「生前贈与を受けた相続人」から「法定相続分に相当する金銭」の請求があった場合の対応(文書送付)

「生前贈与を受けた相続人」から「法定相続分に相当する金銭」の請求があった場合の対応(文書送付)

「被相続人から生前贈与を受けた法定相続人A」がいる場合、この法定相続人Aから「法定相続分に相当する金銭」の請求があった場合、ほかの法定相続人は、どのように対応したらよいでしょうか。
相続人を子4名(A・B・C・D)とします。

このような場合、電話で、被相続人の生前、あなた(生前贈与を受けていた相続人A)には、これこれの事実(生前贈与を受けていた)があったので、あなたにお支払いすることはできません、と説明したいところですが、電話では、説明するのに時間がかかることと要領よく説明できない場合がありますので、次のような文書を作成し、郵送して回答した方がよいでしょう。

回答事例
被相続人横浜関内(昭和元年1月1日生、平成20年1月1日亡)の上記相続人ら(Aを除く相続人:B・C・D)は、被相続人横浜関内についての遺産分割について、後記同人の遺産の内容及び過去の事実に基づき、後記内容のとおり遺産分割することを希望します。また、被相続人横浜関内の上記相続人らは、後記過去の事実があったことを認めるものであります。

1.被相続人・横浜関内の遺産の内容
 1)預貯金 金○円
 2)不動産(現在、相続人のCとDが居住している。)
   ①土地 路線価  金○円
   ②建物 評価価格 金○円
 3)生前贈与 金○円(相続人Aが被相続人の生前、贈与を受けている。)
 以上遺産の合計額 金○円

2.被相続人横浜関内・相続人Bと相続人Aとの間にあった過去の事実
 1)被相続人横浜関内から相続人Aに対する生前贈与(金〇万円)
 2)相続人Bから相続人Aに対する贈与(金〇万円)
 3)相続人Bから相続人Aに対する貸付(金〇万円)

3.上記相続人らが希望する遺産分割の内容
以上1、2の遺産の内容及び過去の事実に基づき、相続人Aが受け取るべき相続分の計算は次のとおりです。
 相続分の計算 マイナス○万円

4.遺産分割の内容
1)預貯金 金○円:相続人Bが取得する。
 2)不動産
   ①土地 路線価格 金○円:相続人CとDが各2分の1を取得する。
   ②建物 評価価格 金○円 :相続人CとDが各2分の1を取得する。

(参考)民法第903条  
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

上記の計算の結果により、相続人であるAが受け取るべき相続分は、誠に残念ながらございませんので、法定相続分に見合う金銭のお支払いをすることができません。
ただし、相続人Aの諸事情を考慮させていただき、金○万円を相続人Bらは、お支払いする用意がございます。
もし、この内容でご承知いただけましたら、すでにお渡し済みの「遺産分割協議書」に署名、実印の押印をしていただき、印鑑証明書1通を揃えてお送り下さいますようお願い申し上げます。書類の受領後速やかに、金○万円をご指定の銀行口座にお振込みいたします。
以上、ご検討賜りますようお願い申し上げます。

生前贈与を受けた相続人が相続できる相続分

上記の事例で、相続人のAは、被相続人の生前、生計の資本として贈与を受けていました。これを特別受益といい、Aを特別受益者といいます。この特別受益者の相続分(←詳しくはこちら)は、相続時において、生前贈与金額を相続時の遺産金額に持ち戻して(プラスして)計算します。
特別受益者は、「遺産総額から計算した法定相続分」から特別受益分を差しいた金額を受け取ることになります、相続できることになります。

上記の事例では、生前贈与の特別受益分に「相続人Bから相続人Aに対する贈与及び貸付」を加味した遺産分割の内容とし、「したがって、相続人Aは相続する金銭がありません。もし、これを要求するなら、BがAに貸し付けた金銭を返してください。」という意味合いの文書となっています。

例えば、特別受益者の相続分は、次のように計算します。
相続人A(特別受益者)が生前贈与で1,000万円受けていたときは、これを持ち戻して(プラスして)、 相続時の財産が3,000万円の場合、相続財産の総額は、4,000万円。(相続人は、子4名)
Aの相続財産の金額は、その4分の1で1,000万円。
3,000万円(相続開始時の相続財産)+1,000万円(Aの生前贈与の価額)=4,000万円(相続財産の総額)
4,000万円(相続財産の総額)×1/4=1,000万円(相続人一人当たりの相続額)

Aは1,000万円の生前贈与を受けているので、1,000万円マイナス1,000万円で、0円となります。
A(特別受益者)の相続額:1,000万円-1,000万円(Aの生前贈与の価額)=0円

事例で、相続人Aからどういう書類をもらえばよいのか

事例では、相続人Aが生前贈与を受けていたとはいえ、相続分が0とはならないため、特別受益証明書という書面では、後々、問題が生じる可能性がありますので、遺産分割協議書でAに署名・実印を押印してもらい、印鑑証明書を提供してもらいます。

この場合の遺産分割協議書は、通常、相続人全員の連名で署名・実印を押印しますが、相続人ごとに個別に遺産分割協議書を作成します。個別に遺産分割協議書を作成する場合の例は次のとおりです。

                遺産分割協議書(個別に作成する場合の記載例)

被相続人 横浜関内(昭和  年  月  日生)の令和  年  月  日死亡による相続が開始したため、その相続人全員において遺産分割協議をした結果、次のとおり決定した。
同人の相続人は、次のとおりである。
A・B・C・D

相続人CとDは、次の不動産を各持分2分の1を取得する。
   所  在  横浜市中区関内
   地  番  123番1
   地  目  宅地
   地  積  150・00平方メートル

   所  在  横浜市中区関内123番地1
   家屋番号  123番1
   種  類  居宅
   構  造  木造瓦葺2階建
   床面積   1階 50・00平方メートル
         2階 40・00平方メートル

相続人Bは、次の遺産を取得する。
 横浜関内銀行 横浜支店 店番 ○○
    普通預金 口座番号 ○○○○○
    定期預金 口座番号 ○○○○〇
    
 郵便貯金:ゆうちょ銀行
    記号○○○○○ 番号○○○○○

その他の遺産については、Bがすべて取得する。

上記の協議が成立したことを証するため、この協議書を作成し、署名捺印する。

令和  年  月  日(日付は各人が署名捺印した日を記入します。)

相続人(A)(住所)神奈川県横浜市中区関内50番1号  
    
    (氏名) A   ㊞ (実印を鮮明に押印、印鑑証明書付き)
                            

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