被相続人が外国人(アメリカ人):遺言書で相続登記の方法
日本にある不動産の相続登記(名義変更)を行う場合、不動産の名義人が外国人(アメリカ人)の場合です。
外国人作成の遺言書で相続登記をする方法は、①外国で、その遺言方式に基づいて遺言書を作成していた場合(ニュージーランド人の事例)と②日本で、日本の遺言方式に基づいて遺言書を作成していた場合があります。
次の事例は、外国人(アメリカ人)が②の日本の遺言方式に基づいて遺言書を作成していた場合です。
事例:被相続人がアメリカ人(父)と日本人(母)、相続人がアメリカ人(子)
- 日本にある不動産を相続登記(名義変更)する。
- 不動産は共有名義(父:アメリカ人・母:日本人)。父母ともにアメリカで死亡している。父母ともに被相続人。
- 相続人の子は2名。1名は日本在住。もう1名はアメリカ在住。2名ともに国籍はアメリカ。
母は日本人であるため戸籍がある。しかし、母の戸籍には子が記載されていない。したがって、子は日本国籍を有しない。母の戸籍には、アメリカ人と婚姻した旨の記載がある。 - 日本における公証人役場で、父母ともに公正証書遺言書を作成している。
公証人役場で外国人が遺言書を作成する場合、その外国人が日本語を理解できない場合は、遺言書の読み合わせを公証人がするとき、通訳を介して行う。通訳を介して遺言書を作成した旨が父の遺言書に記載されている。 - 公正証書遺言書には、父母ともに不動産を日本在住の子に相続させると記載されている。
在日外国人が、日本の遺言方式に基づいて遺言書を作成する場合、公証人役場で「公正証書遺言書」で遺言書を作成します。「公正証書遺言書」であれば、相続開始後、特別の手続をすることなく、相続関係の分かる証明書(除籍謄本・戸籍謄本など)を用意すれば、相続登記をすることができます。
これは、日本人であれば、自筆証書遺言書で作成することも可能です。
登記所での自筆証書遺言書保管制度による遺言書の場合は、実際の相続手続では、相続が開始した後、登記所で「遺言書情報証明書」を発行してもらい、この「遺言書情報証明書」で相続登記をします。
この「遺言書情報証明書」の交付請求では、次の書類の提出が必要であることから、在日外国人が登記所での自筆証書遺言書保管制度による遺言書を作成することは事実上、困難であると言えます。
(1)遺言者(被相続人)の出生時から死亡時までのすべての戸籍・除籍謄本
(2)法定相続人全員の戸籍謄本
(3)法定相続人全員の住民票:登記所が相続人全員に対して遺言書を保管している旨を通知します。
登記所での自筆証書遺言書保管制度によらないで作成した遺言書の場合、相続が開始した後、家庭裁判所での検認手続が必要となります。自筆証書遺言書に家庭裁判所で検認した旨の証明書を付けてくれますので、これで相続登記をします。
この家庭裁判所での検認手続では、次の書類の提出が必要であることから、在日外国人が自筆証書遺言書を作成することは事実上、困難であると言えます。
(1)遺言者(被相続人)の出生時から死亡時までのすべての戸籍・除籍謄本
(2)住民票除票:最後の住所地を証明するため
(3)法定相続人全員の戸籍謄本
(4)法定相続人全員の住民票:家庭裁判所が相続人全員に対して通知する。
(5)自筆証書遺言書
登記申請の方法
不動産は、父母共有名義であるため(登記の原因の死亡日が異なる。)、相続登記としては2件で申請する。
1件目:父持分全部移転
2件目:母持分全部移転
登記記録の内容
父母ともに、不動産を取得した時が日本在住であったため、父母ともに日本の住所が記載されている。
相続登記の必要書類
被相続人:父
1 公正証書遺言書:父が子に相続させる旨の記載がある。
2 死亡証明書(アメリカの役所が発行):日本語に翻訳
3 日本における住民票除票
