唯一の推定相続人が行方不明(相続対策事例)

唯一の推定相続人が行方不明(相続対策事例)

【相続相談事例】
Aさんの財産:不動産・預貯金・株式の名義人
親族関係:推定相続人は、子B一人のみ(10年以上行方不明)、子には配偶者もその子もいない。
     子Bには、兄弟姉妹がいない。
     Aさんの兄弟姉妹:ほか3人

【相談内容】
現在、Aさんは、老人介護施設に入所しています。
Aさんには、子(Bさん)が一人います。奥さんはいません。
この子Bさんは、もう10年以上行方知らずです。
Aさんには、兄弟姉妹がほかに3人います。
Aさんの財産は、自宅と3つのマンション、預貯金や株式を持っています。

Aさんは、行方不明の子Bさんには相続させないで、兄弟姉妹に財産を残したいと考えています。
子Bさんについて、失踪宣告も考えられますが、Aさんとしては、そこまで考えていません。

不動産・預貯金・株式の名義人である Aさんが死亡した場合、どうなりますか。また、今から(死亡前に)することはありますか。

推定相続人とは、将来、相続が開始した時、法律上の相続人(法定相続人)となる資格のある人のことをいいます。

通常の手続では

被相続人死亡後、行方不明者の不在者財産管理人が財産を管理する

事例の場合、通常は、次の手続となります。
(1)行方不明者のBさんが唯一の推定相続人であるので、Aさんが亡くなると、子であるBさんが相続人となります。
(2)子のBさんが相続人となった場合、Bさんは行方不明者であるので、不在者となり、不在者の財産を管理する人(不在者財産管理人)を家庭裁判所に選任してもらい、この人がBさんの財産(Aさんの相続財産)を管理することになります。

不在者財産管理人選任の申立ては、相続が開始した後、利害関係人(例えば、Aさんの兄弟姉妹)から家庭裁判所に申立てます。
選任された不在者財産管理人は、基本的に、不在者が戻ってくる(現れる)まで、相続財産を管理することになります。

不在者財産管理人は、不在者が戻ってくるまで、家庭裁判所の許可を得て、不在者の財産の中から毎年、報酬を受け取ります。
したがって、不在者の財産は、不在者が戻ってくるまでの間、あるいは、不在者の死亡が確認されるまで、不在者財産管理人以外は手を付けることができません。

この状態がずっと続いた場合、利害関係人(Aさんの兄弟姉妹)から、家庭裁判所にBさんの失踪宣告の申立てをすることも考えられますが、失踪宣告の申立てをするにはお金もかかることから、Aさんの兄弟姉妹には失踪宣告の申立てをするメリットがありません。

不在者の死亡が確定した場合、その遺産は国庫に帰属する

行方不明者(不在者)Bさんの死亡が確定した場合、Bさんには、配偶者も子(第1順位の相続人)も、両親・祖父母(第2順位の相続人)、さらに、子の兄弟姉妹(第3順位の相続人)もいないことから、Bさんには相続人がいない状態(相続人不存在)となります。
子Bさんの親Aさんの兄弟姉妹が相続人となることができません。
この場合は、相続財産管理人が遺産を管理し、その後に、遺産を処分して金銭に代え、最終的にその相続財産は国庫に帰属することになります。

別の方法(公正証書遺言書の作成)を考える

前述のとおり、Aさんの死亡前に相続対策を何もしませんと、Aさんの財産は最終的に国庫に帰属することになってしまいます。
そこで、Aさんとしては、遺言書で、Aさんの兄弟姉妹に財産を分けたいと考えています。

結論としては、この場合、Aさんが、遺言書で兄弟姉妹または第三者に遺贈するには、確実な公正証書遺言書にした方が良いでしょう。

自筆証書遺言書の場合は、登記所の保管制度を利用した場合を除いて、家庭裁判所での検認手続が必要となります
検認手続は、基本的に、自筆証書遺言書の保管者や相続人が申立て、相続人が立会いますが、家庭裁判所としては、相続人に立ち会う機会を与えればよいことになっています。
家庭裁判所は、相続人に対して検認手続に立ち会うように通知(郵送)します。

Aさんが自筆証書遺言書を作成した場合、検認手続の際、Bさんが行方不明であれば、家庭裁判所からの通知がBさんに届かないことになり、家庭裁判所に返送されてしまいます。
Bさんが検認手続を知ることができない以上、これを家庭裁判所が認めるかどうかは、一概には言えません。

これに対して、公正証書遺言書は、公証人役場の公証人が、証人2名の立会いの下、遺言者の陳述に基づき遺言書を作成し、証明するものなので、家庭裁判所での検認手続をする必要はなく、相続手続を確実に行うことができます。

また、遺言者が公証人役場に出向くことができないときは、公証人が遺言者のもとに出張してくれます。(お金はかかります。)

こうして、Aさんの場合、公正証書遺言書によって、兄弟姉妹または第三者に財産全部を遺贈する、ということが現実的な選択だと思われます。

Aさんが公正証書遺言書でAさんの兄弟姉妹や第三者に対して財産すべてを遺贈する場合、子のBさんには遺留分という権利があります。しかし、Bさんがいつ戻ってくるのかが分からない以上、遺言書を作成する段階で、Bさんの遺留分を考慮して、Bさんに財産の一部を相続させる、という遺言書を作成したとしても、前述と同じこと(最終的に国庫に帰属)になってしまいます。
したがって、Bさんの遺留分のことは考えなくてよいでしょう。

相続人のBさんが戻ってきた場合

被相続人Aさんの死亡後に、相続人のBさんが戻ってきた場合、どういうことになるのでしょうか。
その時には、Aさんの遺産は、Aさんの兄弟姉妹や第三者に遺贈されていますので、これらの人に遺産が移っています。
この場合、Bさんには、相続人としての遺留分(法定相続分(1)の2分の1=2分の1)があります。Bさんは遺留分権利者としてAさんの兄弟姉妹や第三者に対して、遺留分侵害額請求権を行使することができます。
Bさんが遺留分侵害額請求権を行使した場合、Aさんの兄弟姉妹や第三者は、遺贈された遺産を返却するという方法ではなく、Bさんに「遺留分侵害額に相当する金銭」で支払うことになります。

ただし、Bさんが遺留分侵害額請求権を行使できる期間が決められています。

民法(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

民法 | e-Gov法令検索

遺留分権利者が、相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間、遺留分侵害額請求権を行使しないと、時効により消滅します。
これを知らない場合であっても、相続開始から10年過ぎたとき、遺留分侵害額請求権は、時効により消滅します。

結局、Aさんの死亡後、Bさんが10年過ぎに戻ってきた場合、Bさんは遺留分侵害額請求権を行使できないことになります。

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