遺言書に書かれた「不動産の表示」が不完全な場合の相続登記の方法

遺言書に書かれた「不動産の表示」が不完全な場合の相続登記の方法

自筆証書遺言書に書かれた「不動産の表示」が不完全な場合、どのような方法で相続登記をすればよいでしょうか。

相続登記・依頼事例

(依頼者)相続登記に必要な書類は「すべて揃っているので」登記申請だけしてもらえますか。

「依頼者が用意した相続登記に必要な書類」は、次のとおりです。
基本的に必要な書類は、遺言書での相続登記の方法を参考にしてください。
(1)自筆証書遺言書(家庭裁判所の検認手続証明書付き)

【遺言書の内容】
私(夫)は、私の所有する別紙1(横浜市○○区)の不動産を(妻)○○に相続させる。

(2)被相続人(夫)・相続人(妻)の戸籍謄本
(3)評価証明書

「依頼者が用意した相続登記に必要な書類」の不足書類と問題点

(1)次の書類が不足しています。

  1. 被相続人(夫)の住民票除票(本籍地記載)
  2. 相続人(妻)の住民票

(2)自筆証書遺言書(家庭裁判所の検認証明書付き)の問題点

遺言者(夫)が作成した自筆証書遺言書は、家庭裁判所の検認手続を経て、検認証明書が付いていますが、次の点で問題があります。
遺言書に「別紙1(横浜市○○区)の不動産」と書かれていますが、「別紙1(横浜市○○区)の不動産」が検認証明書の遺言書に添付されていません。

もともと、遺言者が遺言書を作成した段階では、「別紙1(横浜市○○区)の不動産」を作成し、これに遺言者が署名捺印をしていましたが、遺言書本体とを割印していなかったため、家庭裁判所では、遺言書本体のみの「検認証明書」となってしまいました。
さらに、遺言者が作成した「別紙1(横浜市○○区)の不動産」は、「不動産の表示(最低限、横浜市○○区○○町○○番○の土地、建物というように、不動産を特定する必要があります。)」が記載されていませんでした。

このことは、遺言者本人は、「不動産の表示」を「登記済権利証」のコピーでよいと思って、これに署名捺印をしていました。ところが、この署名捺印のコピーが「登記申請書・登記の原因・権利者・添付書類などのページ」だけであって、肝心の「不動産の表示」部分をコピーして署名捺印をしていなかったことから、結果として、「別紙1(横浜市○○区)の不動産」が欠落した遺言書となってしまいました。

民法(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

民法 | e-Gov法令検索

したがって、このままの遺言書では、相続登記をすることができません。
なぜなら、「別紙1(横浜市○○区)の不動産」が何なのかが不明だからです。「妻に相続させる不動産がこれこれ(別紙1(横浜市○○区)の不動産)」と言っている以上、この不動産を特定、証明するする必要があります。したがって、不動産を特定できない以上、相続登記ができないからです。

次の遺言書の内容であれば、不動産を特定、証明する必要がありません。

私(夫)は、私の所有する「すべての不動産」を(妻)○○に相続させる。

「すべて」と言っていますので、あえて特定、証明する必要がありません。

相続不動産を特定・証明するために必要な書類

そこで、事例の場合、不動産を特定、証明するために、次の書類を用意します。
(1)遺言者名義の(横浜市○○区)登記済権利証登記識別情報通知
(2)名寄帳

名寄帳

名寄帳は、市区町村内にある「名義人の不動産がすべて記載されている」ものです。
これで、「横浜市○○区内にあるすべての不動産」を証明することができます。
ただし、固定資産税が非課税の「公衆用道路」については、多くの役所は、名寄帳に記載していません。なぜなら、固定資産税が非課税であるため、名寄帳に記載する必要がないからです。