日本からアメリカに転居したのが5年以内であったため、除票を取得することができた。
この除票には、登記上の住所と同じ住所が記載されていた。これで被相続人が登記名義人との同一性を証明できる。
4 不動産の権利証(登記済権利証)
父の除票を取得できない場合に備えて、権利証(登記済権利証)を事前に用意したもらった。
権利証(登記済権利証)があれば、被相続人が登記名義人との同一性を証明できる。
被相続人:母
1 公正証書遺言書:母が子に相続させる旨の記載がある。
2 死亡証明書(アメリカの役所が発行):日本語に翻訳する。
除籍謄本:母の死亡が記載されている。父と婚姻した旨が記載されている。子の記載はな
3 日本における除かれた戸籍の附票(住民票除票でもよい。)
日本からアメリカに転居したのが5年以内であったため、戸籍の附票を取得することができた。
この戸籍の附票には、登記上の住所と同じ住所が記載されていた。これで被相続人が登記名義人との同一性を証明できる。
4 不動産の権利証(登記済権利証)
母の戸籍の附票を取得できない場合に備えて、権利証(登記済権利証)を事前に用意したもらった。
権利証(登記済権利証)があれば、被相続人が登記名義人との同一性を証明できる。
相続人:子
1 住民票(子は日本に在住している。)
2 出生証明書:日本語に翻訳する。外国人であれば、出生当時の出生証明書の原本を保管しているようである。
子が父と母の子であることを証明する。
子が父との親子関係を証明すると同時に、母との親子関係については、母の除籍謄本に子の記載がないため、出生証明書で親子関係を証明する。
上記の事例の場合、相続登記で登記所に提出する「相続関係説明図」は特に作成しません。(ただし、登記所の担当官に相続関係を分かりやすくするために、相続関係説明図のようなものを提出することは構いません。)
日本人の相続登記では、相続関係説明図には、被相続人の「氏名」・「最後の本籍」・「最後の住所」・「生年月日」・「死亡日」を記載し、相続人の「氏名」・「続柄」・「生年月日」を記載します。この相続関係説明図を登記所に提出すれば、被相続人の除籍謄本や相続人の戸籍謄本の原本を登記所に提出するだけで、これらのコピーを提出する必要はありません。
そうしますと、登記完了後、登記所にはこれらの書類(除籍謄本・戸籍謄本)が存在しないことになります。後日、相続登記された相続関係について争いが生じた場合、これらの書類(除籍謄本・戸籍謄本)が存在していないとしても、登記所には相続関係説明図がありますので、相続関係説明図の「最後の本籍」などの記載から、被相続人・相続人の除籍謄本・戸籍謄本などを第三者が改めて取得して相続関係を証明することができます。
ところが、事例のように在日外国人の場合は、そもそも除籍謄本・戸籍謄本がないことから、相続登記の完了後、日本人の場合のように、第三者が改めて相続関係を証明する書類を取得することができませんので、相続関係説明図を作成し、相続関係を証明する書類(出生証明書や死亡証明書)をコピーすることなく相続登記ができません。相続関係を証明する書類(出生証明書や死亡証明書)の原本を返却してもらうには、必ずこれらのコピーを提出して原本還付の手続をすることになります。
外国文書の翻訳について
事例のように外国人の出生証明書や死亡証明書を日本語に翻訳する場合、翻訳者は誰がしても問題ありません。翻訳者の資格や制限がありません。
翻訳文全体を日本語だけで記載しても問題ありません。
事例のアメリカの出生証明書や死亡証明書の場合、定型文書が非常に小さい文字(一見して見えにくく分かりにくい文字)で記載されているため、これを見えやすく分かりやすい英文に直す必要があります。また、事例の場合、これらの文書が箇条書きであるため、上段に英文を、下段に日本語で記載しました。これはかなり大変な作業となります。