相続登記の場合の代位による分筆登記(他の共有者が協力しないときの方法)
相続した土地を分割(分筆登記)する場合、他の共有者が協力しないときの方法について説明します。
分筆登記というのは、一個の土地を数個(2個以上)に分割する登記のことをいいます。
被相続人名義の土地を分割(分筆登記)して、各相続人名義としたい場合が考えられます。
被相続人名義の土地(1番1 600㎡):1筆 |
↓
土地(1番1:150㎡)所有者:相続人A | 土地(1番2:150㎡)所有者:相続人B |
土地(1番3:150㎡)所有者:相続人C | 土地(1番4:150㎡)所有者:相続人D |
一個の土地を複数の共有者で所有している場合、共有者全員が分筆登記の申請人となります。
共有者の一人で分筆登記を申請することができないのが基本です。
土地の分筆登記は、国家資格登録者の土地家屋調査士が代理して申請します。
司法書士は、権利に関する登記の専門家なので、この分筆登記については代理して申請することができません。権利に関する登記は、例えば、所有権、賃借権、抵当権などの権利です。相続による所有権移転登記は、典型的な例です。
ところで、相続の問題で、相続人の間で土地を相続する場合、この土地を分けて相続したいというときは、この土地を分筆登記して、それぞれの相続人が、例えば、Aの土地は甲の所有に、Bの土地は乙の所有に、というように、分筆登記と所有権の移転登記をする必要があります。
通常、遺産分割協議で、誰がどの土地を取得するかを決めて、遺産分割協議書(分筆図面を付ける)を作成します。先に分筆登記をした場合、その後に遺産分割協議書を作成する場合は、遺産分割協議書に分筆後の地番を記載します。
通常の相続(遺産分割協議)で土地を分ける場合は、相続した土地を分割したいとき(方法)を参考にしてください。
遺産分割調停で土地の分割を決める場合
この土地を分割することの合意も含めて、具体的に、どういう線で分割するかという合意ができない場合など、家庭裁判所に遺産分割の調停を申立てます。
この遺産分割の調停で、Aの土地は甲の所有に、Bの土地は乙の所有に、ということが土地の分割を含めて成立すると、分筆登記をした後、相続による所有権移転登記をすることになります。
したがって、遺産分割の調停をしているときに、分筆する図面を家庭裁判所に提出する必要があります。
分筆する図面を提出するということは、土地家屋調査士にその土地を測量してもらう必要があります。
単に測量するだけでは足りません。分筆登記をするということは、道路査定や隣接地との境界が確定していることが必要です。最終的には登記をすることになりますので、測量と登記の専門家の土地家屋調査士に依頼することが必要です。
遺産分割の調停が成立した後、分筆登記をするときには、法定相続人全員が登記の申請人、法定相続人全員の署名、捺印が必要になります。
もし、分筆登記に協力しない法定相続人がいる場合は、その相続人に代位して分筆登記をすることになります。
これは、遺産分割の調停が行われる前にすでに、法定相続人名義(法定相続分)での相続による所有権移転登記がされている場合も同様に、分筆登記に協力しない相続人がいる場合は、その相続人に代位して分筆登記をすることになります。
代位による登記の場合、代位原因を証する書面を登記所に提出する必要があります。
上記の例では、分筆図面(地積測量図)の付いた遺産分割の調停調書が代位原因証書となります。
また、遺言書で、Aの土地は甲に相続させる、Bの土地は乙に相続させる、という遺言書がある場合、乙が分筆登記に協力しないとき、甲は、乙に代位して分筆登記を申請することができます。
この場合の代位原因証書は、遺言書ということになります。
当然のことながら、遺言書には、分筆の図面(地積測量図)が付いていなければなりません。
なお、分筆図面(地積測量図)は、実際に登記所で分筆登記ができるものでなければなりません。
例えば、公道との境で道路査定がなされていない場合、分筆図面を作成する前段階で、道路査定を完了する必要があります。また、隣接地の所有者との境界画定が必要な場合は、隣接所有者の承諾書も必要となります。
過去には、こういう事例もあります。例えば、時効取得の裁判で確定した、時効取得した土地の図面と判決文で登記したい、ということがありました。土地家屋調査士と検討した結果、道路査定がされていない、かつ、隣接地所有者との境界画定がされていない、単なる測量図では分筆登記ができない、ということがあります。
分筆登記する際の測量の仕方
分筆登記する際に土地を測量しますが、現在の測量に仕方は、分筆によって新しくできる地番の土地だけではなく、元の土地も含めて全体を測量することになっています。
分筆登記にかかる費用
分筆登記は、前述のとおり土地家屋調査士が代理して行います。分筆登記は、正確な測量(測量技術)を伴いますので、ご自分で行うには非常に難しいと思われます。
分筆登記にかかる費用には、次の項目があります。
- 土地の測量:測量機器を使って正確に測量します。
- 道路査定:公道と敷地の境界が定まっていない場合に必要です。
- 元の土地全体を測量し、新しくできる地番の土地を測量した結果、地積(土地の面積)が増える場合、隣地所有者の承諾が必要です。
- 隣地との境界が定まっていない場合、隣地所有者の承諾が必要です。
- 分筆登記申請
このように、分筆する土地によって必要な手続きがありますと、費用も高くなり、分筆図面が出来上がるまでの時間がかかることになります。
分筆図面そのものの作成費用は、土地の広さや形状によって異なり、数十万円はかかります。
遺産分割調停(審判)で土地を相続するときや裁判で土地を(時効取得などで)取得するとき、土地の分割(分筆登記)を伴う場合は、前述のとおり慎重に事を進める必要があります。
遺産分割調停(審判)や裁判では、結果として、自分所有となった場合であっても、実際の登記(分筆登記、名義変更登記)ができないという事態が想定されます。
ですから、こういう裁判手続きによることなく、当事者の合意で登記ができる方法を考えた方がよいでしょう。