海外(アメリカ)在住日本人の相続登記・預貯金など相続手続の遺産分割協議書(換価分割)

海外(アメリカ)在住日本人の相続登記・預貯金など相続手続の遺産分割協議書(換価分割)

執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)

海外(アメリカ)在住日本人(日本国籍)の相続登記・預貯金など相続手続を換価分割で行う際の遺産分割協議書について解説します。

【相続登記相談事例】
(質問)日本に住んでいた被相続人父の遺産(不動産・預貯金など)について、現在、兄と協議しています。私(日本国籍)は、アメリカに在住しております。
父の遺産について、不動産は売却し、預貯金は解約払戻し手続をして、兄が60%、弟の私が40%の割合で相続するつもりです。
この場合、どういう相続手続の方法がよいのか教えてください。
また、海外在住日本人の場合、相続手続では、在留証明書やサイン拇印証明書が必要だと聞いています。在留証明書などは、日本の領事館まで行く必要があるようですが、私が住んでいる場所は、領事館まで非常に遠いため、飛行機で行かなければならなくなります。この場合、別の方法があれば教えてください。

在留証明書については、オンラインで申請・取得する方法もありますが、サイン拇印証明書は、領事館で取得する必要があります。
米国内の日本大使館・総領事館の管轄地域
在ロサンゼルス総領事館は、南カリフォルニアおよびアリゾナ州を管轄しています。

海外(アメリカ)在住日本人が相続登記・預貯金など相続手続(換価分割)をする方法

(事例)兄が60%、弟(海外在住日本人)が40%の割合で相続する方法(換価分割)には、次の二通りの方法があります。

1.遺産分割協議書(換価分割)を作成し、相続割合を記載します。
① 不動産を兄が60%、弟が40%の割合で相続取得する。
 → ただし、不動産を売却して、売買代金を相続割合で分配するという内容(換価分割)にします。
   不動産の相続名義人持分を兄:10分の6、弟10分の4として、二人名義で相続登記をします。
② 預貯金を兄が60%、弟が40%の割合で相続取得する。
 → 二人名義で解約払戻し手続をします。
メリット・デメリットは後述します。
2.遺産分割協議書(換価分割)を作成し、兄が単独で相続取得する。ただし、不動産を売却して、必要経費などを差し引いた残金の40%を、兄が弟に支払うという内容にします。
① 不動産を兄が相続取得する。
 → 不動産の相続名義人を兄単独名義として、相続登記をします。
   ただし、不動産を売却して、必要経費などを差し引いた残金の40%を、兄が弟に支払うという内容(換価分割)にします。
② 預貯金を兄が相続取得する。
 → 預貯金を兄単独名義で相続取得して、解約払戻し手続をします。
   ただし、解約払戻し金の40%を、兄が弟に支払うという内容にします。
メリット・デメリットは後述します。

遺産分割協議書(換価分割)を作成し、相続割合を記載する方法

遺産分割協議書(換価分割)を作成し、相続割合を記載する方法のメリット・デメリットは、次のとおりです。

メリット
不動産を兄弟二人名義で相続登記をすることになるので、自分(弟)の権利(共有持分10分の4)を確定登記できます。
預貯金を兄弟二人名義で相続取得することになるので、自分の預貯金の解約払戻し金40%を確定的に取得できます。
デメリット
不動産を売却する際、自分(弟)も売買契約書などの書類に署名捺印することが必要です。
あるいは、売買契約書などの書類に、直接、署名捺印しない場合、売買契約などに関する行為について、兄に委任することになります。この場合、兄に対する委任状を作成し、兄に渡す必要があります。売買代金全額の受取りについても、兄に委任することになります。
買主への名義変更(所有権移転登記)の際、登記をする司法書士から本人確認を求められます。本人確認の方法は、通常、面談で行われます。
結局、自分が、売買契約や買主への名義変更手続に関わることになるので、手間がかかることになります。
預貯金の相続手続(解約払戻し)についても、同様に、兄に対する委任状を作成し、兄に渡す必要があります。
解約払戻し金全額の受取りについても、兄に委任することになります。

