第三者が立替えた被相続人叔母の医療費(入院費用)の立替金を回収する方法(相続相談:解決実例)

第三者が立替えた被相続人叔母の医療費(入院費用)の立替金を回収する方法(相続相談:解決実例)

執筆者:司法書士 芦川京之助(横浜リーガルハート司法書士事務所)

【相続相談内容】
甥B(相続人ではない)は、被相続人叔母の生前約1年ほど、叔母の医療費や入院費を叔母に代わり立替え病院に支払っていました。立替金額は200万円です。
叔母には、遺産として預金が800万円あります。
甥B(相続人ではない)は、この預金から立替金を回収したいと考えています。
被相続人叔母の相続人(兄弟姉妹)は、叔母の姉(甥Bの母)と甥Aであるので、この二人で遺産分割をすることになりますが、立替金:200万円を除いた法定相続分の各2分の1で話し合う予定です。
ところが、甥Aは、甥Bが提示した立替金:200万円について納得しないようで、立替金の半分:100万円であれば話しに応じると言っています。
どうしたらよいですか。甥Bが立替金を回収するまでの手順を教えてください。
【事例(実例)】
被相続人:叔母
相続人(兄弟姉妹):姉(甥Bの母)と甥A
【相続財産】
預金:800万円
債務:甥Bが立替えた「叔母の医療費(入院費用)」:200万円

相続関係図

第三者が立替えた被相続人叔母の医療費(入院費用)の立替金の相続関係図
第三者が立替えた被相続人叔母の医療費(入院費用)の立替金の相続関係図

甥Bが立替金を回収するまでの手順:相続人のうちの一人が、遺産分割協議成立に応じない場合の対応

事例の場合、甥Bが立替金を回収するため、相続人のうちの一人が遺産分割協議成立に応じない場合は、次の手順で行うのがよいでしょう。

(1)叔母の姉(甥Bの母)が甥Aに遺産分割協議書(案)の内容を提示する。

まず、相続人同士で遺産の分配方法を話し合います。被相続人の債務(立替債務)などがあれば、これを含めて話し合いをします。
事例の場合、叔母の姉(甥Bの母)が甥Aに対して遺産分割協議書(案)の内容を提示します。
甥Aに提示する遺産分割協議書(案)のほか、次の書類も一緒に提示します。これで、遺産分割協議書(案)に記載している預金額と立替金を証明します。
① 預金の過去1年分の入出金明細書コピー
② 甥Bが医療費や入院費を支払ったことの領収書全部のコピー

甥Aが遺産分割協議書(案)の内容に納得せず、遺産分割協議の成立に応じない場合、このままの状態ですと、いつまで経っても、遺産分割協議が成立せず、預金の相続手続も行われず、甥Bが立替金を回収できません。
そこで、次の段階に移ります。

(2)内容証明郵便の送付

甥Bが甥Aに対し、甥Bが立替えている立替金:200万円のうち、甥Aが負担すべき債務(法定相続分2分の1に相当する金額(分割債務):100万円を、いつまでに支払うよう請求する、という内容証明郵便を出します。

この内容証明郵便を出すことによって、甥Aが遺産分割協議成立に合意しなければ、立替金返還請求の裁判となります。内容証明郵便を出す目的は、まず先に、立替金を支払ってください、立替金について裁判しますよ、ということで、遺産分割協議成立に合意するように促すのが目的です。
甥Bが内容証明郵便を無視するのであれば、裁判をすることになり、裁判では、甥Bが用意する証拠書類(医療費などの領収書、病院の証明書)があるので、ほぼ勝訴の見込みがあります。
甥Aが遺産分割協議成立の先延ばしをしても意味がないことになります。
甥Aがこのこと(裁判となった場合、甥Aの敗訴が濃厚なこと、遺産分割協議成立の先延ばしをしても意味がないこと)を理解できれば、甥Aが遺産分割協議書(案)で合意する可能性が高くなります。
そうすれば、甥Bは、裁判をすることなく、立替金を早期に回収できることになります。


(3)遺産分割協議書に署名、実印で押印(印鑑証明書付き)

提示する遺産分割協議書(案)の内容

被相続人の姉(甥Bの母)が甥Aに提示した遺産分割協議書(案)の内容は、次のとおりです。

   遺産分割協議書(案)(一部省略)
被相続人○○○○(昭和〇年〇月〇日生)の令和〇年〇月〇日死亡により開始した相続につき、同人の相続人全員において遺産分割協議を行った結果、下記のとおり決定した。
       記
相続人 姉(甥Bの母)、甥Aは、次の遺産を取得する。
【預金】
○○銀行 ○○支店 (店番 ○○)
普通預金 口座番号 ○○○○ 残高:800万円(A)(〇年〇月〇日現在)

