相続の換価分割による不動産競売申立方法:相続分の一部譲渡があるとき
執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)
【実例】
被相続人:父
相続人(子)3名:A・B・C
相続分一部譲受人:D(Aが相続分の一部を譲渡)

登記記録(登記簿)の内容:登記上は、被相続人父名義のままである。

遺産分割調停・審判:○○家庭裁判所
抗告審:○○高等裁判所
遺産分割審判に対する抗告決定(○○高等裁判所で確定)の内容
被相続人の遺産を次のとおり分割する。
原審判別紙遺産目録記載の不動産の競売を命じ、その売却代金から競売費用を控除した残額を、申立人Dに6分の1、相手方A○○に6分の1、相手方B○○に3分の1、相手方C○○に3分の1の割合で分割する。
家事事件手続法(遺産の換価を命ずる裁判)
家事事件手続法 | e-Gov法令検索
第十三節 遺産の分割に関する審判事件
第百九十四条 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があると認めるときは、相続人に対し、遺産の全部又は一部を競売して換価することを命ずることができる。
2 家庭裁判所は、遺産の分割の審判をするため必要があり、かつ、相当と認めるときは、相続人の意見を聴き、相続人に対し、遺産の全部又は一部について任意に売却して換価することを命ずることができる。ただし、共同相続人中に競売によるべき旨の意思を表示した者があるときは、この限りでない。
3 前二項の規定による裁判(以下この条において「換価を命ずる裁判」という。)が確定した後に、その換価を命ずる裁判の理由の消滅その他の事情の変更があるときは、家庭裁判所は、相続人の申立てにより又は職権で、これを取り消すことができる。
4 換価を命ずる裁判は、第八十一条第一項において準用する第七十四条第一項に規定する者のほか、遺産の分割の審判事件の当事者に告知しなければならない。
5 相続人は、換価を命ずる裁判に対し、即時抗告をすることができる。
6 家庭裁判所は、換価を命ずる裁判をする場合において、第二百条第一項の財産の管理者が選任されていないときは、これを選任しなければならない。
7 家庭裁判所は、換価を命ずる裁判により換価を命じられた相続人に対し、遺産の中から、相当な報酬を与えることができる。
8 第百二十五条の規定及び民法第二十七条から第二十九条まで(同法第二十七条第二項を除く。)の規定は、第六項の規定により選任した財産の管理者について準用する。この場合において、第百二十五条第三項中「成年被後見人の財産」とあるのは、「遺産」と読み替えるものとする。
不動産競売申立方法
事例では、遺産について、換価を命ずる抗告決定(確定)があったので、不動産競売申立(形式的競売)を行うことになります。
参照:不動産競売事件(担保不動産競売,強制競売,形式的競売)の申立てについて(東京地方裁判所)
申立人となる人
○○高等裁判所の「抗告決定」では、換価の実行を命じられた相続人がいないので、決定書に記載さてれた当事者(相続分一部譲受人Dを含む)(申立人・相手方)であれば、誰でも申立人となることができます。
そこで、相続人Aから相続分一部譲渡を受けたDが、競売申立をする場合について解説します。
相続登記の申請
遺産分割調停・審判・抗告決定時において、登記記録上、被相続人名義のままで、相続人名義の登記がなされていなので、不動産競売申立てをする前に、相続登記をする必要があります。
この相続登記は、相続人の一人からする法定相続分(法定相続人A・B・C全員の持分)で登記をします。
事例の場合、相続分一部譲渡をした相続人Aが単独申請人となります。
この登記の方法は、共同相続人1人からの相続登記の方法(法定相続分で遺言書で)を参考にしてください。
相続登記の登記記録(登記簿)

当事者:不動産競売申立
申立人:相続人Aから相続分一部譲渡を受けたD
相手方:A・B・C
申立てる裁判所:不動産競売申立
不動産を管轄する地方裁判所
必要書類:不動産競売申立
用意する書類
- 遺産分割審判書謄本(○○家庭裁判所):○○家庭裁判所で「謄本」を取得できる。
→ 遺産分割抗告決定書に遺産目録が添付されていない場合に、遺産分割審判書謄本を添付する。 - 遺産分割抗告決定書謄本(抗告事件、○○高等裁判所):○○家庭裁判所で「謄本」を取得できる。
- 確定証明書(○○家庭裁判所):○○家庭裁判所で取得する。
以上の書類の原本還付をする。(原本とコピーを提出。返信用封筒を提出) - 登記事項証明書(不動産):有効期限1カ月
- 公課証明書
- 評価証明書
- 当事者全員(申立人・相手方)の住民票:有効期限1カ月
現況調査等に必要な書類(申立時に提出)
以下の書類の部数は、地方裁判所により異なる。
- 登記事項証明書(不動産):コピー2部
- 公課証明書:コピー2部
- 評価証明書:コピー2部
- 公図:有効期限1カ月:コピー2部
- 建物図面:有効期限1カ月:コピー2部
- 地積測量図:有効期限1カ月:コピー2部
→ 地積測量図がないときは、「上申書」を提出する。 - 住宅地図(案内図):コピー2部
- 住民票:コピー2部
- 不動産競売の進行に関する照会書:3部
- 建物間取り図2部
- 返信用封筒:申立人宛て(保管金提出書等送付用)
- 分配目録(分配割合):1部
裁判所に提出する切手:不要
- 申立て手数料:4,000円(収入印紙)
- 登録免許税(差押登記):評価価格の0・4%
予納金(80万円~:不動産の評価価格により異なる)
予納金の額は、地方裁判所により異なる。競売申立後に裁判所から申立人宛てに連絡の後、申立人が納める。
不動産競売申立書の作成
P1:不動産競売申立書
P2:当事者目録
P3:物件目録
P4:分配目録(分配割合)
差押の登記
地方裁判所が不動産を管轄する登記所に対して、「競売開始決定」による差押の登記を嘱託して、登記所が差押の登記をします。
差押の登記

その後は、通常の競売手続と同じ方法で、
裁判所が入札期間内に買受希望者に価格を入札させ、売却決定期日に売却許可決定を行い、買受人が決定し、買受代金を納付します。
その後、地方裁判所が分配表を作成し、各相続人と相続分譲受人Dが分配金を受けることになります。
(以上、2025年 東京地方裁判所、さいたま地方裁判所に不動産競売申立)
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