事例では、最終的に、売買代金や預貯金の解約払戻し金を、兄から自分の口座に振り込んでもらう(海外送金)ことになります。
最終的には、これらの相続手続では、兄に対する信頼がなければ成立しないことになります。

遺産分割協議書(換価分割)を作成し、兄が単独で相続取得するが、弟に売買代金残金の40%を支払う方法

遺産分割協議書(換価分割)を作成し、兄が単独で相続取得するが、弟に売買代金残金の40%を支払う方法のメリット・デメリットは、次のとおりです。

メリット
不動産を兄単独名義で相続登記をすることになり、預貯金も兄単独で相続取得することになるので、相続登記や預貯金の払戻し手続を兄単独で行うことができます。
不動産を売却する際、自分(弟)は、売買契約書などの書類に署名捺印する必要がありません。したがって、売買契約などに関する行為について、兄に委任する必要もありません。
買主への名義変更(所有権移転登記)の際、登記をする司法書士から本人確認を求められられることもありません。
兄としては、売買契約に関する行為について、兄単独で行うことができ、兄としては、売買契約などがやりやすくなります。
預貯金の相続手続(解約払戻し)についても、同様に、兄に対する委任状を渡す必要もありません。
解約払戻し手続を兄単独で行うことができ、兄としては、解約払戻し手続がやりやすくなります。
デメリット
事例では、40%の分配金を、兄から自分の口座に振り込んでもらう(海外送金)ことになります。
最終的には、これらの相続手続では、兄に対する信頼がなければ成立しないことになります。

最終的に金銭で分配する場合

事例の場合、共通していることは、
1.遺産分割協議書を作成し、相続割合を記載する方法(換価分割のため不動産を売却)
2.遺産分割協議書を作成し、兄が単独で相続取得するが、弟に売買代金残金の40%を支払う方法(換価分割のため不動産を売却)
どちらの方法であっても、
事例では、40%の分配金を、兄から自分の口座に振り込んでもらう(海外送金)ことになります。
最終的には、これらの相続手続では、兄に対する信頼がなければ成立しないことになります。

以上のことから、兄弟二名の相続割合で相続登記をするのではなく、兄が単独で相続取得するが、弟に売買代金残金の40%を支払うという方法の方が、手続的にやりやすいと思われます。
ただし、前述のとおり、自分への送金を兄が確実に行うかどうか不安な場合、司法書士など専門家に依頼するということも一つの選択です。

換価分割の必要書類

事例で、遺産分割(換価分割)により、弟が売買代金残金の40%を受取る場合の必要書類について説明します。

海外(アメリカ)在住日本人の相続登記・預貯金など相続手続の必要書類:弟が用意する書類

  1. 弟の戸籍謄本(弟が相続人であること、日本国籍を有していることを証明)
  2. 遺産分割協議書:弟が兄とは別に単独で署名(拇印)することができる。
  3. 在留証明書(大使館または領事館で取得)
  4. サイン拇印証明書(大使館または領事館で取得)

弟は、アメリカ(海外)に住んでいるので、日本国内の日本人のように、印鑑証明書を取得できません。
海外の日本大使館・領事館では、印鑑登録の制度がないため、サイン拇印証明書を発行してもらうことができます。
この場合、本人が大使館・領事館に出向いて、大使館・領事館の担当者の面前で拇印することが必要です。
また、サイン拇印証明書には、「住所」が記載されませんので、別途、住所証明書として「在留証明書」を取得する必要があります。

遺産分割協議書、在留証明書、サイン拇印証明書について

遺産分割協議書、在留証明書、サイン拇印証明書は、次のいずれか(どちらか)の方法を選択することができます。

遺産分割協議書とサイン拇印証明書を綴じる方法

これは、本人が、遺産分割協議書を携えて大使館・領事館に出向き、大使館・領事館の担当者の面前で、遺産分割協議書に(住所の記入と)サインと拇印をし、「サイン拇印証明書」にもサインと拇印をし、担当者がこの二つを綴じで割印をしたものを手渡してくれます。

