人の相続開始後に行う名義変更のことをいいます。
生前贈与登記が現実的に可能かどうかを判断するポイントは、次のとおりです。
税金上の問題がないかどうか
生前贈与では、贈与税(国税)の問題と不動産取得税(都道府県税)の問題があります。
贈与税(国税)の問題では、暦年贈与、夫婦間贈与(配偶者間贈与)、相続時精算課税贈与で、控除される金額が異なります。
このことは、贈与できる価格(非課税となる価格)に限度があることになります
不動産取得税(都道府県税)の問題では、生前贈与では、不動産を取得することで、不動産取得税の対象(納税または減税)となります。
必要書類を用意できるかどうかの問題
特に、贈与者の権利証(登記済権利証・登記識別情報通知)が必要となりますので、これがない場合に、ないことに対応できる方法があるかどうかがポイントとなります。
相続登記で検討すべきこと
相続税について検討します。基礎控除額は、3,000万円+600万円×相続人の人数。
遺産分割が必要な場合は、相続名義人を決めることが容易か、困難か。
(回答)事例の場合、生前贈与登記は事実上できませんので、相続開始後に、相続登記をしても、問題ないと思われます。
相続登記や預貯金の相続手続、遺言書の作成については、当司法書士事務所にご相談ください。
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