数次相続と相続放棄(限定承認)

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数次相続と相続放棄(限定承認)

相続事例

  1. 不動産を所有(所有権全部)する被相続人母の死亡後(第1の相続)、父が死亡(第2の相続)
  2. 相続人:(亡)父(法定相続分2分の1)と子(法定相続分2分の1)
  3. 不動産には、抵当権など担保権の登記がされていない。
  4. (亡)父個人には、債務者(または会社の保証人)の債務があり、被相続人母名義の相続財産を大幅に超える。
  5. (亡)父には、プラスの遺産がない。
  6. 相続人らは、相続放棄の申述(家庭裁判所)を検討している。

相続の方法として、どういう方法がよいのか。

父の死亡前に作成した被相続人母についての遺産分割協議書

被相続人母の遺産について、父死亡前に作成した遺産分割協議書(父と子が作成)があるとき、この遺産分割協議書の有効性について

父の生前の遺産分割協議書(父と子が作成)があれば、法律上有効で、被相続人母の不動産の相続登記をすることは十分可能です。例えば、子が不動産全部を相続取得するという内容の遺産分割協議書で名義変更登記ができます。

この場合、父の債権者から「詐害行為取消権」を行使され、父生前の遺産分割協議書に基づいた相続登記が否定される可能性については、この遺産分割協議書が真実であれば問題ないでしょう。
ただし、父生前の遺産分割協議書で相続登記を行う場合、早めに行う必要があります。

父生前の遺産分割協議書で相続登記を行う場合、早めに行わない場合、父の債権者が「債権者代位権」に基づいて、法定相続分での登記を先にされてしまいますと、父生前の遺産分割協議書に基づいた相続登記ができなくなります。

父生前の遺産分割協議書に基づいた相続登記をすれば、後は、子が亡父の相続放棄の申述を家庭裁判所にすればよいことになります。

もし、父生前の遺産分割協議書に基づいた相続登記ができないのであれば、次に相続放棄の申述など(家庭裁判所)を検討することになります。

(詐害行為取消請求)第四百二十四条第1項 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

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(債権者代位権の要件)第四百二十三条第1項 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

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上記の事例で、被相続人母の遺産を全て子が相続取得するという内容の遺産分割協議書に基づいて相続登記をする場合、早めに登記をする必要があります。遺産分割によって子が法定相続分2分の1より多く取得する場合、例えば所有権全部を取得する場合は、第三者(債権者)の登記より先に登記しないと、その権利を第三者に対抗(主張)することができなくなるからです。
債権者の「債権者代位権」に基づく登記は、①亡父・子の法定相続分(各2分の1)での登記をした後、②亡父の持分2分の1に対して、例えば「差押え」の登記をすることになります。

父名義の債務の支払い

基本的に、支払い通知、督促状の名義が、会社であろうと(亡)父個人であろうと、支払わない方がよいでしょう。(相続放棄の関係で)
上の事例で、子が債権者に対して、いくらかでも支払うと、(亡)父の債務を承認した(認めた)ことになってしまうからです。

電気・ガス・上下水道料金については、生活上、これを支払わなければ、止められてしまう性質のもので、生活そのものに影響してしまいますので、支払うことについて問題ありません。
また、相続人にとって、そこに住んでいるということは、自分の相続人の権利として、という意味と相続財産の管理をしている、という意味があります。

(相続の放棄をした者による管理)第九百四十条第1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

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(亡)父について相続放棄することにより、厳密に言えば、相続人の子は不動産の権利は2分の1しかありません。
厳密にいえば、相続人が、この先もずっと住んでいることで、将来、家賃を考えれば、相続財産管理人から2分の1の家賃を請求される可能性はあります。(そうならないことを願います。)

最終的には、不動産を売却して、債務の精算をすることになります。

家庭裁判所に相続放棄の申述をしますと、(亡)父の相続する権利の2分の1は、相続人が相続で引き継ぐことができなくなります。

相続放棄の申述をする場合の手続

子が(亡)父の遺産の放棄(相続放棄の申述)をする場合、考えられる手続について、説明いたします。

  1. 子が(亡)父の相続放棄の申述を3か月以内に家庭裁判所に申立てします。
    (手続終了までの期間は約1か月)
  2. 被相続人母名義の不動産について、法定相続分での相続登記をします。
    この場合の登記名義は、(亡)父が持分2分の1、相続人(子)が2分の1で登記します。
  3. 相続人(子)が相続放棄しますと、次の順位の親族が法定相続人となります。
    例えば、(亡)父の兄弟、あるいは、(亡)父の兄弟の子
    その結果、(亡)父には、法定相続人がいない状態(相続人の不存在)となります。
  4. 家庭裁判所に、相続財産管理人の選任の申立てをします。
    これは、(亡)父の持分2分の1の相続財産を管理する人を選任する必要があります。
    (手続終了までの期間は約3か月)
  5. (亡)父の持分2分の1について、相続財産法人とする登記を相続財産管理人がします。
  6. (亡)父の持分2分の1の相続財産管理人と相続人(子)で、不動産を売却します。
  7. (亡)父債務の返済は、相続財産管理人が売却代金の2分の1の中から返済します。
    相続人(子)は、売却代金の2分の1を受け取ります。

