相続時精算課税制度(親子間贈与)と実際の問題点(相続対策)

相続時精算課税制度(親子間贈与)と実際の問題点(相続対策)

親子間で相続時精算課税制度を利用した場合の生前贈与は、どういう場合に利用したらよいでしょうか。

相続時精算課税制度(親子(孫)間贈与)

相続時精算課税制度(親子孫間贈与)は、20歳以上の子(孫)が、60歳以上の親から受ける贈与について適用され、親の相続時に相続税で精算します。
相続時精算課税とはいっても、親の生前に贈与しますので、相続ではなく、贈与の扱いとなります。
この場合の特別控除額は、2,500万円で、2,500万円までが非課税(控除額)です。
この金額を超える場合は、超える部分について、税率が一律20%かかります。
相続時精算課税制度の生前贈与は、こちらを参考にしてください。

遺留分との関係

前述のように、親子間であれば、親の生前に贈与を受ける、例えば、不動産の贈与を受けることができそうですが、この場合、親の生前に贈与を受ける場合、遺留分という問題を考える必要があります。

遺留分とは

被相続人が親で、法定相続人が子である場合、子には遺留分があります。
民法では、一定範囲の法定相続人(被相続人の兄弟姉妹を除く)に対して、一定割合の相続分を保証しています。この一定割合の保証された相続分のことを遺留分といいます。

被相続人が親で、法定相続人が子である場合、子には、遺産全体の2分の1が保証され、遺留分があるということになります。遺留分については、こちらを参考にしてください。

遺留分を計算するときの財産の計算

被相続人の遺産の価額(プラスの遺産からマイナスの遺産を引いた価額)に、遺留分の割合(2分の1または3分の1)を乗じた金額が、実際の遺留分の価額になります。

プラスの遺産の価額は、次の合計額です。

  1. 被相続人が亡くなっ時点における財産の価額
  2. 遺贈、贈与した財産の価額

民法(遺留分を算定するための財産の価額)
第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。
 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

民法 | e-Gov法令検索

遺留分の侵害

遺留分を侵害された法定相続人である子(遺留分権利者)は、遺贈・贈与を受けた者に対して、遺留分侵害額請求権(いりゅうぶんしんがいがくせいきゅうけん)を行使することができ、自分の遺留分に相当する金銭を請求することができます。これについては、遺留分侵害額請求権を参考にしてください。

相続時精算課税制度の利用

被相続人が親で、その法定相続人が子である場合、遺留分との関係が問題となります。

相続時精算課税制度の利用が可能な場合

  • 子が一人である場合
    だれも文句を言う人がいない。
    ですが、後述するとおり、生前贈与で登記する場合(税率2%)と相続で登記する場合(税率0・4%)とでは、登録免許税が異なりますので、この場合は、相続で登記するのがよいでしょう。
  • プラスの遺産がたくさんあり、その一部を親から子に贈与する場合
    他の兄弟姉妹の遺留分を侵害しない程度の贈与であれば、遺留分の規定に反しないし、遺留分侵害額請求を受けることもない。

相続時精算課税制度の利用が困難な場合

  • 兄弟姉妹が数人いる場合、プラスの遺産が少ない場合
    特に、プラスの遺産は、現金・貯金がほとんどなく、自宅の不動産1か所の場合には、
    自宅の不動産1か所が、子の一人に贈与されると、他の子の遺留分を侵害することになる。

したがって、自宅の不動産1か所しかないものを、子の一人が贈与を受けた場合には、遺留分侵害額請求権の対象となるといってよいでしょう。このことは、公正証書などによる遺言の遺贈の場合にも同じことがいえます。
ただし、遺留分侵害額請求権を行使するかどうかは、遺留分を侵害された相続人が決めることです。

親には、プラスの財産が不動産だけという場合、親と同居している子は、その不動産(土地・建物)を親の死後、自分名義としたいと考えることはよくあることです。
兄弟姉妹が数人いる場合、この兄弟姉妹の関係が良好であれば、親の死後、遺産分割協議をしても自分名義とすることは十分可能です。
ところが、兄弟姉妹の関係が良好ではない場合、親と同居している子にとっては、親の死後、自分が住む家を確保したいと考えることは自然なことです。
こういう場合は、他の兄弟姉妹の遺留分を侵害しても、相続時精算課税制度の生前贈与で自分名義に変更した方がよいでしょう。ただし、この場合、親の死後、他の兄弟姉妹から遺留分侵害額請求権を行使される可能性がありますので、他の兄弟姉妹の遺留分に相当する金銭を用意しておいた方がよいでしょう。

相続時精算課税制度を利用した贈与と相続登記の登録免許税の違い

相続時精算課税制度を利用しての名義変更は、登記上「贈与」を登記原因として移転登記します。(贈与の場合、登録免許税の税率は2%)
「相続」を登記原因とする場合は、あくまでも、相続開始があってはじめて移転登記ができます。(相続の場合、登録免許税の税率は0・4%)

相続時精算課税制度といっても、相続開始前の移転登記の場合は、生前贈与扱いとなりますので、移転登記する場合の登記原因は、「贈与」となります。
「贈与」で移転登記する場合、登録免許税の現在の税率は、固定資産評価価格の2%です。

なお、居住用不動産の取得の場合であっても、「贈与」の登録免許税は2%です。
居住用不動産の取得の場合、建物の築年数や床面積の条件をクリアした場合の登録免許税の税率が0・3%になりますが、この税率の適用は現在では、登記原因が「売買」と「競売」だけに限定されております。
10年ほど前までは、「贈与」の場合にも、この税率(0・3%)が適用されていました。
現在では、「贈与」の場合、残念ながら、建物について減税の適用はございません。

このように考えてきますと、相続時精算課税制度を利用して、父、母から居住用不動産の贈与を受けて移転登記(名義変更)する場合、登録免許税が高額となります。

例えば、不動産の固定資産評価価格が1,000万円の場合、「贈与」と「相続」の登録免許税は次のとおりです。
「贈与」:1,000万円×2%=20万円
「相続」:1,000万円×0・4%=4万円

相続時精算課税制度を利用した「贈与」は、金銭的な問題、贈与する必要性、相続時の相続税などを考慮して決めるのがよいでしょう。

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