相続登記と登記所の管轄を異にする不動産の申請方法

相続登記と登記所の管轄を異にする不動産の申請方法

【事例】相続登記する不動産が、例えば、①横浜市中区にある土地・建物、②川崎市川崎区にあるマンションと③東京都中央区にあるマンションの合計3箇所の場合、どのように(どういう順番、必要書類の通数など)登記申請したらよいでしょうか?

不動産を管轄(かんかつ)する登記所

  1. 登記の証明書を取得したいとき
    「登記の証明書を取得したいとき」とは、昔の言い方で言えば、「登記簿謄本」は、どこの登記所(法務局)で取得できますか、ということになります。
    今では、登記された内容(登記記録情報)は、コンピューターで管理されていますので、登記「全部事項証明書(または一部証明書)」→ 「登記事項証明書」という言い方をします。
    この登記事項証明書は、例えば、登記所に出向いて取得する場合、北海道の不動産を横浜の登記所で取得することができます。このように、日本全国の不動産の登記事項証明書をどこの登記所でも取得することができます。これは、登記記録情報がコンピューターで管理されているからです。
  2. 登記を申請するとき
    ところが、登記を申請するときは、登記事項証明書と違って、どこの登記所でも申請できるわけではありません。
    例えば、横浜市中区の不動産の場合、申請できるのは横浜地方法務局に限られます。ほかの登記所(法務局)に申請するとどうなるでしょうか。登記申請後、登記所の担当官から、不動産の管轄が違うので、取り下げて、ほかの登記所に申請してください、と言われます。

    この場合(取下げる場合)、申請した書類一式を返却してくれます。
    納めた「登録免許税」はどうなるでしょか。
    一般の人は、登録免許税を収入印紙で納めますので、申請書には収入印紙が貼ってあります。が、ほかの登記所に申請し直す場合、この貼ってあった収入印紙を再度、使用することができません。そこで、登録免許税の還付請求という方法で、納めた登録免許税を返してもらうことになります。
    これは、ご自分の銀行口座を指定して、この口座に振り込んでもらうことになります。

    このように、不動産の登記申請の場合、証明書を取得する場合と違って、不動産の管轄が決められた登記所に提出しなければなりません。日本全国の登記所の管轄は、こちらでご確認ください。
    不動産の管轄(かんかつ)とは、ここの不動産を登記申請するときは、ここの登記所に申請してください、というのが管轄ということになります。

このように、不動産の管轄を間違えると、登記申請のし直しとなってしまいますので、余計な手間暇がかかることになります。司法書士の場合は、特に、不動産の管轄については、確認すれば分かることなので、最後の最後に注意するようにしています。

事例の場合の管轄

事例の場合の管轄は、次のとおりです。
(1)横浜市中区にある土地・建物  → 横浜地方法務局
(2)川崎市川崎区にあるマンション → 横浜地方法務局川崎支局
(3)東京都中央区にあるマンション → 東京法務局
ただし、不動産の管轄は変わることがありますので、登記申請の度に確認することを要します。

どういう順番で登記申請したら、よいでしょうか。

事例の場合のように、相続登記(不動産名義変更)を申請する場合、申請する登記所が3か所ある場合は、一度に並行して申請することもできますし、順番に申請することもできます。
同時並行で申請する場合、必要書類の通数は、事例の場合、各3通用意する必要があります。相続登記に必要な書類の戸籍謄本や除籍謄本、遺産分割協議書、印鑑証明書などを各3通揃える必要があります。そうしますと、その取得分の手数料(実費)がかかることになります。
例えば、除籍謄本を5通(1通当たり750円)取得すれば、3,750円、これを各3通取得すれば、11,250円かかることになります。
そう考えますと、自ずと、同時並行で申請しないで、順番に申請した方がよいと考えることになります。ただし、事情があってどうしても3か所を早く完了させたい場合は、同時並行で申請することになるでしょう。

順番に登記申請する方法

そこで、3か所の登記所をどういう順番で申請したらよいかを考えます。普通は、
(1)一番早く完了させたい登記所から申請します。
   相続した不動産を売却する場合、早く売買契約をしたい場合は、この不動産から申請します。
(2)特に急ぐ事情が場合、不動産の価値の高いものから申請します。

