遺産分割協議書による換価分割の具体的な方法:不動産売却にかかる経費
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
【相続登記相談】
被相続人母の遺産相続で、私長女と弟長男で、遺産分割協議書を作成し、不動産の相続登記と預貯金の相続手続をします。
不動産を私名義として、相続登記完了後、不動産(相続人2名は居住していない)を売却して、売却代金からその50%を弟に支払うこととします。
この場合、遺産分割協議書には、次のように記載するつもりです。
相続人長女○○は、不動産を相続取得する。
ただし、不動産を長女○○が売却し、売却代金から次の経費等を差し引いた金額の50%を長女○○が長男○○に対して支払う。
売却に係る経費等
(1)司法書士に支払う相続登記費用(報酬・実費)
(2)売買契約締結・決済に係る諸経費(売買契約書に貼付する収入印紙税、仲介業者への仲介手数料、 交通費など)
(3)境界確定作業がある場合の測量費、境界確定料、登記費用など
(4)上記の他、不動産売却に伴う必要な一切の経費
ところが、税理士から売却代金から差引く経費については、「不動産売却にかかる経費」と記載すればよい、具体的な内容を書く必要はない、と言われています。
この場合、税理士が言うように、「不動産売却にかかる経費」というように包括的に記載した方がよいのか、私が考えているように、「経費」を具体的に列挙した方がよいのかを教えてください。
換価分割と代償分割の違い
代償分割
代償分割で遺産分割協議書を作成する場合の例
遺産分割協議書(一部省略)
相続人Aは、不動産を相続取得する。
相続人Aは、相続人Bに対し、代償金として金○○万円を支払う。
このように、代償分割は、相続人Aが不動産を相続取得する代わりに、他の相続人Bに対し、代償金を支払うことをいいます。ここでいう代償金は、金○○万円というように、遺産分割協議の段階で、その金額が確定している場合のことをいいます。
代償分割で取得した相続人が、相続登記をした後、相続不動産を売却するかどうかは、代償分割で取得した相続人の自由となります。
換価分割
換価分割で遺産分割協議書を作成する場合の例
遺産分割協議書(一部省略)
相続人Aは、不動産を相続取得する。
相続人Aは、不動産を売却し、相続人Bに対し、売却代金の○%を支払う。
換価分割は、相続不動産を売却して、これを金銭に換え、相続人間で分配することをいいます。逆にいえば、相続人間で、金銭として分配する目的で、相続不動産を売却することを前提としています。
不動産を相続取得する名義人を、相続人全員の場合もあれば、その一部の人を名義人とする場合があります。
相続人の一部の人名義とする場合は、不動産売却における売買契約締結など、不動産売却の一連の手続を簡素に行う目的で行われます。このため、相続人の一部の人名義とすることは、便宜的に行われます。
このように、相続人の一部の人名義とする換価分割は、遺産分割協議の段階で、相続不動産の売却代金が確定していない(いくらで売れるのかが分からない)ことから、他の相続人に対して支払う金額も確定することができないため、遺産分割協議書には、売却代金の○%を支払う、という記載方法となります。
換価分割の場合、相続名義人に相続登記をした後、不動産を売却することになります。
不動産の相続登記を換価分割で行う方法
不動産の相続登記を換価分割で行う場合、次の方法があります。
- 相続人の共有名義で相続登記し、名義人全員が売主となり、不動産を売却した後、共有持分の割合で、売却代金を受取る方法
- 相続人の一人を名義人として(便宜的)相続登記し、名義人となった相続人が売主となり、不動産を売却した後、売却代金から遺産分割協議書で決めた割合の金額を、他の相続人に支払う方法
(1)相続人の共有名義で相続登記し、名義人全員が売主となり、不動産を売却した後、共有持分の割合で、売却代金を受取る方法
この場合、「不動産売却にかかる経費」については、共有持分の割合で負担します(精算する)。
この場合の手順は、次のとおりです。
- 名義人となった相続人全員で、「不動産売却にかかる経費」を相続割合で負担する(一部は、最終売買代金受領時に支払う)。
- 名義人となった相続人全員が「売却代金」を、相続割合で受取る。
(2)相続人の一人を名義人として(便宜的)相続登記し、名義人となった相続人が売主となり、不動産を売却した後、売却代金から遺産分割協議書で決めた割合の金額を、他の相続人に支払う方法
この場合の税金上の問題は、次のページを参考にしてください。
換価分割:相続人の一名を相続名義人として登記
遺産の換価分割のための相続登記と贈与税(は、かからない。)
「不動産売却にかかる経費」の精算方法
相続人の一人を名義人として(便宜的)相続登記した場合、名義人となった相続人が売主となります。この場合、売却代金から「不動産売却にかかる経費」を差し引いた金額を基に、他の相続人が受け取るべき割合に相当する金額を支払うのが一般的です。
なぜなら、「不動産売却にかかる経費」には、次の経費などがかかるからです。
- 司法書士に支払う相続登記費用(報酬・実費)
- 売買契約締結・決済に係る諸経費(売買契約書に貼付する収入印紙税、仲介業者への仲介手数料、交通費など)
