「何も相続しない旨の遺産分割協議書」や「相続放棄書」は使えるのか

「何も相続しない旨の遺産分割協議書」や「相続放棄書」は使えるのか

遺産分割協議書の基本

  1. 遺産分割協議書を作成する場合の基本は、1枚の遺産分割協議書に法定相続人全員が署名、押印します。
  2. 遠方の相続人がいるような場合は、同じ内容の遺産分割協議書を作成し、各相続人が別々に署名、押印することもできます。その日付が異なっても構いません。
  3. 通常の遺産分割協議書ではなく、遺産分割協議を行った結果の内容を記載した書面(遺産分割協議証明書)でも同様に、各相続人が別々に署名、押印することもできます。

「私は何も相続しません。」という遺産分割協議書

ところで、次のような内容の遺産分割協議書は、どうでしょうか。
「私は、遺産分割について何も相続しないことに同意します。」あるいは、
「私は、遺産について相続放棄します。」という相続放棄書というものがあるようです。
この内容の書面に、相続人が署名、押印します。
何も相続しないので、遺産の内容が記載されていません。

実際、仕事で、このような内容の書類を作成、使用したことはありません。

上記1・2・3の遺産分割協議書を作成、使用するのが、通常です。
上記1・2・3の遺産分割協議書の内容では、「相続人の誰が何を相続取得する。」と記載します。
ですから、遺産の明細が記載されます。
単に、「相続人の誰がすべての遺産を相続取得する。」という遺産分割協議書を見かけますが、この内容でも問題ありません。実際、この内容で登記した経験があります。

遺言書の場合、「相続人の誰にすべての遺産を相続させる。」で登記所でも金融機関でも通用します。

いずれにしましても、遺産を分割するということは、遺産についてどのように分けるかを話し合うことになりますので、相続人の間での協議、話し合いが必要ということになります。

「誰が何を相続取得する。」かが記載されていない遺産分割協議書を見たことがありませんでした。
たまたま、何も相続しない旨の遺産分割協議書を一般の方が作成したのを見たことがあります。
この方は、どこで、このような内容の遺産分割協議書でよいと、見たか、あるいは、教えてもらったのでしょうか。このような内容は、一方的な内容であって、協議、話し合いで決めたとは思えません。

遺産分割協議は、誰が何を相続するという内容について、法定相続人全員の合意で成立するものです。

例えば、相続人三人のうちの一人がすべての遺産を相続取得するという内容の遺産分割協議書に三人が署名、実印を押印すれば、実質、ほかの二人は、「何も相続しない」のと同じことになります。

このような「私は、遺産分割について何も相続しない。」という内容の書面で、不動産の名義変更登記ができるでしょうか。登記所は、これを受け付けるでしょうか。

例えば、遺産分割協議書の内容として、「私は、相続人の誰がすべての遺産を取得することに同意する。私は、遺産分割について何も相続しません。」という内容であれば、登記できる可能性はあります。

結局、「私は、遺産分割について何も相続しない。」という意味は、「私は何も相続する意思はないので、ほかの相続人で遺産分割してください。」と同じ意味となります。
これは、相続分の放棄ということになります。相続人が相続権そのものを放棄するのではなく、自分の相続分を一方的に放棄するという意味です。相続権そのもを放棄するは、家庭裁判所の相続放棄の申述しかありません。

相続放棄書(相続放棄証明書)

相続放棄書(相続放棄証明書)という書類もありますが、この書類で登記したことはありません。
相続放棄書は、家庭裁判所で遺産分割調停を行う場合、調停に関わりたくない相続人が家庭裁判所に提出するものです。
この相続放棄書は、家庭裁判所の相続放棄申述受理証明書(相続放棄申述受理通知書)とは全く別物です。相続放棄書は、相続人個人が作成し署名捺印をするものです。(作成者の単独行為)
家庭裁判所の遺産分割調停でこの調停に関わりたくないという相続人は、「相続分放棄届出書兼相続分放棄書」を家庭裁判所に提出することによって、調停当事者から外れることができます。

相続分放棄の場合、相続分を放棄した相続人の相続分は、ほかの相続人の相続分の割合で、ほかの相続人が取得することになります。そうしますと、遺産分割調停では、この移動した相続分を加味して遺産分割調停が行われることになります。

相続分譲渡証書

相続分譲渡とは、単独行為ではなく、「相続分を譲渡する相続人」と「相続分を譲渡される相続人(または第三者)」との契約です。これは、無償(贈与)の場合もあれば、有償(売買:代金の授受が行われる)の場合もあります。
相続分の譲渡の場合も、家庭裁判所で遺産分割調停を行う場合、調停に関わりたくない相続人がほかの相続人(または第三者)に相続分を譲渡したことを証する書面(相続分譲渡証書)を家庭裁判所に提出するものです。また、家庭裁判所の遺産分割調停ではなく、通常の遺産分割協議の場合にも使用されます。
この相続分譲渡証書は、「相続分を譲渡する相続人」と「相続分を譲渡される相続人(または第三者)」とで作成し署名捺印をするものです。
家庭裁判所の遺産分割調停でこの調停に関わりたくないという相続人は、「相続分譲渡証書」を家庭裁判所に提出することによって、調停当事者から外れることができます。

相続分譲渡の場合、相続分放棄の場合と異なり、相続分を譲渡した相続人の相続分は、譲渡証書に記載されたほかの相続人(または第三者)だけが取得することになります。そうしますと、遺産分割調停では、この移動した相続分を加味して遺産分割調停が行われることになります。
安易に考えてはいけない相続分譲渡を参考にしてください。

結局、遺産分割(協議・調停)では、相続分放棄や相続分譲渡という方法は特別の事情がある場合に限って行う方法だと認識した方が無難です。特に、相続分譲渡は、譲渡を受ける相手方が誰になるのかによって税金の問題が生じますので、この方法を行うのであれば、税金の問題を承知して行う必要があります。

「相続登記相談事例など」に戻る

tel:045-222-8559 お問合わせ・ご相談・お見積り依頼フォーム

タイトルとURLをコピーしました