相続登記と借地権の相続(方法)
借地権を相続したくない場合としたい場合について説明します。
【相続関係】
被相続人:夫
相続人:妻(子がいない)、夫の弟妹
【相続する遺産】
①借地と古屋(建築後70年)
②預貯金:200万円
【相談内容】
相談者の妻は、まず、①借地と古屋を地主に返したいと考えている。
相続放棄も考えている。
【質問事項】
妻が相続放棄(夫死亡の日から3か月以内に家庭裁判所の手続)をすると、相続人はどうなりますか。誰が相続人となりますか。相続する割合は、どうなりますか。
地主に借地を返す場合、建物は、相続人が取り壊して地主に返さないといけませんか。
どういう相続の方法がよいでしょうか。
被相続人夫の法定相続人は?、法定相続分は?
被相続人夫の法定相続人は誰と誰ですか。法定相続分は何分のいくつですか。
法定相続人は、妻(配偶者)と夫の弟妹(兄弟姉妹)です。
この場合の法定相続分は、妻が4分の3、夫の弟妹で4分の1です。弟は8分の1、妹も8分の1です。
法定相続分については「配偶者と兄弟姉妹の法定相続分」を参考にしてください。
借地権と建物についても、預貯金についても、この割合で相続する権利があります。
この場合、預貯金が200万円ありますので、預貯金については、妻が150万円を、弟が25万円を、妹が25万円を相続する権利があります。
妻が相続放棄すると法定相続人は?、その法定相続分は?
妻が相続放棄をしますと、これらの遺産は、夫の弟妹が各2分の1を相続する権利があります。
預貯金200万円は、弟妹が各100万円を相続する権利があることになります。
借地権と古屋も弟妹が相続し、もし、地主と借地権の交渉をするのであれば、弟妹がします。
弟妹も相続放棄をしてしまいますと、誰も相続人がいない状態(相続人不存在)となります。そうしますと、借地と家屋の管理や、預貯金がありますので、相続財産管理人選任の申立てを家庭裁判所にしなければならなくなります。この手続はなかなか面倒な手続きですし、費用もかかることから相続放棄をしない方法を考えたいものです。
借地権の相続の方法について
借地権を相続したくない場合としたい場合について説明します。
借地権を相続したくない場合
相談者の妻が借地権を相続したくないと思っている理由は、現在住んでいる家屋が古く、一人で住むには不都合であるため、地主に借地を返したいと考えています。この場合、妻は、地主に土地を返すには、自分で(妻の費用で)古屋を取り壊さないといけないと思っています。
家屋を取り壊すには、費用がかかりますが、この取り壊し費用は、100万円くらいかかるかもしれません。家屋の大きさによっては200万円かかるかもしれません。いずれにしましても、これだけのお金をかけて家屋を取り壊して、地主に土地を返すのであれば、妻が借地権を相続したくないという気持ちも分かります。
ところで、妻は、借地権の価値ということは、あまり考えていないようです。
例えば、この土地の時価が500万円であれば、借地権の価格は、時価の60%か70%ですので、60%として計算してみますと、借地権の価格が300万円ということになります。
借地権にこれだけの価値があると考えますと、妻が取り壊し費用の例えば100万円を負担して、地主に土地を返すのは、もったいない気がします。
そこで、この土地は、借地権として例えば300万円の価値がありますので、地主に土地を返すにしても、まずは、家屋を含めて借地権を買い取ってもらうことを交渉します。
この交渉では、おそらく、地主にとっては、古屋を引き取ることで、古屋を取り壊す費用を地主が負担することになります。そうしますと、地主にとっては、借地権300万円を支払って、なおかつ、取り壊し費用例えば100万円を支払うことになりますので、地主にとっては合計400万円かかることになります。
こうなりますと、地主は交渉に難色を示すと思われますので、最終的には、妻が地主に対して、土地を返すので古屋の取り壊し費用を地主が負担してください、と交渉します。
妻が借地をまったく相続したくない場合は、このような交渉の仕方をするとよいでしょう。
そうすれば、妻は古屋の取り壊しを業者に依頼したり、費用を負担することなく、地主に土地を返すだけでよいことになります。
借地を地主に引き渡す場合の相続登記の方法
妻が地主に借地を引き渡す場合、相続登記についての方法は、次の二通りあります。
- 家屋の相続登記をして、被相続人夫名義を妻名義に変更してから地主に借地を引き渡す方法
この場合、家屋の相続登記の方法は、相続人弟妹との遺産分割協議を行い、遺産分割協議書を作成することになります。この場合の登記方法は、所有権移転登記となります。
相続登記の方法は、次のページを参考にしてください。
相続登記の手順、相続登記の必要書類、遺産分割協議書の書き方、相続関係説明図の書き方、相続登記費用(約6万円)
家屋が未登記(登記されていない)の場合は、建物の相続登記を参考にしてください。
この場合の登記の方法は、①建物表題登記(費用:約10万円)をしてから②所有権保存登記(費用:約5万円)の方法となります。合計費用:約15万円。 - 家屋の相続登記をしないで、すなわち、被相続人夫名義を妻名義に変更しないで、地主に借地を引き渡す方法
妻としては、土地を地主に返すだけなので、できるだけ費用をかけたくないものです。
これは、地主が相続登記をしないことに同意した場合に可能です。相続登記をしてから借地を引き渡すように地主から言われた場合、上記の相続登記をします。
地主が家屋の相続登記をしないで土地の引渡しに同意した場合、地主が家屋を取り壊した後に、「建物滅失登記」をします。
この場合、建物滅失登記に必要な書類は、次のとおりです。相続登記をしないで建物滅失登記ができます。
(1)取り壊し業者の「建物取り壊し証明書(印鑑証明書付き)」
(2)被相続人夫の除籍謄本・住民票除票(戸籍の附票)
→ 登記名義人夫が死亡していることを証明します。
(3)相続人妻の戸籍謄本・住民票・印鑑
→ 妻が被相続人夫の相続人であることを証明します。
夫の弟妹の戸籍謄本は不要です。相続人の1名で建物滅失登記ができるからです。
借地権を相続したい場合
事例の相続人妻が借地権を相続したい場合、借地権の価格が相当な金額となる場合は、地主と借地の買い取りを交渉をするか、第三者に借地権を譲渡(売却)するかを考えます。
借地権の価格が相当な金額となる場合とは、例えば、東京都内であれば、坪単価が高額となることから、借地権といえども資産価値として考えるのが一般的です。
例えば、1㎡当たり50万円、土地面積が100㎡の場合、土地の価格は5,000万円です。借地権の割合を、例えば60%とすれば、借地権の価格が3,000万円となります。
このように、借地権の価格が相当な金額となる場合は、古屋といえども、建物の相続登記をします。
そのうえで、地主と交渉します。地主が借地権を買い取ることを承諾すれば、これで済みますが、地主が借地権の買取りを承諾しない場合は、第三者に借地権を譲渡(売買)することも考えます。
第三者へ借地権の譲渡をするには、地主の承諾を要しますが、地主が承諾しない場合は、地主の承諾に代わる裁判をします。この裁判で地主と和解するのが一般的ですが、この場合、第三者への譲渡の承諾料を決めることになります。
地主との交渉では、相続人が地主のもっている底地権(底地の権利)を買い取るということも考えられす。この場合、上記の例では、地主に底地権(例えば40%)がありますので、地主の底地権に相当する金額(例えば、上記の例で2,000万円)を支払うことになります。この金額を支払うことができるのであれば、地主との買取交渉をします。