また、不動産の所有者が次のように異なる場合、名寄帳は、すべての不動産を1枚の名寄帳に記載していないため、別々に記載された名寄帳を取得する必要があります。

例えば、共有土地がA・B・C・遺言者の順番で登記されている場合、名寄帳に「Aほか3名」と記載され、「遺言者の氏名」が名寄帳に記載されないことになります。
不動産を特定・証明する必要がある場合の名寄帳には、「遺言者の氏名」が記載されている必要があります。
このように、「遺言者の氏名」が名寄帳に記載されていない場合は、役所に「遺言者の氏名」を記載してもらうように申出をする必要があります。(それでも、記載されない場合があります。)

以上(1)遺言者名義の(横浜市○○区)登記済権利証(登記識別情報通知)と(2)名寄帳で、「別紙1(横浜市○○区)の不動産」の記載を補完することになります。

その他、必要な登記

相続登記をする不動産のうち、建物が遺言者(夫)と妻の共有名義です。妻の「登記されている住所」が「現在の住所」と相違しますので、共有者妻について「登記名義人住所変更」登記をする必要があります。
この場合、妻の住所変更を証明する「住民票」や「戸籍の附票」を用意します。

相続登記申請の方法

土地は、遺言者(夫)名義、建物は、遺言者(夫)と妻の共有名義です。
相続登記(申請書の書き方)と、妻の「住所変更登記(申請書の書き方)」を次の順番で登記申請書を作成し、申請します。妻の「住所変更登記」を先に申請することにより、建物の相続登記の妻には「所有者」と記載されます。
この事例の相続登記の難易度は、妻の住所変更登記や「不動産の表示」が不完全な場合の補完方法を含めますと、難易度④+②で難易度⑥に相当します。

 (1/3)登記申請書(一部省略)
登記の目的 所有権登記名義人住所変更
原   因 平成〇年〇月〇日住所移転                   
変更後の事項 共有者妻の住所
      (住所)○○○○
申 請 人 (住所)○○○○
      (妻・氏名)○○
添付情報
  登記原因証明情報        
登録免許税  金1,000円                  
不動産の表示 
 所   在  〇市〇町 ○○番地○   
 家屋番号   ○○番○
 種   類  居宅  
 構   造  木造スレート葺2階建
 床 面 積  1階 ○○・○○平方メートル
        2階 ○○・○○平方メートル
(2/3)登記申請書(一部省略)
登記の目的 所有権移転
原   因 令和〇年〇月〇日相続                   
相 続 人 (被相続人 夫(氏名)○○)
      (住所)○○○○
      (妻・氏名)○○
添付情報
  登記原因証明情報   住所証明情報   評価証明情報          
課税価格   金○○○円
登録免許税  金○○○円(税率は、0・4%)                  
不動産の表示 
 所   在  〇市〇町       
 地   番  ○番○
 地   目  宅地
 地   積  ○○・○○平方メートル
 (3/3)登記申請書(一部省略)
登記の目的 夫(氏名)持分全部移転
原   因 令和〇年〇月〇日相続                   
相 続 人 (被相続人 夫○○)
      (住所)○○○○
      持分〇分の〇
      (妻・氏名)○○
添付情報
  登記原因証明情報(前件添付) 住所証明情報(前件添付)          
移転した持分の課税価格   金○○○円
登録免許税  金○○○円(税率は、0・4%)                  
不動産の表示 
 所   在  〇市〇町 ○○番地○   
 家屋番号   ○○番○
 種   類  居宅  
 構   造  木造スレート葺2階建
 床 面 積  1階 ○○・○○平方メートル
        2階 ○○・○○平方メートル

まとめ:遺言書による相続登記

遺言書を自筆で作成する場合に注意する点は、遺言書が複数枚になる場合、割印が必要です。
なぜなら、遺言書が複数枚である場合、割印がないときは、遺言書全体を一体の遺言書とみなすことができないからです。ただし、登記所保管制度を利用する自筆証書遺言書の場合、登記所に提出する遺言書には、割印は必要ありません。
「不動産」を特定して「相続させたい」ときは、必ず、不動産を特定できるように書いておく必要があります。

相続登記や遺言書作成については、当司法書士事務所にご相談ください。

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