預金の相続解約手続き完了後、○○銀行からの支払を受けた後、被相続人のために甥Bが立替えていた金200万円(別紙明細書参照)を甥Bに支払った後の残額について、姉(甥Bの母)と甥Aが各2分の1の割合で取得する。
姉(甥Bの母)と甥Aに分配する金額
 (A)800万円-(B)200万円=600万円(C)
(1)姉(甥Bの母)が受け取るべき金額の計算方法は、次のとおりである。
 (C)600万円÷2=300万円
(2)甥Aが受け取るべき金額の計算方法は、次のとおりである。
 (C)600万円÷2=300万円

以上の預金の解約払戻し手続及び各相続人への支払いについては、次の者に依頼、委任する。
 住所・(司法書士)氏名
姉(甥Bの母)と甥Aへの送金は、代理人司法書士○○より行う。

以上、遺産分割協議が成立したことを証するため、この協議書を作成して各自署名押印する。

内容証明郵便の内容

   通知書(例)(一部省略)
被相続人 ○○○○(生年月日 昭和〇年〇月〇日、最後の住所 ○○○○)が令和〇年〇月〇日死亡しておりますが、当方は、○○○○が入院及び治療した際の身元引受人として、○○医院(住所 ○○○○)及び○○病院(住所 ○○○○)に対し、令和〇年〇月〇日から令和〇年〇月〇日までの間、○○○○の入院及び治療にかかった費用合計金200万円を立替え、支払っております。
当方が立替え支払い済みの金200万円は、被相続人 ○○○○の当方に対する債務として、○○○○の相続人が相続し、当方に対して支払うべきものです。
被相続人 ○○○○の法定相続人は、貴殿と○○○○の2名であり、両名の法定相続分は、それぞれ2分の1です。このため、当方が立替え支払い済みの金200万円の債務は、相続人である貴殿と○○○○が分割して負担すべきものです。
貴殿と○○○○が負担すべき債務は、それぞれが2分の1を負担することから、それぞれが当方に対し、金100万円の債務を負っていることになります。
よって、貴殿は、当方に対し、金100万円を本書到達の日から14日以内にお支払いいただきたく通知いたします。
なお、貴殿が金100万円の支払いをしないときは、誠に残念ながら法的手段に訴えることとなりますので、この点ご了知おき下さい。

第三者が被相続人のために支払った立替金

第三者(相続人の一部の人を含む)が被相続人のために支払った立替金は、被相続人の債務となりますので、相続人は、立替えた人(債権者)に立替金を支払う義務があります。

事例の場合、被相続人叔母の相続人(兄弟姉妹)は、姉(甥Bの母)と甥Aであるので、立替えた人(甥B)に対して、立替金:200万円を法定相続分各2分の1に相当する金額(分割債務):100万円を支払う義務があります。

前述のとおり、姉(甥Bの母)が甥Aに提示した遺産分割協議書(案)の内容は、次のとおりです。

預金の相続解約手続き完了後、○○銀行からの支払を受けた後、被相続人のために甥Bが立替えていた金200万円を甥Bに支払った後の残額について、姉(甥Bの母)と甥Aが各2分の1の割合で取得する。
この遺産分割協議書の内容から遺産の分配は、次の計算方法となります。
姉(甥Bの母)と甥Aに分配する金額
 (A)800万円-(B)200万円=600万円(C)
(1)姉(甥Bの母)が受け取るべき金額の計算方法は、次のとおりである。
 (C)600万円÷2=300万円
(2)甥Aが受け取るべき金額の計算方法は、次のとおりである。
 (C)600万円÷2=300万円

実例での解決結果

甥Bが甥Aに対し、前述の内容証明郵便を出したことにより、当初の遺産分割協議書(案)どおりに遺産分割することで合意することができました。

相続人当事者が、預金の相続手続(解約払戻し手続)を司法書士に委任することで、解約払い戻された金額:800万円から、まず、甥Bの立替金:200万円を甥Bが受け取り、残額:600万円を、姉(甥Bの母)と甥Aが各2分の1の300万円をそれぞれが受け取ることで解決できました。

まとめ:第三者が立替えた被相続人叔母の医療費(入院費用)の立替金を回収する方法(実例)

第三者(相続人の一部の人を含む)が被相続人のために立替えたものがある場合、これは、立替金を早期に回収したいと思うのは当然のことです。
ただ、相続人のうちの一部が遺産分割協議成立に応じない場合、早期に回収することが困難となる可能性があります。
そこで、立替金のみ、先に、回収するため、立替金の支払いを内容証明郵便で催促すことにより、「遺産分割協議成立に応じようとしない相続人」の遺産分割協議成立に合意することを早めることができる可能性が高まることになります。
実例では、このとおり、内容証明郵便を出すことにより、「遺産分割協議成立に合意しようとしない相続人」が、いつまでも遺産分割協議の成立を先延ばしにしても意味がないことが分かったものと思われます。その結果、甥Aは、遺産分割協議書に署名押印することになりました。

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