生前贈与ができないときの公正証書で遺言書作成(相続対策事例)

生前贈与ができないときの公正証書で遺言書作成(相続対策事例)

現在、夫と妻共有名義の不動産を、将来の相続対策として、妻の子(夫の養女)名義としたい場合の方法を検討します。

【家族構成】
甲(29歳):夫(55歳)の子
乙(27歳):妻(55歳)の子(夫の養女)
丙(25歳):妻(55歳)の子(夫の養女)

資産(賃貸マンション2室)

【妻の希望(1)質問:贈与で名義変更したい】

【質問】
現在、賃貸マンションの夫と妻の持分各2分の1を、妻単独所有とし、将来(相続開始後)、妻の子(夫の養女)乙・丙に確実に名義変更したい。また、贈与税・不動産取得税がかからないようにしたい。どういう方法がありますか。

賃貸マンション2室
A(賃貸マンション):現在、夫持分2分の1、妻持分2分の1
  → 妻単独所有にしたい。
  → 将来的には、乙・丙(あるいは、どちらか単独所有)としたい。
B(賃貸マンション):現在、夫持分2分の1、妻持分2分の1
  → 妻単独所有にしたい。
  → 将来的には、乙・丙(あるいは、どちらか単独所有)としたい。

【妻の希望(1)質問に対する回答】

名義変更をする場合、税金の問題がありますので、次の方法で検討してみます。
贈与価格、固定資産税の評価価格を仮に同じ(実際には異なります)として、次の価格で計算します。
A(賃貸マンション):建物500万円、土地持分1,500万円、合計2,000万円
B(賃貸マンション):建物500万円、土地持分1,500万円、合計2,000万円

夫婦間贈与で名義変更を検討

夫婦間贈与で贈与税が非課税(贈与価格が2,110万円まで)となる条件は、次のとおりです。
① 婚姻生活が20年以上(戸籍謄本で証明)
② 居住用(夫婦が実際に住んでいる)不動産であること(賃貸用では適用がありません。)

婚姻生活が15年で、贈与する不動産が「賃貸用」であるため、贈与で名義変更ができません。

暦年贈与で名義変更を検討

夫の持分2分の1を妻に暦年贈与で名義変更する場合です。
A(賃貸マンション):2,000万円×1/2=1,000万円(贈与価格)
B(賃貸マンション):2,000万円×1/2=1,000万円(贈与価格)
合計:2,000万円を贈与することになります。

2,000万円の贈与の場合の贈与税は、
(2,000万円-110万円)×50%-250万円=695万円(贈与税)
贈与税が695万円となりますので、暦年贈与で名義変更することは現実的ではありません。

以上のことから、夫婦間贈与、暦年贈与、どちらでも夫から妻への名義変更ができないことになります。

相続時精算課税制度を利用した贈与で名義変更を検討

親から子(現在、18歳以上)へ相続時精算課税制度を利用した贈与を生前に行うことにより、名義変更する場合です。
条件は、次のとおりです。
① 親が60歳以上の場合です。(現在、夫婦二人が60歳未満ですので、60歳以上になれば可能です。)
② 賃貸用でも居住用でも、どちらでも可能です。
③ 贈与の価格が2,500万円以内であれば、贈与税がかかりません。この価格を超えますと、一律20%の贈与税がかかります。

例えば、仮に、
A(賃貸マンション):2,000万円を、(乙)(あるいは、乙・丙各2分の1):妻の子(夫の養女)に贈与する。
B(賃貸マンション):2,000万円を、(丙)(あるいは、乙・丙各2分の1):妻の子(夫の養女)に贈与する。

2,500万円以下であれば、親から乙・丙への贈与が可能です。贈与税がかかりません。

ただし、不動産取得税がかかります。
仮に、固定資産税の評価価格を次の価格とします。
A(賃貸マンション):建物500万円、土地持分1,500万円
B(賃貸マンション):建物500万円、土地持分1,500万円

不動産取得税の計算は、次のとおりです。
A(賃貸マンション):建物500万円、土地持分1,500万円
建物500万円×3%=150,000円(不動産取得税)
土地持分1,500万円×1/2=750万円
 750万円×3%=225,000円(不動産取得税)
合計:375,000円(不動産取得税)

B(賃貸マンション):建物500万円、土地持分1,500万円
合計:375,000円(不動産取得税)

贈与で名義変更する場合の登録免許税は、次のとおりです。
A(賃貸マンション):建物500万円、土地持分1,500万円=2,000万円
2,000万円×2%=400,000円(登録免許税)

B(賃貸マンション):建物500万円、土地持分1,500万円=2,000万円
2,000万円×2%=400,000円(登録免許税)

