被相続人名義の不動産売却の譲渡所得税(特例3000万円控除)

被相続人名義の不動産売却の譲渡所得税(特例3000万円控除)

前回1回目は、譲渡所得税の基本的な説明をしました。
参照:被相続人名義の不動産を売却するときの譲渡所得税(基本説明)
今回2回目では、譲渡所得税の特例で、譲渡所得税が無税となることがあるのかどうかを説明します。
3回目で、被相続人名義の不動産を売却するときの名義変更の方法について、説明します。

事例
相続不動産を売却して、相続人姉妹2名で売却代金を平等に分けたいと考えています。
どういう名義変更の方法、相続登記の方法がありますか。
売買代金は3,000万円で、土地と建物、不動産を所有していた期間が20年、不動産を買った時の値段を1,000万円とします。
建物が建築されたのが40年前の昭和55年です。
姉妹ともに、不動産を所有していた被相続人と一緒に暮らしていなかった場合です。
姉妹は、被相続人と一緒に暮らしていなかったので、不動産を売却して、売却代金を平等に分けたいと考えています。

前回は、不動産を売却するときの譲渡所得税の基本的な計算方法について説明しました。
おさらいです。
譲渡所得税の基本的な計算方法は、次のとおりです。
所有期間が5年以下か、5年を超えているかによって、税率が異なります。
相続の場合は、被相続人が最初に不動産を買った時から所有期間を計算します。
譲渡所得税の税率は次のとおりです。
所有期間が5年を超えるときは、長期譲渡所得の税率で、国税15%、住民税5%、合計20%
所有期間が5年以下のときは、短期譲渡所得の税率で、国税30%、住民税9%、合計39%、となります。

事例では、税務上の特例を考えないのであれば、姉妹二人は合計:400万円の譲渡所得税がかかります。
このように、被相続人が買った時の値段よりも、相続人が売った時の値段が相当高いときは、基本的に、譲渡所得税が相当高くなってしまいます。

ここからは、相続人が相続した不動産を売却した場合、何か特例、税金がかからない方法があるのかどうかを説明します。

不動産を売却したとき、利益が出てしまうとき、税務上の特例、利益から控除、差引くことができるものがあるのかどうかを検討します。
相続不動産を売却する場合の譲渡所得税の場合、次の二つの特例があります。
1)居住用不動産を、マイホームを売却したときの3,000万円控除
2)被相続人の居住用不動産で空き家の場合の譲渡所得の特例

1)居住用不動産を、マイホームを売却したときの3,000万円控除について検討

居住用不動産を、マイホームを売却したとき、その利益から最高3,000万円までであれば差し引くことのできる3,000万円控除があります。
これは、普通に、マイホームを、自己所有の居住用不動産を売却する場合に適用があります。
相続の場合には、所有者の被相続人と同居していて、これを取得した相続人が売却した場合にも適用があります。
親と同居していたのであれば、この3,000万円控除が使えることになります。
ただし、買主が、親子や夫婦など特別の関係がある人だと適用がありません。

もし、被相続人の親と同居していなかった場合、被相続人の親の不動産を相続により取得し、その建物に居住すれば、居住用の建物ということになります。
その建物がいつ建築されたものなのか、ということと、居住年数に関係がありません。
相続した建物をすぐに売る必要がない場合は、こういう手法もあります。

建物を相続した段階で、売った時に譲渡所得税がいくらかかるのかを計算し、もし高額の譲渡所得税であれば、これも選択肢の一つとなるでしょう。

ただし、次のような手法では、この居住用不動産の3000万円控除の適用はありません。
税務署は、その辺のところを調査しますので。

  1. 3000万円控除の特例を受けることだけを目的として入居したと認められる建物
  2. 仮住まいとして使った建物、その他一時的な目的で入居したと認められる建物
  3. 別荘などのように主に趣味、娯楽または保養のために所有する建物
    単に、住民票を移するだけでは、居住用不動産の譲渡としては認められません。
    結局、居住用の建物として、普通に居住して生活することが条件です。

