遺贈の放棄

遺贈(いぞう)の放棄

遺言者が、推定相続人以外の人に不動産を遺贈する、という遺言書を作成しており、遺言者が亡くなった後、受遺者(遺贈を受ける人)がこの不動産をいらない、という場合、どのような手続が必要でしょうか。

遺贈とは(相続との違い)

「遺贈(いぞう)」とは、遺言で「推定相続人(すいていそうぞくにん)以外の人」に、例えば、不動産を「あげる」という場合に、この言葉、「遺贈する」を使います。「遺言で贈与する」ので略して「遺贈」といいます。法定相続人に遺産を引き継がせる場合は「相続させる。」といいます。

推定相続人とは、将来、相続が開始した時、法定相続人となる人のことをいいます。将来、相続が開始したとき、法定相続人となるであろうと推定される相続人という意味です。
例えば、父の推定相続人は、配偶者と子です。
遺言で、不動産を父の兄弟姉妹の子(甥姪)に「あげたい」「渡したい」という場合、この甥姪は、遺言書を作成する段階では、親族関係ではあっても推定相続人ではないので、「推定相続人以外の人」ということになります。
この場合、遺言書には「遺言者は、不動産を甥に遺贈する。」と記載します。
また、遺言書を作成する段階では、不動産を譲り受ける人が推定相続人ではないが、推定相続人となる可能性がある場合は、「遺言者は、不動産を○○に遺贈し、または相続させる。」と記載します。

遺言書を作成する場合、次のように、推定相続人に遺産を引き継がせる場合と、推定相続人以外の人にに遺産を「あげる」「渡す」場合とで区別して次のように記載します。

  • 推定相続人に遺産を引き継がせる場合:「誰々に相続させる。
    不動産の名義変更では、登記の原因として「〇年〇月〇日相続」と記載します。
    これが、遺言で「遺贈する」と記載されている場合、登記の原因は「〇年〇月〇日遺贈」と記載します。
    このように、相続開始後、遺言に基づいて不動産の名義変更を行う場合、名義を法定相続人とする場合であっても、「相続」と記載する場合もあれば「遺贈」と記載する場合もあります。ただし、「遺贈」と記載することは実例ではごく稀です。
    たとえ、法定相続人名義に登記する場合であっても、登記の原因が「相続」と「遺贈」では登記申請の方法や必要書類が異なります。また、登記申請をする際の登録免許税も異なります。
    (1)登記の原因が「相続」の場合
       申請人:相続人の単独申請
       登録免許税:税率は0・4%
    (2)登記の原因が「遺贈」の場合
       申請人:相続人と遺言執行者(または法定相続人全員)の共同申請
       登録免許税:税率は0・4%
  • 推定相続人以外の人に「あげる」「渡す」場合:「誰々に遺贈する。
    不動産の名義変更では、登記の原因として「〇年〇月〇日遺贈」と記載します。
    もし、遺言書に推定相続人以外の人に「相続させる。」と誤って記載されている場合、登記の原因を「〇年〇月〇日相続」と記載しません。なぜなら、遺言書に記載された「推定相続人以外の人」は「法定相続人」ではないので、「相続」と記載することができません。「相続」と記載できるのは、法定相続人の場合に限られるからです。
    登記の申請人と登録免許税は、次のとおりです。
    申請人:相続人と遺言執行者(または法定相続人全員)の共同申請
    登録免許税:税率は2%

遺贈を受けたくない場合(遺贈の放棄をするには:方法)

遺言書で、あなたに遺贈する、と記載されている場合、このあなた(受遺者、遺贈を受ける人)は、ほとんどの場合、遺贈を受けます、もらいます、というのが普通です。

ところが、受遺者に特殊な事情があって、遺贈を受けない、いらない、と受遺者が言う場合、この不動産は、法定相続人が相続することになります。

民法には、次の規定があります。

民法(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
第九百九十五条 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

民法 | e-Gov法令検索

受遺者が、遺贈を受けない、いらない、と言う場合、遺贈を受ける権利を法定相続人に対して放棄してもらうことになります。これが遺贈の放棄です。

受遺者が遺贈を受ける権利を放棄する場合、厳密に考えますと、法定相続人に対して、遺贈放棄証書を作成し、法定相続人に渡すことになります。
通常、受遺者が自ら進んで遺贈放棄証書を作成することはありませんので、法定相続人としては、後々の証拠として、遺贈放棄証書を作成し、受遺者に、署名、実印(印鑑証明書付)の押印をもらうのがよいでしょう。これが後々、間違いのない方法です。ここまで厳密にすることはない場合もありますが。
遺贈の放棄は、家庭裁判所の手続ではありませんので、このような方法をとります。

受遺者が遺贈の放棄をした場合、法定相続人としては、遺産が不動産の場合、通常の相続登記(法定相続分または遺産分割協議)をすることになります。

相続放棄(相続しない)の場合は

前述のように遺贈の放棄の場合は、法定相続人の人に「遺贈を放棄します。」と言えばそれで終わりですが、「相続放棄」、すなわち、法定相続人が「相続したくない」という場合は、これと異なり、次のどちらか二通りの方法となります。

  1. 相続開始から(原則)3か月以内であれば、家庭裁判所の相続放棄の手続(申立)で「相続しない」とすることができます。この場合、放棄した人は、はじめから相続人とならなかったことになります。
    遺産分割協議は、この人を除いて行うことになります。放棄した人は、「相続放棄申述受理通知書」をほかの相続人に渡します。(放棄した人を除く法定相続人のことを「共同相続人」といいます。)
  2. 相続開始から3か月以内かどうかにかかわらず、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)で、「相続しない」とすることができます。この場合、「相続しない」相続人は、遺産分割協議書に署名・実印を押印して、印鑑証明書をほかの相続人に渡します。

法定相続人の場合の「相続放棄」という言い方は、厳密には、家庭裁判所の手続で「相続放棄」を行う場合に使います。
相続人同士での話し合い(遺産分割協議)では、「私は相続放棄します。」ということは、厳密には言えません。単に「相続しません。」という言い方になります。これは、遺産の中に、仮に、「債務」がある場合、相続したくない相続人が「相続したくない」からといって、この「債務」を一方的に免れることができないからです。この「債務」を免れるには「債権者の同意」が必要だからです。

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