以上の計算から、
不動産取得税が、375,000円+375,000円=750,000円(不動産取得税)
登録免許税が、400,000円+400,000円=800,000円(登録免許税)

実費の税金が、合計:1,550,000円

相続時精算課税制度を利用した贈与でも、実費の税金が1,550,000円かかることになります。

結論として、現状では、税金を考えますと、生前贈与による名義変更はできないことになります。

【妻の希望(2)質問:錯誤などで所有権を抹消したい】

【質問】
A(賃貸マンション)は、令和2年に、子乙から正式に売買契約を締結し、売買代金も支払い、夫婦共有名義としました。
これを、前所有者の子乙名義に戻すことは、必要書類を用意できるので、簡単にできそうな気がします。錯誤などで子乙名義に戻すことは難しいでしょうか。

【妻の希望(2)質問に対する回答】

錯誤で所有権を抹消

錯誤で所有権を抹消しますと、前所有者の子乙に所有権が戻ります。
この場合の「錯誤」は、売買契約が誤りであったことが理由となります。
この理由を法務局に提出する「登記原因証明情報」に記載することになります。
例えば、「錯誤」の理由が、売買契約の当事者が誤りであったなどの理由です。
例えば、売買契約の当事者は正しく、売買代金を受け取っていた事実があれば、錯誤で所有権を抹消することができません。
次の合意解除との関係から、錯誤があったことを証明する必要があります。錯誤があったことを証明できない場合は、子乙に不動産取得税がかかります。

売買契約を合意解除で所有権を抹消

また、売買契約を合意で解除して所有権を抹消することもできます。
この場合、売買代金を受け取っていたのであれば、売買代金を返却することになります。
売買契約を合意で解除して所有権を抹消した場合、所有権を回復した子乙には、不動産取得税がかかります(判例)。
評価価格が2,000万円であれば、375,000円が不動産取得税です。

【妻の希望(3)質問:可能な限り妻の持分を増やしたい】

【質問】
B(賃貸マンション)について、夫持分2分の1、妻持分2分の1の割合を、可能な限り、妻にすることは可能でしょうか。例えば、夫1000分の1、妻1000分の999という持分割合というようにしたいのですが。

【妻の希望(3)質問に対する回答】

この場合、1000分の499を贈与することになります。
Bマンション全体の価格が2,000万円とした場合、
B(賃貸用):2,000万円×499/1000=9,980,000円(贈与価格)

9,980,000円の贈与の場合の贈与税は、
(9,980,000円-110万円)×40%-125万円=2,302,000円(贈与税)

贈与税は、2,302,000円です。

以上の方法(贈与、所有権抹消)では、名義変更ができませんので、次の遺言書作成を検討します。

遺言書の作成

将来的に、賃貸用のマンション2室を、確実に子乙・丙名義としたい場合、遺言書を作成しておくという方法もあります。

例えば、
A(賃貸マンション)を子乙としたい場合
遺言書の内容
夫がA(賃貸マンション)(持分2分の1)を子乙に相続させる。
妻がA(賃貸マンション)(持分2分の1)を子乙に相続させる。

B(賃貸マンション)を子丙としたい場合
遺言書の内容
夫がA(賃貸マンション)(持分2分の1)を子丙に相続させる。
妻がA(賃貸マンション)(持分2分の1)を子丙に相続させる。

A(賃貸マンション)・B(賃貸用マンション)を子乙・丙の共有(各2分の1)とすることも可能です。

遺言書を作成する場合、A(賃貸マンション)・B(賃貸マンション)についてのみを遺言することができます。その他の財産を遺言しなくても問題ありません。
この場合、遺言書に記載されていない財産は、相続人の遺産分割協議で決めることになります。

希望する遺言書の内容:賃貸用のマンション2室について「相続させる」の遺言書を作成。

賃貸マンション2室
A(賃貸マンション):子乙に遺したい。
  現在、夫持分2分の1,妻持分2分の1
B(賃貸マンション):子丙に遺したい。
  現在、夫持分2分の1,妻持分2分の1

A(賃貸マンション):子乙に遺したい。
遺言書の内容
夫がA(賃貸マンション)(持分2分の1)を子乙に相続させる。
妻がA(賃貸マンション)(持分2分の1)を子乙に相続させる。
B(賃貸マンション):子丙に遺したい。
遺言書の内容
夫がB(賃貸マンション)(持分2分の1)を子丙に相続させる。
妻がB(賃貸マンション)(持分2分の1)を子丙に相続させる。
 ↓
実際の遺言書作成
夫と妻、別々に遺言書を作成します。