以上の手続では、最終的に(亡)父個人の債務を清算するまで、相当の期間を要します。
なお、この場合、子は不動産が売却されることにより、退去することになりますが、なお、ここに住み続けたい場合、相続財産管理人と交渉して(おそらく家庭裁判所の判断も必要)(亡)父の持分2分の1に相当する価格を支払うことになるでしょう。

上記2.法定相続分での登記と4.相続財産管理人選任の申立てを誰がするのかという問題
法定相続分での登記:子または債権者(債権者代位権)
相続財産管理人選任の申立て:子または債権者(利害関係人)
子がこれらを行う場合、費用がかかることになりますので、よく検討したほうがよいでしょう。特に、相続財産管理人選任の申立では、家庭裁判所に予納金(約50万円以上)を納める必要があります。

その他の方法

とりあえず相続放棄の申述のみに留める

上記の方法は、相続人(子)が主に手続を行うことになり、費用の負担など、手間暇がかかります。

そこで、もう一つの方法について、説明いたします。
なお、最終的に(亡)父個人の債務を清算するまで、上記の方法よりなお相当の期間を要します。
相続人(子)がすることは、次の1・7・8です。

  1. (亡)父の相続放棄の申述を3か月以内に家庭裁判所に申立てします。
    (手続終了までの期間は約1か月)
  2. 債権者が、債権者代位として、法定相続分で相続登記をします。
    (相続人(子)に代わり、債権者が相続登記をします。)
    この登記の内容は、上記の相続登記の内容と同じです。
    被相続人母名義の不動産について、法定相続分で相続登記をします。
    この場合の登記名義は、(亡)父が持分2分の1、相続人(子)が2分の1で登記します。
  3. 相続人(子)が相続放棄しますと、次の順位の親族が法定相続人となります。
    例えば、(亡)父の兄弟、あるいは、(亡)父の兄弟の子
  4. その結果、(亡)父には、法定相続人がいない状態(相続人の不存在)となります。
  5. 債権者が、法律上の利害関係人として、家庭裁判所に、相続財産管理人選任の申立てをします。
    これは、(亡)父の持分2分の1の相続財産を管理する人を選任する必要があります。
    (手続終了までの期間は約3か月)
  6. (亡)父の持分2分の1について、相続財産法人とする登記を相続財産管理人がします。
  7. (亡)父の持分2分の1の相続財産管理人と相続人(子)で、不動産を売却します。
  8. (亡)父の債務の返済は、売却代金の2分の1の中から返済します。
    相続人(子)は、売却代金の2分の1を受け取ります。

なお、固定資産税を納付しなければなりませんが、これを延滞してしまいますと、(亡)父の持分2分の1だけではなく不動産全体に対して、差押などの手続をされる可能性があります。

限定承認の申述をする場合の手続

もう一つの方法として、次の方法があります。
相続放棄の申述ではなく、家庭裁判所に、限定承認の申述も考えられます。
この限定承認は、(亡)父の相続する権利2分の1の範囲で(限度で)(亡)父の遺産を相続するというものです。
債務の方が多い場合は、結果的に、(亡)父の相続する権利2分の1の範囲を超える債務については、免除されるという手続です。

この場合も、最終的には、不動産を売却して、債務の精算をすることになります。

(亡)父の限定承認の申述をする場合の手続について、説明いたします。

  1. 被相続人母名義の不動産について、法定相続分で相続登記をします。
    この場合の登記名義は、(亡)父が持分2分の1、相続人(子)が2分の1で登記します。
  2. (亡)父の限定承認の申述を3か月以内に家庭裁判所に申立てします。
    (手続終了までの期間は1か月)
    相続人(子)は、以下の手続をします。
  3. 相続債権者に対する公告と催告(公告期間は2か月)
  4. 相続人(子)は、家庭裁判所の公売で、不動産を売却します。
    相続人(子)は、売却代金の2分の1を受け取ります。
    ただし、相続の限定承認者が相続財産(持分2分の1)を承継したいときは、鑑定人が評価した価額を支払って取得できます。
  5. 債権者に配当:(亡)父の債務の返済は、売却代金の2分の1の中から返済します。

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