遺産分割協議書のハンコ代(相続相談)
遺産分割協議において、法定相続人のうちの一人が遺産全部を取得する場合、ほかの法定相続人に対して、遺産分割協議書に署名と実印の押印をしてもらい、印鑑証明書を用意してもらう必要があります。
この場合、ほかの法定相続人に対して、なんらかの金銭を渡す必要がありますか、という問題です。
金銭のやり取りなしで、遺産分割協議書に実印の押印と印鑑証明書を用意してくれる場合もあれば、金銭のやり取り、すなわち、いわゆるハンコ代というものを渡す必要がある場合があります。
ほかの相続人に対して、例えば、数百万円といった高額を支払う必要がある場合は、「代償分割」と言って、遺産分割協議書に「相続人の誰が遺産を取得する代わりに、ほかの相続人に金○○円を支払う。」という内容を遺産分割協議書に記載する場合があります。
これについては、代償分割による相続登記を参考にしてください。
ハンコ代が110万円を超えるような場合、代償分割として遺産分割協議書に代償金額を記載した方がよいでしょう。
ハンコ代が110万円を超えますと、ハンコ代を受取った人には贈与税の問題が生じますので、税務署に110万円を超えて受け取ったことが代償金であることを証明する必要があります。
ハンコ代の相場
ここでは、一般的に言われているハンコ代について、説明いたします。
ハンコ代の相場、というものは、ありますか?
基本的には、ハンコ代の相場について、この金額、というものがありません。
仮に、ハンコ代というものがあるとすれば、この金額は、次のことを考慮して、ケースバイケースで相対的な金額となります。
- 相続財産の価格(不動産の価格・預貯金の残高などの遺産の合計額がいくらなのか)
- 相続財産を誰が相続するのか、暗黙のうちに決まっていた。(長男が相続することが想定されていたなど)
- 均等分割で相続することが想定されていた。
- 実際に相続する人の財力
- 他の相続人の財力
- 他の相続人の人柄、性格
- 相続人同士の信頼関係の度合
- その他
ハンコ代は、相続人間で均等に支払うのが基本
仮に、長男の相続取得が想定されていたのであれば、ハンコ代は、均等に提示したほうがよいでしょう。
均等な金額は、法定相続人の人数で均等な金額ということになります。
例えば、法定相続人が4名いれば、実際に相続する人を除いて、3名分に均等な金額とします。
そのうえで、実際に相続する人が3名に対して出せる金額を決定します。
この金額であれば、相続人が納得するであろう金額です。
これは、実際にお金を出せる「相続する人」が決めるしかありません。
法定相続人1名当たり1万円から順に、納得するであろう金額を考えていきます。
金額を提示するときは、ほかの法定相続人3名に対して均等に支払うこととしていることを話します。
ハンコ代については、ほかの相続人に均等に支払わなかった場合、もし仮に、実際、Aさんには10万円、Bさんには30万円、Cさんには20万円支払った場合は、後々、Aさんから「私は10万円しか受け取らなかった。」ということで、トラブルの原因となってしまうかもしれないからです。
また、例えば、相続人のうちの一人が、実印の押印と印鑑証明書の提供を躊躇している場合、「ほかの相続人全員はハンコ代10万円で納得してもらっています。」と文書にして相手に示せば、比較的納得してもらえると思います。
ハンコ代の具体例
過去、当事務所が取り扱ったことでは、次の例があります。
- 相続財産が駐車場のみ、価格が200万円、相続人が4名(被相続人の兄弟姉妹)の場合、相続人3名に30万円ずつハンコ代としました。
- 相続財産が共有の土地と建物、価格が1000万円、相続人が4名(被相続人の養子・甥)の場合、相続人3名に10万円ずつハンコ代としました。
このように、相続財産の価格とハンコ代が同じ割合になるということはなく、相続人との関係(親密度の程度、人柄など)で、ハンコ代を支払う人が、まずは、相手がどのくらいの金額であれば納得してくれるのかを検討することになると思います。
遺産分割協議書に協力してもらうための文書
相続人同士が日頃、連絡を取り合うことのできる関係であれば、比較的話し合いでハンコ代について決めることができます。
しかし、相続人間で疎遠な人がいる場合、電話などで話し合うことが難しい場合があります。
このような場合、(電話で話した後に)次のようば文書を郵送して、理解を得る方法をとります。
文書の例(その1)相続人と電話などで事前に話しを伝えている場合
次の文書と「資料」、回答書をセットで郵送します。
資料は、遺産の内容や立替金の内容が分かるように証明書や計算書を添付します。
1回の送付文書で解決できればよいのですが、相手方からの回答書で要望があった場合、真摯に対応するように心掛けます。
回答書には、相手方が回答しやすいように記載します。無理なことを言っている印象を与えないようにします。
文書の例(その2)相続人を全く知らない場合
次の文書と「資料」、返答書をセットで郵送します。
資料は、遺産の内容や立替金の内容が分かるように証明書や計算書を添付します。
被相続人の出生から死亡までの除籍謄本を取得することで、被相続人の相続人が発見されることがあります。
このような場合、この相続人との接点がありませんので、まずは、「あなたが相続人となること。相続人が誰と誰がいること。相続財産にどういうものがあること。遺産分割の内容など」を提示して、相手方が検討できるように文書で知らせるようにします。
返答書には、相手方が返答しやすいように記載します。無理なことを言っている印象を与えないようにします。
1回の送付文書で解決できればよいのですが、相手方からの返答書で要望があった場合、真摯に対応するように心掛けます。