- 境界確定作業がある場合の測量費、境界確定料、登記費用など
例えば、これらの「不動産売却にかかる経費」を差し引かないで、売却代金から遺産分割協議書で決めた割合の金額を、他の相続人に支払う場合、次の作業が必要となるからです。
- 名義人となった相続人が「不動産売却にかかる経費」を立替える(一部は、最終売買代金受領時に支払う)。
- 名義人となった相続人が「売却代金」を受取る。
- 名義人となった相続人が、他の相続人に対し、遺産分割協議書で決めた割合の金額を支払う。
- 他の相続人が、名義人となった相続人に対し、「不動産売却にかかる経費」を遺産分割協議書で決めた割合で支払う。
このような方法では、作業が多くなるので、一般的には、次の方法で精算します。
- 名義人となった相続人が「不動産売却にかかる経費」を立替える(一部は、最終売買代金受領時に支払う)。
- 名義人となった相続人が「売却代金」を受取る。
- 名義人となった相続人が、他の相続人に対し、売却代金から「不動産売却にかかる経費」を差し引いた金額を基に、遺産分割協議書で決めた割合の金額で支払う。
相続名義人とならなかった相続人の譲渡所得税の申告
売却により不動産の譲渡所得税の申告が必要な場合、名義人とならなかった相続人が申告をするときは、名義人となった相続人が立替えた「不動産売却にかかる経費」の計算書・領収書に基づき、遺産分割協議書(申告書に添付)で決めた割合の経費を算出して、申告をすることになります。(東京国税局電話相談室に確認済み)
遺産分割協議書に記載すべき「不動産売却にかかる経費」とは
遺産分割協議書に記載すべき「不動産売却にかかる経費」とは、具体的にどのような経費のことをいいますか。
相続登記した不動産を売却をする場合、通常、次の費用がかかります。
- 司法書士に支払う相続登記費用(報酬・実費)
- 売買契約締結・決済に係る諸経費(売買契約書に貼付する収入印紙税、仲介業者への仲介手数料、交通費など)
- 境界確定作業がある場合の測量費、境界確定料、登記費用など
相続登記した不動産を売却をする場合、相続登記をする前段階では、これらの経費の具体的な金額が判明しませんが、これらの経費が相当な金額となることが予想されます。
次の(1)(2)(3)の「不動産売却にかかる経費」を合せると、場合によっては、約200万円ほど不動産(仮に3,000万円の場合)売却の経費がかかることになります。
(1)司法書士に支払う相続登記費用(報酬・実費)
不動産の相続登記では、相続登記費用として、登録免許税・証明書などの実費と、司法書士に支払う報酬がかかります。
不動産の評価価格が1,000万円であれば、登録免許税・証明書など実費が約5万円、司法書士報酬が約7万円として、約12万円はかかることになります。
(2)売買契約締結・決済に係る諸経費(売買契約書に貼付する収入印紙税、仲介業者への仲介手数料、交通費など)
不動産を売却する場合、これらの経費がかかります。
売買契約締結・決済に係る諸経費のうち、不動産の売買代金を仮に、3,000万円とした場合
① 売買契約書に貼付する収入印紙税:1万円
② 仲介業者への仲介手数料:(3,000万円×3%+6万円)×10%=1,056,000円
③ 交通費:契約時、最終代金決済時
合計:約110万円
(3)境界確定作業がある場合の測量費、境界確定料、登記費用など
一戸建てや土地のみの売買の場合、敷地の測量や境界画定をする場合があります。場合によっては、土地の地積更正登記が必要な場合もあります。
これらの作業や登記は、通常、土地家屋調査士が代行します。
① 敷地の測量:数十万円(土地の面積などにより異なります。)
② 境界画定:数十万円(土地の面積、隣接所有者の人数などにより異なります。)
③ 土地の地積更正登記:何万円
合計:約何十万円
遺産分割協議書に記載すべき「不動産売却にかかる経費」の内容:包括的または具体的
遺産分割協議書に記載すべき経費の内容として、次のどちらがよいでしょうか。
- 「不動産売却にかかる経費」というように包括的に記載した方がよいのか
- 「不動産売却にかかる経費」を具体的に列挙した方がよいのか
前述のように、「不動産売却にかかる経費」は、その項目が一つや二つではなく、かつ、経費の金額も高いことから、一般の人にとっては、経費の内容や金額が分かりずらいと思われます。
不動産の売却が終わり、名義人とならなかった相続人から経費について、クレームがないとも限りません。
このことから、次のように、「不動産売却にかかる経費」を具体的に列挙した方がよいと思われます。
売却に係る経費等
(1)司法書士に支払う相続登記費用(報酬・実費)
(2)売買契約締結・決済に係る諸経費(売買契約書に貼付する収入印紙税、仲介業者への仲介手数料、交通費など)
(3)境界確定作業がある場合の測量費、境界確定料、登記費用など
(4)上記の他、不動産売却に伴う必要な一切の経費
まとめ:遺産分割協議書による換価分割の具体的な方法:不動産売却にかかる経費
相続した不動産を売却した後、相続人で売却代金を分配する換価分割の場合、遺産分割協議書に記載すべき「不動産売却にかかる経費」は、これを具体的に列挙する方法がよいと思われます。
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