順番に登記申請する場合の必要書類の通数と申請方法

事例では、不動産を管轄する登記所が3か所あるので、順番に登記申請することにします。
この場合、相続登記に必要な戸籍謄本など相続証明書や遺産分割協議書、印鑑証明書は、各1通用意します。登記申請書は3通作成します。

順番に登記申請する場合、便利な「法定相続情報一覧図の証明書」を取得して申請

順番に登記申請する場合、最初に申請する登記所で、登記申請と同時に「法定相続情報一覧図の証明書」を取得します。(法定相続情報一覧図の証明書の取得方法は、こちらでご確認ください。)
これを取得しますと、2番目・3番目に申請する登記所では、戸籍謄本や除籍謄本を登記所に提出する必要がありません。法定相続情報一覧図の証明書は、原本還付の手続をすれば、証明書の原本を返却してくれますので、再度使用することができます。

原本還付の手続は、原本とコピーを登記所に提出して、コピーしたものに「これは原本の写しに相違ありません。と記入し、氏名の記入と押印をします。そうしますと、登記が完了した後に原本を返却してくれます。不動産の登記の場合、登記が完了するまで原本を返却してくれません。
現在、「委任状」については、基本的に原本還付の手続ができません。ただし、例えば、2か所の不動産を管轄する登記所の不動産を1枚の委任状で作成した場合、最初に申請する登記所では原本還付の手続ができます。2番目の登記所では原本還付の手続ができないことになります。

「法定相続情報一覧図の証明書(法定相続情報証明)」を取得するには、「法定相続情報一覧図」と「申出書」を作成して、法務局に提出しますので、手間がかかります。また、この証明書の取得を司法書士など専門家に依頼する場合、手数料(報酬)を支払うことになりますので、この証明書を取得して、早く登記を完了させる必要性があるのかどうかを検討するのがよいでしょう。

申請方法

複数の法務局に順番に申請する場合、最初の登記所では、すべての証明書類を提出します。
2番目・3番目の登記所では、最初の登記所で取得した「法定相続情報一覧図の証明書」を使用して、次のように必要書類を揃えて申請します。相続登記の場合です。

  1. 法定相続情報一覧図の証明書(登記原因証明情報となる。)
  2. (提出する必要がないもの)被相続人の死亡時の住民票除票(または戸籍の附票)
    → 法定相続情報一覧図の証明書に被相続人の最後の住所の記載があるので、提出する必要がありません。
  3. (提出する必要がないもの)相続人の住民票
    → 法定相続情報一覧図の証明書に相続人の住所が記載されていれば、提出する必要がありません。
  4. 遺産分割協議書(登記原因証明情報となる。)
    → 複数の法務局に同時に申請する場合、遺産分割協議書は複数の法務局に提出する通数を用意します。
  5. 相続人の印鑑証明書
    → 複数の法務局に同時に申請する場合、印鑑証明書は複数の法務局に提出する通数を用意します。
  6. 固定資産税の評価証明書(課税台帳記載事項証明書)または固定資産税納税通知書・課税明細書

登記申請完了の期間

事例のように相続登記を3か所の登記所に申請する場合、登記申請してから登記の完了まで、どのくらいの日数を要するでしょうか。
通常、登記の申請から完了までの期間は、登記所1か所について2週間です。
登記所が3か所ある場合は、合計6週間かかると考えてよいでしょう。

ただ、登記所によっては1週間で完了することもありますので、個々具体的な完了予定日は、登記所によって異なります。
各登記所では、登記完了予定日を設定していますので、登記申請しましたら、登記完了予定日を確認します。全国の法務局の登記完了予定日は、ネット上で確認することができます。例えば、横浜地方法務局の登記完了予定日は、こちらで確認することができます。

なお、登記所の場合、登記申請された順番に処理していますので、自分だけ早く完了させてください、という要求をしても、登記所はこれを受け付けません。申請人平等の原則です。

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