2)被相続人の居住用不動産で空き家の場合の譲渡所得の特例について検討

所有者の被相続人と同居していなかった相続人の場合です。事例の姉妹の場合です。
被相続人が所有して住んでいた居住用不動産(空き家)を相続して、
平成28年4月1日から令和5年12月31日までの間に、相続人が売って、次の一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額、利益から最高3,000万円まで控除することができます。

一定の要件の主な内容は、次のとおりです。

  1. 昭和56年5月31日以前に建築されたこと。
    現在が昭和95年であるので、39年よりも前に建てられた建物である必要があります。
    ざっと、今から40年前に建築された建物であれば、適用があることになります。
  2. 区分所有建物登記がされている建物ではないこと。マンションではないこと
    一戸建に適用されます。
  3. 相続の開始の前に、被相続人のほかに、居住した人がいなかったこと
    被相続人が一人で住んでいたこと
    相続開始から売却までの間、空き家だったこと、
    人に貸していないこと、人が住んでいないこと
  4. 相続の開始があった日から3年以内に売却すること(ただし、3年の日の属する年の12月31日までに売ること)
  5. 売却代金が1億円以下であること。
  6. 親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものではないこと。
    買主が、親子や夫婦など特別の関係がある人だと適用がありません。
  7. 土地と建物両方を売却する場合は、耐震基準に適合することが証明された建物であること、または、相続人が建物を取壊して土地だけ売却すること

建築された建物が昭和56年5月31日以前のものに適用されるということは、これ以前に建築された普通の建物は基本的に耐震工事が必要となります。耐震工事費用に百万円から数百万円かかることになります。
これが、昭和57年以降に建築された建物であれば、建築基準法上、基本的に耐震構造を備えています。
昭和56年以前に建築された建物の場合は、建築基準法上、基本的に耐震構造を備えていないからです。

建物の取り壊しでも百万円から数百万円かかります。
そのどちらを選択するかは、その不動産を購入する買主の使用方法によって異なるでしょう。
買主が、建物として引き続き使用したいということであれば、耐震工事をしてから売却します。
買主が、新たに建物を建てたいということであれば、相続人として売主として建物を取り壊して売却することになります。

前の事例では、姉妹が相続した建物は、40年前に建築、昭和55年に建築されたので、被相続人の居住用不動産(空き家)の譲渡所得の特例が使えることになります。
譲渡所得税が無税となります。ただし、譲渡所得税の申告は必要です。
この建物が38年前の建築、昭和57年の建築であれば、譲渡所得税が400万円かかることになります。

被相続人名義の不動産売却の検討

以上のことから、被相続人から不動産を取得した場合、譲渡所得税では次のことが言えます。

  1. 被相続人から不動産を取得した段階で、売った時に譲渡所得税がいくらかかるのかを計算してみます。まずは、特例や控除がないものとして計算してみます。
  2. 次に、不動産を売却したとき、利益が出てしまうとき、税務上の特例、利益から控除、差引くことができるものがあるのかどうかを検討します。
  3. それでも、譲渡所得税がかかるのであれば、特例、控除が適用されるように別の方法を考えてみます。

そのうえで、すぐに売却した方がいいのか、数年したら売却した方がいいのか、その他、相続人の事情などを総合的に考えます。
また、相続人が複数いる場合は、名義人を一人にした方がよいのか、複数を名義人とした方がいいのかを、検討します。

以上、ここでは、譲渡所得税の特例について説明しました。
次回3回目で、被相続人名義の不動産を売却するときの名義変更の方法を説明します。

参照
1回目:被相続人名義の不動産売却の譲渡所得税(基本説明)
3回目:被相続人名義の不動産売却の名義変更(換価分割と遺産分割協議書)

譲渡所得税については、税理士または税務署にご確認ください。

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