相続登記と買戻期間10年経過しているときの買戻特約抹消登記(単独申請)の方法
【相続登記事例】 相続登記をする際に登記記録(登記簿)に、次のように「買戻特約」が登記されていることがあります。この買戻特約を抹消するには、どのような方法で登記すればよいでしょうか。
買戻特約とは
買戻特約って何のことですか?
不動産の売買契約と同時に買戻しの特約をすることにより、売主が買主に対して、買戻し期間内に売買代金などを返還して、売買契約を解除することで、売主が不動産を買戻すことができることをいいます。
特に、地方公共団体などが、一般の方に土地を売る場合、一般の方が転売(投資)目的ではなく自己使用目的として土地売る場合があります。この転売(投資)目的を防ぐ意味で、地方公共団体などが買戻特約をすることがあります。
民法
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(買戻しの特約)
第579条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては、その合意により定めた金額。第五百八十三条第一項において同じ。)及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
(買戻しの期間)
第580条 買戻しの期間は、十年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、十年とする。
2 買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。
3 買戻しについて期間を定めなかったときは、五年以内に買戻しをしなければならない。
相続登記をしようとするときは登記記録(登記簿)を確認
まず、相続登記をする際は、登記記録(登記簿)で登記の内容を確認します。
司法書士は、不動産登記の専門家であるので、相続登記の依頼を受けた際、当たり前のように登記記録(登記簿)の内容を確認します。
ところが、ご自分で相続登記をしようとされる方は、現在の登記記録(登記簿)を確認されない方がいるようです。
一般の方が相続登記をしようとする場合、まず、相続登記に必要な書類が何か、遺産分割協議書をどのように作成するのか、相続登記の登記申請書をどのように作成するかなどを調べることから始めるのが一般的なようです。
もちろん、これらは重要なことですが、これらと同時に、相続登記する不動産の現在の内容がどうなっているのかを確認することも非常に重要なことです。
そこで、登記記録(登記簿)を確認することによって、被相続人名義の所有権の登記事項のほかに、買戻特約が登記されている場合には、次のことを考える必要があります。
買戻期間が経過しているかどうかを確認
登記されている買戻特約を抹消登記することができるのか、抹消登記することができるとして、どういう方法で抹消登記したらよいのか、どういうタイミングで抹消登記をするのかを検討します。
前述のように、買戻期間が経過している場合、買戻特約は、期間の経過により「買い戻す」という効力を失っていますので、これを抹消登記する必要があります。
買戻期間が経過している買戻特約を抹消する必要性
買戻期間が経過している買戻特約を抹消登記しない場合、現在、効力のない買戻特約が、(半)永久的に登記記録(登記簿)に記載されたままとなってします。
登記されている買戻特約が、すでに効力のないものであっても、不動産を売却したり、金融機関から借入れのための抵当権を設定するなど、第三者との関係では、これを抹消登記しないと、売却や抵当権を設定することは、基本的にできません。
不動産を売却したり、金融機関から借入れのための抵当権を設定する場合、効力のない買戻特約が登記されている場合は、売却したり、抵当権を設定する前に、これを抹消登記する必要があります。
買戻期間が経過している買戻特約を抹消登記する方法
買戻期間が経過している買戻特約を抹消登記できる人は、誰?
不動産登記法(買戻しの特約に関する登記の抹消)
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第69条の2 買戻しの特約に関する登記がされている場合において、契約の日から十年を経過したときは、第60条の規定にかかわらず、登記権利者は、単独で当該登記の抹消を申請することができる。
令和5年4月1日以降、登記申請するとき、契約から10年が経過して登記されている買戻特約については、不動産の所有者が、買戻権者との共同申請(不動産登記法第60条)ではなく、所有者が単独で登記申請できます。(不動産登記法第69条の2)
令和5年3月31日までは、契約から10年が経過している場合であっても、不動産の所有者が、買戻権者の協力を得て、買戻権者から買戻特約の抹消登記に必要な書類をもらって、所有者と買戻権者との共同申請で行っていました。これが、令和5年4月1日以降は、契約から10年が経過している場合には、買戻権者の必要書類を得ることなく、所有者が単独で申請することができるようになりました。
以上のことから買戻特約を抹消登記する場合、次のことがいえます。
- 登記されている買戻期間が10年未満で、契約のときから10年を経過していない場合
不動産の所有者が、買戻権者の協力を得て、買戻権者から買戻特約の抹消登記に必要な書類をもらって、所有者と買戻権者との共同申請で買戻特約を抹消登記します。
例えば、登記されている買戻期間が5年で、契約のときから7年経過している場合は、所有者と買戻権者との共同申請で買戻特約を抹消登記します。 - 登記されている買戻期間が10年(未満を含む)で、契約のときから10年を経過している場合
買戻権者の必要書類を得ることなく、所有者が単独で申請することができます。
事例の場合の買戻特約抹消登記の方法
事例では、買戻特約の契約日が昭和62年10月1日で、(買戻)期間が「昭和72年(平成8年)10月1日まで」と登記されていますので(買戻期間が10年)、契約の時から10年を経過しています。したがいまして、事例の場合では、所有者が単独で買戻特約の抹消登記を申請することができます。
実際には、事例では、所有者はすでに死亡していますので、相続登記をすることで相続人などに名義を変更して(これと同時に)、買戻特約を抹消登記することになります。
「買戻期間10年経過しているときの」買戻特約の抹消登記申請書
登記申請書(一部省略)
登記の目的 1番付記1号買戻権抹消
原 因 不動産登記法第69条の2の規定による抹消(原因日付記載不要)
権利者(申請人)(住所)〇〇
(氏名)B○○
義務者 (住所)〇〇
(氏名)○○(事例の場合は神奈川県)
添付情報 (記載不要)
登録免許税 1,000円(不動産1個につき1,000円)
買戻特約の登記抹消登記後の登記記録(登記簿)
(以上、2023年千葉地方法務局市川支局で登記完了)
まとめ:買戻特約が登記されているときは、相続登記と一緒に抹消登記
事例のように、相続登記をしようとする登記記録(登記簿)に、買戻特約が登記されているときは、買戻期間が経過していることがありますので、この場合は、相続登記と一緒に買戻特約も抹消登記をするようにします。特に、買戻特約契約から10年を経過しているときは、所有者が単独で申請できますので、効力のない登記が登記上に残らないようにします。
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