限定承認:相続人が複数いる場合の熟慮期間の伸長申立て
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
複数の相続人がいる場合、熟慮期間の伸長をするのは誰か、限定承認について解説します。
【限定承認相談】
被相続人父の遺産相続について、兄弟3人で話し合い、限定承認をしようと考えています。ただし、熟慮期間の3か月以内では遺産の内容を把握できないため、熟慮期間伸長の申立てをする必要があります。
この場合、兄弟3人全員で伸長申立てをする必要があるのか、1人で申立てをすればよいのかを教えてください。
相続の熟慮期間と限定承認
相続の熟慮期間
相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から「3か月以内」に、次のいずれかを選択する必要があります(民法915条)。この3か月を「熟慮期間」といいます。
相続の方法
●単純承認:すべての遺産(プラス・マイナス)を引き継ぐ。
●相続放棄:遺産(プラス・マイナス)を何も引き継がない。
●限定承認:プラスの遺産の範囲でマイナスの遺産も引き継ぐ。
限定承認
限定承認は「共同相続人全員」でしなければなりません(民法923条)。
相続人が3名いる場合、1人でも単純承認をしたり、熟慮期間を経過(法定単純承認)したりしますと、原則として、相続人全員で限定承認ができなくなります。
熟慮期間の伸長申立ての効果
熟慮期間は、家庭裁判所に申立てをすることで伸長(延長)することができます。
この伸長は「申立てをした相続人ごと」に判断されるのが原則です。
ですので、3人の相続人のうち1人だけが伸長申立てをした場合、その効力はその1人についてのみ及び、他の相続人には及びません。
事例の場合の熟慮期間伸長申立て
事例の場合:兄弟3人全員で熟慮期間の伸長申立てをする必要があるのか、1人で申立てをすればよいのか。
相続人A・B・C3名がいる場合
Aのみが熟慮期間の伸長申立てを行った。
B・Cは何もせず3か月が経過した。
結論(原則)
この場合「3人全員での限定承認は(原則として)できない」と解されています。
理由は、次のとおりです。
B・Cは熟慮期間内に何らの手続も行わなかったため、法律上「単純承認をしたものとみなされる」(法定単純承認)状態になります(民法921条2号)。
一方、限定承認は「相続人全員が共同して」行う必要があるため、すでに単純承認をした者(法定単純承認も)が含まれていると、要件を満たさなくなります。
熟慮期間伸長と限定承認
自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月を経過したとき
A:熟慮期間の延長により伸長した期間内であれば、限定承認ができる。
B:法定単純承認となる。限定承認ができない。
C:法定単純承認となる。限定承認ができない。
例外的に、限定承認ができる場合
熟慮期間の起算点
熟慮期間は「相続開始を知った時」から起算します。
ですので、「被相続人父」について、B・Cが
●相続の開始(死亡)を知らなかった。
●債務の存在を知らなかった。
などの場合には、熟慮期間が進行していないことになります。
この場合には、B・Cは、法定単純承認をしていないこととなり、相続人全員で限定承認が可能となります。
まとめ:限定承認:相続人が複数いる場合の熟慮期間の伸長申立て
相続人3名のうち1名のみが熟慮期間の伸長申立てを行い、他の2名が何もせず3か月を経過した場合、(原則)その2名は法定単純承認となるため、相続人全員で行う必要がある限定承認はできないことになります。
限定承認と熟慮期間(伸長)のポイントは、次のとおりです。
① 限定承認を検討する場合、必ず相続人全員で協力する必要があります。
② 遺産の調査に時間がかかる場合、相続人全員が熟慮期間の伸長申立てをします。
③ 相続人のうちの一人だけではなく、相続人全員で熟慮期間内に、熟慮期間の伸長申立て・限定承認申立てをする必要があります。
④ 相続人のうちの一人でも熟慮期間を経過すると、相続人全員で限定承認はできなくなります。
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