相続登記と不動産売買契約

相続登記と不動産売買契約

例えば、亡くなったお父さん名義の不動産を売却する場合、お父さん(被相続人)名義のままでは、不動産を売却することはできません。

不動産を売却するということは、最終的に(通常、売買代金の決済・精算時に)、不動産の名義を売主名義から買主名義に変える必要があります。
不動産の名義を買主に変えるということは、不動産を管轄する登記所に、売主名義から買主名義に所有権移転登記を申請して、名義を変更します。
この登記申請をするとき、登記の義務者となる売主が、登記記録に記載された名義人と一致していることが必要です。

先の例で、亡くなったお父さん(被相続人)は、当然、不動産の売買契約の当事者にはなれません(死者は署名捺印ができない。)ので、名義を、例えば、その相続人である配偶者や子供に変更する必要があります。
この変更する登記手続きが、相続登記(不動産名義変更)です。
正確な言い方をしますと、亡くなったお父さん(被相続人)の名義をその相続人名義に変更する登記手続きが、相続による所有権移転登記です。

では、この相続登記をいつまでにする必要があるでしょうか。

売買契約締結前

不動産を売却したいときは、通常、不動産仲介会社に行って、不動産を売却したいんですが、と仲介業者に言います。
仲介業者は、では不動産の媒介契約をしてください、と言います。
そうしますと、仲介業者は、その不動産を調査して、いくらで売却できるのか、といったことや不動産を売却するにあたり、問題点を洗い出します。

この問題点の中で、相続登記をしていない場合は、相続人名義に変更する必要がありますよ、と言われます。
そこで、売主としては、相続人の話し合いで、不動産の名義人となる人を検討し、相続登記に必要な書類を集めることになります。

買主が見つかると、不動産売買契約を締結することになりますが、亡くなった人名義のままでは、売買契約を締結することができません。
これは、売買契約の当事者である売主が、誰なのか、ということが確定していないからです。

相続人名義に変更する場合、法律の規定とは異なった相続の仕方である遺産分割協議で相続する場合はもちろんのこと、法律の規定にしたがった相続、すなわち、法定相続分で相続する場合であっても、売買契約を締結するにあたり、相続人名義に登記をする必要があります。

遺産分割による相続の場合は、例えば、相続人が、配偶者と子供である場合、配偶者だけが相続するという遺産分割は、これを登記しなければ第三者に対抗(主張)できません。
すなわち、配偶者が遺産分割によって相続したということを登記しなければ、このことを第三者である買主に主張することができないからです。

法定相続の場合、例えば、配偶者と子供が法定相続分で相続するという場合、法定相続分による相続は、これを登記しなくても第三者に対抗、すなわち主張することができます。
ですから、売買契約締結時点で、法定相続人名義に変更していなくても契約を締結できそうです。
ですが、売買契約を締結するということは、売買契約の当事者が確定していてはじめて締結できるので、その結果、遺産分割による場合も、法定相続による場合も、売買契約を締結する時点までに、相続登記をして名義を変更する必要があります。

通常、不動産の売買契約では、手付金のやり取りで売買契約を締結します。
その後、売買代金の決済・精算をするとき同時に、名義を売主から買主に移転登記します。
この名義変更の登記を司法書士が売主・買主を代理して申請します。

不動産売買契約で、よく行われている手法で、相続登記をしないまま、売買契約を締結してしまっているケースがあります。
これは、不動産仲介業者が、相続人である売主の話しを信じて、先に、買主と売買契約を締結してしまい、売買代金決済日までに相続登記を完了してください、という場合です。
この手法が、売買代金決済日までに相続登記が完了すれば、結果として問題ないかもしれません。

しかし、この手法は、次の点で危険性があります。

不動産売買契約書には、不動産の引渡しの期限が日付で明確に記載されるのが通常です。
買主にとっては、相続登記が完了しないことで、不動産の引渡日までに代金の決済が行われない場合、手付金を支払ったにもかかわらず、予定していた引越しやその他の手続ができないことになりかねません。買主としては、予定の行動がとれないことになってしまいます。
売主にとっては、当初問題なく相続登記ができるものと思っていたところ、他の相続人との話し合いが上手くいかずに相続登記が進まない状態となってしまう場合があります。
そうしますと、売買契約を締結し、手付金も受取りながら、不動産の引渡期限を過ぎてしまうことにもなりかねません。
そうしますと、代金の決済を行うことができず、不動産の引渡期限を過ぎれば、契約義務違反となってしまいます。契約義務違反となれば、違約金(通常、売買代金の10%から20%)を買主に支払わなければならないという事態になりかねません。

以上のことは、同時決済を考えれば、よく分かります。同時決済というのは、売買契約締結と代金の授受と引渡しが同時に行なわれる売買をいいます。
この場合、買主が代金を支払うということは、同時に引渡しができること、同日中に、買主名義に変更登記ができることを前提としています。
したがって、これらができない場合、売主の相続登記が完了するまで、売買契約そのものが延期されることになります。

売買契約締結後、売買代金の決済まで

売買契約締結後、登記名義人である売主が死亡した場合、代金の決済までに、相続登記をする必要があります。これができない場合は、代金の決済ができず、引渡しもできないことになってしまいます。
ですから、相続人としては、速やかに相続登記を行うしかありません。

売買代金の決済後

通常の売買では、代金の授受と登記申請(売主から買主へ)が同日に行われます。
しかし、これが同日に行われずに、代金の授受のみが先に行なわれる場合が稀にあります。
この場合、通常の売買契約では、「不動産の所有権は売買代金全額の支払いが完了した時に移転する。」という所有権移転時期に関する特約がありますので、売買代金の授受が完了した段階で、所有権が買主に移転することになり、売主としては無権利の状態となります。

そこで、代金の授受が完了してはいるが、名義変更登記が行われていない間に、登記名義人の売主が死亡した場合、この相続人への相続登記を申請することなく、売買のよる移転登記のみを申請することができます。
この場合、売主の登記名義人はすでに死亡していますので、その相続人が登記の「義務者」となって申請します。ただし、被相続人と相続人との相続関係を証明する除籍謄本や戸籍謄本など(相続登記の必要書類)を添付書面として用意する必要があります。

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