相続登記に応じない他の法定相続人への説明
事例:相続人Aは、他の相続人Bに対して、再三再四、相続登記(不動産名義変更)に応ずるよう問いかけをしてきましたが、一向に応じないため、相続人Aの相続権を確保するため、相続人A一人でA・Bの法定相続分で登記を考えています。
共同相続人1人からの相続登記を参考にしてください。
法定相続分での登記についての説明書(例)
以下の内容をA本人からBに郵送して、法定相続分で登記した場合、どういう結果となるかをBに理解してもらいます。
被相続人○○○○様の法定相続分での相続登記(法定相続登記)について説明いたします。
1 B様にご用意いただく書類
1) 相続登記用委任状 1通
2) 戸籍謄本 1通
3) 住民票 1通
その他、登記に必要な書類(被相続人の出生から死亡までの除籍謄本や除票、評価証明書など)はA様において取得済みです。
2 法定相続による所有権移転登記の方法
1)まず、被相続人・○○○○様の所有権について移転登記をいたします。
法定相続人は、(亡)△△△△様が持分2分の1、A様が持分4分の1、B様が持分4分の1となります。
2)次に、1)と同時申請となります。
被相続人・△△△△様の持分2分の1について移転登記をいたします。
法定相続分は、A様が持分4分の1、B様が持分4分の1となります。
1)と2)の登記をすることによって、最終的な持分は、A様が持分2分の1、B様が持分2分の1となります。
3 登記完了後の権利証について
上記1)と2)の登記が完了しますと、A様は権利証が2通、B様も権利証が2通発行されます。
これら4通で不動産全体の権利証となります。
現在、不動産を管轄する■■法務局▼▼出張所では、権利証を「登記識別情報(通知)」で発行しております。
4 相続登記用の委任状について
司法書士作成の委任状は、上記1)と2)の相続登記を申請するための委任状です。
これに、委任日、住所と氏名のご記入、認印を押印していただきます。
法定相続分での相続登記(法定相続登記)の場合、法定相続人のうちのお一人が登記申請することもできます。(民法の共有者の保存行為として)
この場合、申請人となった相続人には、上記登記完了後の「登記識別情報」(権利証)が発行されますが、申請人とならなかった相続人には、「登記識別情報」(権利証)は発行されません。
したがいまして、A様とB様が「登記識別情報」(権利証)の発行を受けるためには、A様とB様から相続登記用の委任状に署名と押印をいただく必要があります。
もし、B様が法定相続での登記にご協力いただけない場合、やむを得ず、A様が単独で法定相続登記をすることになります。そうしますと、B様は「登記識別情報」(権利証)の発行を受けることができないということになります。
登記識別情報の発行を受けなかった場合、その後の登記手続においては、司法書士による本人確認制度、登記所からの事前通知制度、あるいは公証人役場での本人証明制度によることになります。
上記の事例説明
上記の事例の場合の相続関係図は、次のとおりです。
名義人の父が死亡した後、相続人の母が死亡した場合です。父死亡時に名義変更をしていないうちに母が死亡した場合、これを数次相続といいます。
法定相続分での相続登記
事例で、相続人Bが登記に協力しない場合、相続人Aは、Bの協力なしで単独で法定相続分での登記を申請できます。
法定相続分での登記の場合、Aは、自分の法定相続分だけではなく、死亡した母の法定相続分とBの法定相続分を一緒に登記しなければなりません。
事例の場合、次の登記を順番に同時に申請します。(評価価格を1,000万円とします。)
登記を2件で申請しなければならず、司法書士報酬を含めますと、登記費用が余計にかかります。
- 登記の目的:所有権移転
相続人:(被相続人 父)
(亡)持分2分の1 母(登記識別情報通知の発行は不要)
持分4分の1 A(登記識別情報通知を発行)
持分4分の1 B(申請人とならない場合、登記識別情報通知は不発行)
登録免許税:40,000円(評価価格の0・4%)(令和3年現在、第1の相続については非課税) - 登記の目的:母持分全部移転
相続人:(被相続人 母)
持分4分の1 A(登記識別情報通知を発行)
持分4分の1 B(申請人とならない場合、登記識別情報通知は不発行)
登録免許税:20,000円(移転する持分2分の1評価価格:500万円の0・4%)
以上のように、相続登記に協力しないBには登記識別情報通知が発行されませんので、登記した後に、不動産を売却などする場合、Bは登記識別情報通知に代わる別の手続きが必要となります。費用もかかる場合があります。
遺産分割(協議書を作成)での相続登記の場合
事例で、もし、Bが相続登記に協力する場合、遺産分割協議書を作成して次のように1件で相続登記をするのが通常です。遺産分割で仮にAとBの持分を2分の1とします。
遺産分割協議書には次のように記載します。
相続人は、母死亡によりAとB。AとBは各2分の1を取得する。
事例の場合、被相続人父の名義変更では、遺産分割協議書には前述のように、「AとBは各2分の1(仮)を取得する。」と記載します。
これは、被相続人父の相続では、法定相続分が、母2分の1,AとBが各4分の1ですので、これを遺産分割でAとBが各2分の1とすることは法定相続分とは異なる相続の仕方となりますので、この内容を遺産分割協議書に記載します。これにAとBが署名・実印を押印して印鑑証明書を付けます。
この場合、1件で申請しますので、司法書士報酬を含めて2件で申請するよりも登記費用が安くなります。
- 登記の目的:所有権移転
相続人:(被相続人 父)
持分2分の1 A(登記識別情報通知を発行)
持分2分の1 B(登記識別情報通知を発行)
登録免許税:40,000円(評価価格の0・4%)
令和6年から相続登記の義務化開始
上記の事例のように、相続人Bが相続登記に協力しない場合、単にBの協力を待っていては名義変更ができない状況の場合は、法定相続分で登記せざるを得ません。
これは、令和6年から相続登記の義務化が開始されるからです。ただし、相続登記できない正当な理由がある場合は過料の対象となりません。これを証明する必要があります。