相続回復請求権
民法(相続回復請求権)
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第八百八十四条 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から二十年を経過したときも、同様とする。
相続人が、自分の相続権を侵害された場合、「相続権を侵害した人」に対して相続権の回復を請求することのできる権利です。
「相続権を侵害した人」には、次の二通りがあります。
(1)まったく相続権のない人(表見相続人)が相続権を侵害した場合
(2)他の相続人(共同相続人)が相続権を侵害した場合
相続回復請求権を行使するできる人は、次のとおりです。
(1)真正な相続人(の相続人、から相続分を譲り受けた人)
(2)遺言書で相続分を遺贈された人(包括受遺者)
(3)遺言書に記載された遺言執行者など
共同相続人から相続権を侵害された場合
遺産の名義人が亡くなることによって相続が開始し、法定相続人が数人いる場合は、その遺産について、誰が相続するのか、どのように分けるのかという遺産分割協議(話し合い)をした後、相続手続きをするのが通常の手順です。
ところが、法定相続人のうちの一人が、他の法定相続人と相談し合意を得ないで、勝手に遺産を自分のものにした場合、他の法定相続人は、どのように対処したらよいでしょうか。
遺産が不動産の場合
遺産が不動産の場合、数人の法定相続人のうちの一人の名義に相続登記をするには、他の法定相続人の実印や印鑑証明書が必要になりますので、不動産については、法定相続人一人の名義に相続登記をすることは、印鑑証明書を偽造などしなければ登記ができませんので、この場合、通常、勝手に一人の名義にすることは難しいといえます。
遺産が預貯金の場合
ところが、預貯金の場合はどうでしょうか。
預貯金の場合、遺産の名義人である被相続人が生前、キャッシュカードを持っていた場合、その暗証番号を法定相続人が知っていれば、相続開始直後に預貯金を引き出すことは容易です。
相続開始後、金融機関は、預貯金の名義人が亡くなったという事実をどういう理由であれ認識すれば預貯金を凍結し、その時点から正式な相続手続きをしない限り、預貯金を引き出すことができなくなります。
この預貯金の凍結が行なわれるまで、窓口で引き出すことはできません(窓口での引き出しの場合は、金融機関が本人確認をします。)が、キャッシュカードがあり暗証番号が分かれば、引き出すことができてしまいす。
金融機関に対して正式な相続手続きをすることなく預貯金を引き出す行為は、法定相続人全員の合意があれば、問題ありません。
後々問題が起きないように銀行にとしては、正式な相続手続きをして引き出してほしいところですが、引き出すことに法定相続人全員が合意している場合は、問題がないといえます。
ただし、法定相続人全員が合意して預貯金を引き出した場合であっても、本来であれば、引き出した預貯金を分配したり、葬式費用に当てるなどの目的であったものを、引き出した法定相続人が勝手に使い込むなどした場合は、別問題です。これは、横領行為となり、不当利得返還請求権の対象となります。
引き出す行為そのものについての合意がないまま、法定相続人のうちの一人が、勝手に引き出した金銭を使い込みや自分のものにした場合が相続回復請求権の対象となります。
この場合、他の法定相続人は、預貯金について相続権を侵害されたといえますので、勝手に引き出した金銭を使い込みや自分のものにした法定相続人に対して、侵害された法定相続分に相当する金銭を自分に返還するよう請求することができます。
遺産である預貯金の相続の場合、金融機関に対して残高証明書を請求することができます。
この請求は、法定相続人の権利として法定相続人のうちの一人から金融機関に対して請求することができます。
この場合、法定相続人であることを証明する必要があり、銀行指定の残高請求書に法定相続人が署名、実印を押印し、印鑑証明書、戸籍謄本、被相続人の除籍謄本を付けて請求します。
通常、取得する残高証明書に記載される金額は、預貯金の名義人が亡くなった時点での金額となります。この記載された金額を遺産分割協議の対象とします。もっとも、残高証明の請求では、いつの時点での残高なのかを銀行に対して指定します。
預貯金の名義人が亡くなった後に残高が増額した場合も、遺産分割協議の対象となります。
また、預貯金の名義人が亡くなった前後に、引き出されている場合、引き出された金額を別途、金融機関に請求することもできます。
これによって、相続開始前後で、いつ、いくら引き出されたかが判明します。
いずれにしましても、残高証明書の他に、「入出金明細書」を金融機関から取得した方がよいでしょう。
なお、相続税の申告では、残高証明書の他に、過去3年分の「入出金明細書」が必要となります。
相続法の改正によって預貯金の引き出しが認められる場合
遺産分割前の預貯金の払戻し制度の新設(2019年7月1日から施行)
相続法の改正により、遺産分割前において、相続債務の弁済や生活費、葬儀費用の支払いなど必要な支払いができるようにするため、遺産分割前の払い戻しを認めることにしました。
遺産分割前の払戻しについては、二つあります。
(1)家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める。
(2)遺産分割について家庭裁判所の調停、審判にあるとき、家庭裁判所の判断で預貯金の払戻しを認める。
(1)家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める。
この場合、一定の金額までであるならば、他の相続人の同意がなくても、払い戻しをすることができるとにしました。
各相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち、各口座ごとに、次の計算式で求められる額(ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、法務省令で定める額(150万円)を限度とする。)までについては、他の相続人の同意がなくても単独で払戻しをすることができることにしました。
計算式は、次のとおりです。
単独で払戻しをすることができる額
=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める相続人の法定相続分)
詳しくは、こちらを参考にしてください。