外国に居住する日本人の遺言書作成方法(遺産は日本)
外国に居住する日本人が、日本にある遺産(財産)について、遺言書を作成する場合、どういう方法がよいでしょうか。できるならば、一時、日本に帰国して日本にある公証人役場で公正証書遺言書を作成できればベストですが、事情によって日本に帰国できない場合もあるからです。
以下の内容のほかに海外在住日本人の遺言書作成は、どういう方式の遺言書がよいのか。を参考にしてください。
外国で遺言書を作成する場合、どういう遺言方式にすればよいのか
この場合の遺言書作成の方法は、①日本の法律にしたがって自筆証書で作成する方法と公正証書で作成する方法、②外国の遺言に関する法律にしたがって作成する方法があります。どちらを選択することもできます。
遺言の方式の準拠法に関する法律
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(準拠法)
第二条 遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。
一 行為地法
二 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
三 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
四 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
五 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法
外国の遺言に関する法律にしたがって作成する場合
②の外国の遺言に関する法律にしたがって作成する方法では、その外国の法律上有効な方法を確認する必要があります。この作成方法は、外国によって異なります。
日本でいうところの自筆証書の方式もあれば公正証書の方式もあります。また、自筆証書でも公正証書でも、外国語の遺言書を日本語に翻訳する必要があります。
②の外国の遺言に関する法律にしたがって作成する方法では、その外国の遺言に関する法律がどういうものであるのかを確認し、遺言書を日本語に翻訳する必要があること、相続手続きにおいて、いちいち外国の遺言に関する法律がどういうものであるのかを説明、証明しなければならないことを考えると、この方法は、難しいといえます。
次に、①の日本の法律にしたがって遺言書を作成する方法では、自筆証書による方法と公正証書による方法があります。
日本でいうところの自筆証書の方式で遺言書を作成する場合
自筆証書による方法では、すべて手書き(財産目録を除く)でする必要があり、相続開始後は、日本の家庭裁判所での遺言書検認手続が必要です。外国で自筆証書遺言書を作成する場合、日本における登記所の保管制度を利用できません。登記所の保管制度を利用するのであれば、日本に一時帰国するなどして、「本籍地」または「所有する不動産の所在地」を管轄する登記所に出向く必要があります。
特に、遺産を外国人に相続または遺贈させたい場合、遺言書を保管している外国人が、日本の家庭裁判所に検認手続きをする必要があります。ただし、後述しますように、外国で自筆証書遺言書(登記所の保管制度を利用しない)を作成した後、外国に生活の拠点があり、外国で死亡した場合、遺言書の検認手続ができず、その結果、この遺言書で相続手続ができないことになります。
検認手続きでは、法定相続人全員に通知され、その手続きに要する時間や戸籍謄本など揃える手間がかかりますので、難しいといえます。
遺言書検認手続の家庭裁判所の管轄は、次のとおりです。
家事事件手続法
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(相続に関する審判事件の管轄権)
第三条の十一 裁判所は、相続に関する審判事件(別表第一の八十六の項から百十の項まで及び百三十三の項並びに別表第二の十一の項から十五の項までの事項についての審判事件をいう。)について、相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき、住所がない場合又は住所が知れない場合には相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき、居所がない場合又は居所が知れない場合には被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く。)は、管轄権を有する。
家事事件手続法の規定から、「日本人(日本国籍を有する人)が、外国で日本の法律に従って自筆証書遺言書を作成していた場合で、日本に住所も居所もない場合(外国で完全に生活しているとき)は、日本の家庭裁判所で遺言書の検認手続ができないことになります。
