売買登記が完了後、「錯誤による所有権更正登記」をしたいが、相続が開始したときは?
【相続登記相談】 2年前にマンションを売買により取得し、買主を母と娘の共有名義で登記しました。母持分10分の8,娘持分10分の2としました。 実際には、母が売買代金の全額:5,000万円を出しましたが、娘は売買代金を負担していません。娘のために良かれと思ってしたことです。 税務署にも相談に行きましたが、このような事情であれば、基本的には、娘に贈与税がかかると言われました。 ところが、娘が死亡したので、相続が開始しています。 現在登記されている名義を母一人の名義に変更したいと考えており、「錯誤による所有権更正登記」ができないかと思っています。 その相続人である配偶者(子がいる)に事情を説明しましたが、配偶者は、名義を変更することに難色を示しています。また、娘の共有持分が、相続人である配偶者にあると主張しています。 この場合、どうしたらよいでしょうか。
錯誤による所有権更正登記ができるか?
登記記録(登記簿)
売買による所有権移転登記をした後、錯誤による所有権更正登記の方法は、錯誤による所有権更正登記でご確認ください。
相談事例では、買主の名義を母と娘の共有名義としています。これを母単独名義としたいので、「錯誤による所有権更正登記」ができないかとの相談ですが、これはできません。
なぜなら、「母と娘」の共有名義を「母の単独名義」とする場合、登記名義人に変動(2名が1名)があるからです。
「錯誤による所有権更正登記」ができるのは、基本的には、登記名義人に変動(2名が2名)がなく、共有者の持分のみを修正する場合に限られます。
ただし、売買の前所有者(売主)の協力が得られれば、可能ですが、これは、事実上、売買の決済が終了していますので、前所有者(売主)が協力しないのが通常です。
このように錯誤で所有権更正登記ができない場合は、真正な登記名義の回復による持分移転登記で名義人を修正することになります。
すなわち、相談事例では、娘の共有持分を母に移転登記するという方法で行うことになります。
共有者の娘が死亡し、相続が開始している場合は?
相談事例の場合、共有者の娘が死亡していますので、もはや、娘の協力を得て、真正な登記名義の回復による持分移転登記をすることができません。
そこで、娘の相続人である配偶者と子に対し、真正な登記名義の回復による持分移転登記をしてほしいと言うことになります。
娘の相続人である配偶者と子が、この登記に協力してくれれば、母単独名義とすることが可能となります。
ですが、実際には、配偶者が名義を変更することに難色を示していますので、合意での名義変更はできないと考えた方がよいでしょう。
相手方(配偶者と子)による相続登記
娘の配偶者は、娘の共有持分が、相続人である配偶者にあると主張していますので、配偶者が相続登記をしてしまう可能性があります。この相続登記を、現時点で防ぐ方法はありません。
配偶者が相続登記をしますと、母と配偶者(と子)の共有状態となります。
相続登記後に、相手方が取りうる手段は?
相手方配偶者が相続登記をした後、相手方配偶者が取りうる手段は、次の二通りです。
- 母に対し共有物分割請求
- 第三者に共有持分を売却
共有物分割請求
相手方配偶者は、母に対し、共有物分割請求をしてくる可能性があります。
共有物分割請求とは
民法 | e-Gov法令検索
民法(共有物の分割請求)
第二百五十六条 各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
民法(裁判による共有物の分割)
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
相手方配偶者が、母に対し、共有物分割請求をしてきた場合は?
相手方配偶者が、母に対し、共有物分割請求をしてきた場合、相手方配偶者が相続取得した共有持分10分の2に相当する金銭の支払いを要求してくることが考えられます。
仮に、マンションの価格を当初の売買代金:5,000万円とした場合、相手方配偶者が相続取得した共有持分10分の2に相当する金額:1,000万円の支払いを要求してくる可能性があります。
母が相手方配偶者の要求を拒否すれば、裁判による共有物分割請求をしてくる可能性があります。
裁判でも、前述と同様に、1,000万円の支払いを要求してくる可能性があります。
裁判となれば、ご自分で裁判(被告となる)ができなければ、弁護士に依頼することになります。
第三者に共有持分を売却
相手方配偶者が相続取得した共有持分を第三者に売却することも可能性としてはあります。
この場合、共有持分を取得した第三者が、共有物分割請求をしてくる可能性は十分あります。
そうなりますと、共有持分10分の2に相当する金額:1,000万円の支払いをしなければならない可能性が、さらに高くなります。
現時点でできることは?
もともと、当初の売買で、売買代金全額を出したのが母だけであるので、マンションの所有権全部が母にあると言えます。
そこで、相手方配偶者に、前述した方法の「真正な登記名義の回復による持分移転登記」で協力を求めることになります。
相手方配偶者は、名義を変更することに難色を示していますので、話し合いによるこの登記は難しいと思われます。
そこで、真正な登記名義の回復による持分移転登記請求の裁判をすることになります。
いずれにしましても、相手方配偶者とは、話し合いによる解決が難しいと思われますので、ご自分でできなければ、弁護士に依頼することになります。(この件につき、司法書士は、基本的には、代理人となることができません。)
まずは、現時点で、弁護士に相談の上、真正な登記名義の回復による持分移転登記請求で相手方と交渉するのがよいと思います。
相手方配偶者との交渉が決裂した場合は、弁護士に裁判(原告となる)をしてもらうことになります。
裁判では、処分禁止の仮処分を申立てることによって、相手方配偶者の共有持分を、事実上、他に売却などできないように予防することも可能となります。
処分禁止の仮処分
民事保全法 | e-Gov法令検索
民事保全法(不動産の登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分の執行)
第五十三条 不動産に関する権利についての登記(仮登記を除く。)を請求する権利(以下「登記請求権」という。)を保全するための処分禁止の仮処分の執行は、処分禁止の登記をする方法により行う。
処分禁止の仮処分の登記
処分禁止の仮処分とは、相談事例の場合、母が「真正な登記名義の回復による持分移転登記請求権」の訴えを提起(裁判)し、処分禁止の仮処分を申立て、これが認められたときに、裁判所が法務局に対し、登記嘱託をすることによって、登記されることになります。
この仮処分の登記がされたからと言って、その後に譲渡(売買など)による移転登記ができないわけではありませんが(移転登記ができるが)、この仮処分の登記がされた不動産が係争中であると理解されるため、通常は、仮処分の登記がされた不動産を購入しようとはしません。
したがいまして、仮処分の登記をすることによって、その後の不動産の処分(売買など)を予防する効果があります。
相続登記や預貯金(預金・貯金)の相続手続については、当司法書士事務所にご相談ください。
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