(1)夫の遺言書
夫は、子乙にA(賃貸マンション)の持分2分の1を相続させる。
夫は、子丙にB(賃貸マンション)の持分2分の1を相続させる。

(2)妻の遺言書
妻は、子乙にA(賃貸マンション)の持分2分の1を相続させる。
妻は、子乙にB(賃貸マンション)の持分2分の1を相続させる。

遺言書を作成する方法

(1)(2)(3)のいずれかの遺言書作成方法があります。
お勧めは、(1)公正証書遺言書の作成です。
理由は、遺言書作成時に費用はかかりますが、相続開始時に速やかに手続きができます。
ほかの遺言書は、相続開始時に、別の手続きが必要となり、この手続を専門家に依頼する場合、費用がかかります。

(1)公正証書遺言書

公正証書遺言書を公証人役場で作成します。
公証人の費用は、夫:約6万円、妻:約6万円、合計:約12万円です。
遺言書に記載する内容が多ければ多いほど公証人の費用が高くなります。
(遺言書の原案作成を当事務所に依頼される場合、お一人につき33,000円。お二人で66,000円です。)
相続開始後、ほかの手続をすることなく、速やかに名義変更ができます。

(2)自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用)

自筆で遺言書(登記所の保管制度を利用)を作成します。登記所で遺言書を保管してもらいます。
登記所の費用は、夫:3,900円、妻:3,900円、合計:7,800円です。
(遺言書の原案作成を当事務所に依頼される場合、お一人につき33,000円。お二人で66,000円です。)
相続開始後、相続人が登記所で「遺言書情報証明書」を取得してから、名義変更をします。
「遺言書情報証明書」の取得は、手間がかかります。
(「遺言書情報証明書」の取得を司法書士に依頼する場合の報酬は、約6万円+約6万円=約12万円かかります。)

(3)自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用しない)

自筆で遺言書(登記所の保管制度を利用しない)を作成します。自分で遺言書を保管しておきます。
作成時に実費は、かかりません。
(遺言書の原案作成を当事務所に依頼される場合、お一人につき33,000円。お二人で66,000円です。)
相続開始後、家庭裁判所の検認手続をしてから、名義変更をします。
遺言書の検認手続は、手間がかかります。
(遺言書の検認手続を司法書士に依頼する場合の報酬は、約6万円+約6万円=約12万円かかります。)

公正証書遺言書(選択した場合)を作成する手順

公正証書遺言書は公証役場で作成しますので、最終的には夫婦が公証役場に出向く必要があります。

(夫婦)
次の書類を用意します。
① 夫・妻の戸籍謄本    1通
② 夫・妻の印鑑証明書  各1通
③ 子乙・丙の(結婚しいる場合)戸籍謄本 1通
④ 賃貸マンションAとBの「登記事項証明書」
⑤ 固定資産税納税通知書・課税明細書

(当司法書士事務所)
夫婦の遺言書原案を作成します。
内容を確認していただいた後、
公証役場に、遺言書原案と上記①から⑤をFAX送付します。

(公証役場)
遺言書基本形を作成します。
その後、
当司法書士事務所に、遺言書基本形と費用をFAX送付します。

(当事務所)
夫婦に、遺言書基本形と費用をメールします。

(夫婦)
公証役場に出向く「ご希望の日時」を当事務所に連絡していただきます。

(当事務所)
公証役場と「出向く日時」の調整をします。
(「出向く日時の確定」)

(夫婦)と(当司法書士事務所)
公証役場に出向きます。
夫婦が公証役場に出向きます。当司法書士も出向きます。
持参していただくものは、次のとおりです。
① 夫婦の実印
② 身分証明書(運転免許証など)現物

公証役場では、次のことを行います。
・証人は2名必要ですが、当司法書士が証人の1名となります。もう1名は、公証役場で用意してもらいます。
・公証人が夫婦に対して読み合わせをします。
・夫婦と証人が署名捺印します。
・公証人が遺言書の正本と謄本を作成します。手渡してくれます。
以上の所要時間は、1時間以内です。
・費用(公証役場・証人1名・当司法書士事務所)をお支払いいただきます。

まとめ:生前贈与ができないときの公正証書で遺言書作成(相続対策事例)

将来の相続対策として、今から準備するということは、後々の相続争いを回避して、相続手続をスムーズに行えるということで、とてもよいことです。
ただし、贈与やその他の方法で行うことは、税金の問題がありますので、税金の問題をクリアすることが必要となります。
税金の問題をクリアできないのであれば、遺言書を作成しておくことも検討した方がよいでしょう。遺言書の作成は、できれば、公正証書で作成した方が、相続開始後、スムーズに相続手続ができます。

相続登記や遺言書作成については、当司法書士事務所にご相談ください。

相続登記や遺言書作成について、当司法書士事務所にお気軽にお問い合わせください。
tel:045-222-8559 お問合わせ・ご相談・お見積り依頼フォーム

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