このような場合、自筆証書遺言書で作成したとしても、日本の家庭裁判所で遺言書検認手続ができないことになりますので、作成した自筆証書遺言書で相続手続ができないことになります。
そこで、日本に一時帰国するなどして、日本の公証役場で公正証書遺言書を作成するか、帰国できない場合は、後述します外国にある日本の大使館・領事館で遺言書を作成した方がよいでしょう。
日本でいうところの公正証書の方式で遺言書を作成する場合
日本の法律にしたがって公正証書で遺言書を作成する場合、外国には日本の公証役場がありません。
ですが、外国にある日本の大使館または領事館で公正証書遺言書を作成することができます。
外国にある日本の領事館で、日本の公証人の職務を日本の領事が行うことになっています。(民法984条)
(外国に在る日本人の遺言の方式)
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第九百八十四条 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。この場合においては、第九百六十九条第四号又は第九百七十条第一項第四号の規定にかかわらず、遺言者及び証人は、第九百六十九条第四号又は第九百七十条第一項第四号の印を押すことを要しない。
こうして日本の領事館で遺言書を作成すれば、相続開始後、日本の家庭裁判所で検認手続をする必要がありません。
ただし、この場合であっても、立会人である証人2名が必要です。
領事館での費用はかかりますが、相続開始後の検認手続を考えれば、この方法がよいでしょう。
なお、遺言書を作成する場合、遺言執行者を指定するときは、遺産を相続する人や遺贈を受ける人(受遺者)を遺言執行者とすることができます。
弁護士や司法書士など専門家を遺言執行者にしなければならない、という決まりはありません。
遺産を相続する人や受遺者が遺言執行者であれば、自分で相続手続ができます。
もし、相続開始後に、自分で相続手続ができなければ、専門家を代理人として依頼することもできます。
次に、外国にある日本の大使館・領事館で遺言書を作成する方法について解説します。
外国にある日本の大使館・領事館で遺言書を作成する方法
遺言書を外国にある大使館や領事館で作成する場合、その領事が遺言書の作成について、必ずしも精通している訳ではありません。
領事は、基本的に、遺言者が事前に作成した遺言の内容(遺言書の原案)にしたがって、遺言書を作成します。実際に作成するのは、大使館・領事館の職員です。
遺言書の形式としては、日本の公証人役場で作成する遺言書と同じ形式で、民法規定の公正証書遺言の方式で遺言書の原案を作成します。なお、証人2名は、日本語を理解できる者でなければなりません。
民法(公正証書遺言)
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。(外国に在る日本人の遺言の方式)
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第九百八十四条 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事が行う。この場合においては、第九百六十九条第四号又は第九百七十条第一項第四号の規定にかかわらず、遺言者及び証人は、第九百六十九条第四号又は第九百七十条第一項第四号の印を押すことを要しない。
例えば、次のような文面です。
遺言公正証書
本職は、遺言者○○○○の嘱託により、平成○年○月○日、在○○○○日本国大使館において、民法第974条各号に該当しない者であることを確認した後記証人2名の立会をもって、次のとおり遺言者の遺言の趣旨の口授を筆記して、この証書を作成する。
遺言の趣旨
私、○○は、次のとおり遺言します。
(中省略)
本旨外要件
(住所)○○共和国・・・
(本籍)神奈川県横浜市中区・・・
(職業)会社役員
(氏名)遺言者 ○○
(生年月日)○年(昭和○年)○月○日生
(住所)○○
(職業)○○
(氏名)証人 ○○
(生年月日)○年○月○日生
(住所)○○
(職業)○○
(氏名)証人 ○○
(生年月日)○年○月○日生
本職は、前記遺言者に○○(パスポートなど)を提出させ、人違いでないことを証明させた。
本職は、遺言者及び証人にこの遺言公正証書を読み聞かせたところ、同人らはいずれもこの証書の筆記の正確であることを承認し、次に署名捺印する。
遺言者(氏名・署名) ㊞
証人 (氏名・署名) ㊞
証人 (氏名・署名) ㊞
本公正証書は、民法第969号第1号より第4号にかかげる方式に従い、平成○年○月○日、在○○日本国大使館において作成し、同条第5号に基づき、本職において次に署名捺印する。
(大使館の住所)○○
在○○日本国大使館
公館長(氏名・署名) (公印)
以上の内容で当事務所が遺言書の原案を作成(2015年・平成27年)