遺産分割協議書とサイン拇印証明書を分離する方法

これは、大使館・領事館で、サイン拇印証明書だけを発行してもらうものです。
遺産分割協議書には、(住所の記入と)サインと拇印をします。
この方法であっても、問題なく相続登記や預貯金などの相続手続ができます。

大使館・領事館に出向くことができないときは、公証人に遺産分割協議書を認証してもらう。

事例の場合、弟は、領事館に出向くために飛行機で行く必要があります。
このような事情の場合は、在留証明書とサイン拇印証明書の代わりに、アメリカ公証人に文書の認証をしてもらう方法があります。

事例の場合では、兄の遺産分割協議書と同じ内容の遺産分割協議書を、弟が公証人の面前で署名(サイン)するという方法です(押印・拇印は不要)。
これに、公証人の認証文を付けてもらいます(認証文の翻訳が必要)。

アメリカ公証人の認証文の翻訳(例)
この証明書は、〇年〇月〇日付けの「遺産分割協議書」という〇ページの文書に添付されています。
○○州公証人認証
(私署証書)
○○州
参照文書 遺産分割協議書
○○郡
〇年〇月〇日、上記郡の公証人である○○ ○○(公証人氏名)の前に、○○ ○○(本人)が、{署名者/証人}として自ら出頭し、彼/彼女(公証人)自身は、○○ ○○が上記参照文書の署名者または証人であることを十分に確認した。
(公証人のスタンプ刻印)
公証人署名
公証人職務の有効期限:〇年〇月〇日
○○ ○○(公証人氏名)
○○州公証人
公証人職務の有効期限:〇年〇月〇日
著作権c2018 NotaryAcknowlegement.com。無断複写・転載を禁じます。
・・・・・・・・・・・・・・・
以上、翻訳しました。
〇年〇月〇日
翻訳者(翻訳者に制限はない。だれでも翻訳ができる。)
(住所)○○○○
(氏名)○○ ○○ ㊞

アメリカでは、押印するということがないので、日本人の場合であっても、押印(拇印)は必要ありません。アメリカ人の場合は、サイン(署名)だけなので、日本人であっても、サイン(署名)だけすることになります。
公証人の認証文の形式は、州によって異なりますが、アメリカ公証人は、公証人の面前で、本人が、文書にサイン(署名)をしたことを認証するだけで、文書全体(例えば、遺産分割協議書)の内容を認証するものではありません。

遺産分割協議書を、例えば、遺産分割協議書の内容すべてを、公証人が英文で作成する宣誓供述書は、アメリカでは、州法により、これができない場合があります。
アメリカの多くの州の公証人は、遺産分割協議書に認証するという方法(文書の認証)を採用しています。
ただし、遺産分割協議書を日本語で作成した場合、遺産分割協議書の全文を英文で作成し、基本的には、日本語の遺産分割協議書とセットで公証人に提出します(事前に、公証人との打ち合わせが必要です)。
また、アメリカには、元日本人(日本語を理解できる)の公証人もいますので、元日本人の公証人に認証してもらう方がやりやすいかと思われます。この場合は、日本語のみの遺産分割協議書を公証人に提出することも可能です(事前に、公証人との打ち合わせが必要です)。

まとめ:海外(アメリカ)在住日本人の相続登記・預貯金など相続手続の遺産分割協議書(換価分割)

(答え)海外(アメリカ)在住日本人が、日本国内の相続登記・預貯金など相続手続に関わる場合、最終的に、金銭で分配金を受取るような場合は、相続割合で相続名義人(共有)とするのではなく、相続人一名名義として、不動産を売却、分配金を支払うという換価分割で行う方がやりやすいといえます。
ただし、この場合、分配金の受取りを確実に行えるような方策を検討した方がよいでしょう。
また、海外在住日本人が、大使館・領事館に出向くことが難しいような場合、地元のアメリカ公証人に文書の認証をしてもらうという選択も可能です。(2023年 東京法務局 立川出張所で登記完了、2025年 東京法務局杉並出張所で登記完了)

相続登記や預貯金の相続手続、遺言書の作成については、当司法書士事務所にご相談ください。

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相続登記相談風景(イメージ)
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